――ジョージが貧民街に到着して、数分後。
貧民街の路地裏に、数人の男が集まっていた。何やら不穏な雰囲気で、口元に怪しい笑みを浮かべ、ある人物を取り囲んでいる。彼らの手には、見る者を震え上がらせるような武器が掲げられている。その衣服は全てボロ雑巾のような代物で、キツイ悪臭を放っていた。
取り囲まれているのは、ジョージだった。壁際に追い込まれ絶体絶命の彼は、震える手で彼の荷物の端を握りしめた。その目に涙を浮かべている。
「……君らの目的は何だ?」
ジョージが震える声でそう聞くと、若い衆の中でおそらくリーダーだと思われる人物が答えた。
「そりゃ金に決まってるだろう、坊ちゃん。さっさとそのデカい荷物を俺らに寄越しな」
そう言った屈強な男は黒い顎髭を撫でた。
デカい荷物、と言うのはジョージの傍にある、四角い鞄のことだ。中に何が入っているのか彼以外誰も知らないが、大きさゆえに貧民街ではすぐに目をつけられてしまったようだ。
「これは……だめだ、絶対に渡せない」
ジョージは声を震わせているが、はっきりと言った。
「お前、バカか? 勝ち目のない状況でイキがるんじゃねーよ」
衆の一人が冷たく言い放った。それに続いてあらゆる罵詈雑言が一斉にその紳士に浴びせられたが、彼は微動だにしなかった。
「これは俺の友だちのものだ。絶対に譲れない」
それを聞くと、一味のリーダーは舌打ちをして言った。
「……それなら、力ずくで奪い取ってやる!」
男たちは殺気立って武器を構えた。それを見て覚悟を決めたのか、ジョージは鞄に覆い被さり、それから……
……思いっきり叫んだ。
「ひぃぃぃ! 助けてアーサァァァ!!」
その光景のなんと惨めなことか。
彼の喉が裂けるんじゃないかという絶叫が路地裏に響き渡った。
〇●〇
一方、路地の入り口には、先ほどまでいなかった人影があった。その人物は彼の叫び声を耳にすると瞬時に建物の影に身を潜め、様子を伺った。その視線は騒ぎの中心にいる金色の毛虫のような何かに向けられている。
(あれは……ジョージか?)
彼は驚いた様子で呟いた。その人だかりの中心でうずくまるその金髪の紳士はよく知る人物だったからだ。
「ったく、しょうがないやつだな」
小さな声でそう呟くと、彼は不敵な笑みをたたえその場で走り出した。
ジョージが恐怖に慄き目を固く閉じたとき、細い路地を軽快に駆け抜ける音、そして一味の短い悲鳴と共に鈍い打撃音が立て続けに聞こえた。
一瞬の出来事だった。
紳士が顔を上げたときには、その場で立ち上がる者は誰一人としていなかった、たった一人を除いて。
その人物は、先程ジョージが力の限り叫んで助けを呼んだ、アーサーという名の男だった。