ジョージたちは数キロ先の山の麓まで、休憩を取らずに一気に駆け抜けた。
――麓から続く急な斜面を、進んでいく。
アーサーは乗馬が初めてだと言っていたが、ジョージよりも乗るのがうまかった。天賦の才というものだろうか。その生まれ持った身体能力の高さ目を見張るものがあった。
険しい山道を乗り越え、昼過ぎに別荘周辺にたどり着いた。あの招待状によると、どうやら別荘はジョージたちの目の前にうっそうと茂る雑木林を越えた先にあるらしい。
ジョージは木々の間から、それっぽい建物があるのを見た。
三人は馬から降りると、二頭とも安全な場所で待機させた。
顔をあげたジョージは、オリバーを見た。すると彼は、しきりに左の頬を気にしていた。見ると、ひっかき傷のようなものができていて、そこから大量に出血していた。
「木の枝で切ってしまったみたいだ」
オリバーは困ったように言った。
それをきいたジョージはすぐにカバンの中をあさり、白いハンカチを見つけると、彼に差し出した。
「いいんですか、こんな綺麗なハンカチをいただいて」
それを聞いたジョージは即答した。
「代わりならいくらでもある。そんなことよりも、君の傷が心配だ」
オリバーがハンカチで血に濡れた頬を抑えた。白地に真っ赤な血がじわりと広がった。
オリバーの出血が落ち着くと、三人は先に進むことにした。徒歩で木々の間を通り抜け、徐々に別荘に近づいて行った。
アーサーとオリバーは、ジョージよりも歩くのが早かった。自然にジョージは二人に置いて行かれる形になる。おそらくこの中で身体能力が一番低いのはジョージだろう。
一所懸命に足早で進むジョージの目の前を、勢いよく黒い何かが横切った。驚いて身を引くと、その拍子に顔の横を黒い何かがまた通る。
(頬に冷たい何かが通ったぞ……。血は出ていないようだ)
ジョージは急に恐ろしくなり、ぐるりとあたりを見渡した。
すると、二メートルほど後ろの低木に、黒い何かが止まっていた。それを見たジョージは、思わずため息を漏らした。
「……なんだ、カラスか……」
それは尾羽から嘴まで真っ黒だった。低木の上で器用に羽繕いをしている。ジョージがしばらくそれを見つめていると、カラスはピタリと繕うのを止め、くるりと顔をジョージに向けた。
――その目は、真っ赤に染まっていた。
「ひっ!!!」
ジョージが驚いて腰を抜かしてしまった。
カラスは大きな翼を広げ、青空に向かって羽ばたいて行ってしまった。一方でジョージは驚きと恐怖で動けずにいた。赤い目をしたカラスなんて、この世に存在するのだろうか。
(何だったんだ、今の)
夢か幻か。ジョージは一気に現実との境目があいまいになった。
「ジョージ!! 何してんだ!!!」
遠くのほうから聞こえるその声で、ジョージは一気に現実に引き戻された。声のほうを見ると、アーサーが雑木林を抜けようとしているところだった。オリバーもだいぶジョージの先にいた。
ジョージは急いで立ち上がり、二人を追いかけたのだった。