(どうすれば、この絵の中から出られるんだ……)
しかし、残念なことにアーサーの頭にはこれっぽっちもいい考えが浮かばなかった。
脱出方法を見つけるために、アーサーはとりあえず先に進んでみることにした。
(しばらく歩けば、「行き止まり」があるかもしれない)
アーサーは、絵の中に引きずりこまれるとき、一瞬だけ絵画を見ることができたのだが、そんなに大きいサイズの絵ではなかったのだ。ひょっとすると、絵の端に出口が有るのかもしれない、と考えたアーサーはとにかく前に進むことを考えた。
アーサーは、早歩きで大通りを進んだ。街の様子を観察してみると、アーサーの生まれ育った貧民街によく似ていた。完全に一致、というわけではないのだが、薄暗く、何か良くないものが潜んでいそうな雰囲気がよく似ていた。そのまま数メートル歩いたところで、アーサーは何かに気づいてピタリと歩くのをやめた。
〇●〇
大勢の通行人の中で、その金髪はかなり目立っていた。
二、三メートル先にいるあの女は、アーサーに背を向けていて、その存在に気づいていないようだった。
冷や汗がじっとりと背中を濡らした。無意識のうちに心拍数が上がり、呼吸が乱れたので、アーサーは気づかれないように呼吸を整えた。
アーサーが人陰に隠れて様子をうかがう一方で、金髪の女は、その長い髪をかき分けて、あたりを見渡していた。すると突然、何かに気づいた様子で、ある男の腕をつかんだ。その腕を掴まれた男の背格好は、アーサーにそっくりだった。
(あいつ、間違いなく俺を探している……!!!)
そう気づいたとき、アーサーは突然何者かに右足を強く引っ張られた。
「っ!!!」
アーサーは驚いて声が出なかった。
アーサーの足を掴んだ
それは、身体全体が肌色で、まるで人型の絵具の固まりだった。その肌は液体状にドロドロとしていて、見ているだけで背筋に冷たいものが流れた。ドロドロの絵具人形は、大きく丸く口を開けて、何かを訴えているようだった。
ボタッ ボタッ
それが口を開け閉めするたびに、褐色の液体が地面に落ち、ムワッとした油臭さがあたりに充満した。その液体をよく見ると、やはり絵の具のようだった。
それの口内には歯も舌もないので、言葉を全く話せていない。
獣のような、おどろおどろしい唸り声が辺りを包み込んだ。アーサーにはそれの意図が全く分からなかったが、何かを恨んでいるように感じた。
気味が悪いと感じたアーサーは、それを思いっきり蹴飛ばした。
べちゃっと地面にぶちまけられたそれは、それでもなお人型を保っていた。
(な、なんなんだ。この生き物は……)
アーサーはゾッとした。
すかさず走り出す。ここに長居してはいけない。理由は分からないのだが、とにかく長居してはいけないと、アーサーは直感でそう思った。