(あっぶなかった)
カーソンが部屋を出て行ったあと、ジョージは冷や汗をぬぐった。
(まさかそこまでお見通しとは……)
ジョージは考えていたのだ。あの男とこの噂の絵画を探し出そうということを。
ジョージはあの噂を耳にしてから、夜眠れなくなっていた。心臓がドキドキして、まるで子供のころに戻ったみたいに好奇心が刺激されていた。あまりにも寝付けなくて、屋敷の中をグルグルと徘徊した。そのせいで一時期カーソン以外の使用人に本気で心配された。
話は変わるが、ジョージにはある弱点があった。
それは片方の耳が聞こえづらいということだ。
ある事故の後遺症。
もうジョージは受け入れてしまっているが、外に出て奇妙な探し物をするとなると心許なかった。
そのため、あの男に頼ろうと思ったのだ。
ジョージは座っていた椅子から立ち上がると、窓の外を眺めた。
ジョージが暮らしている田舎とは違う、あの丘の向こう側にある世界。
ロンドンの雑踏の中にある、誰も寄り付かない世界。
貧民街――そこに彼は暮らしていた。
ジョージには、彼を説得するある策があった。策と言っても、そんな大それたものではないのだが。
(明日の早朝、出発しよう)
ジョージは決心した。
明日にでも彼に会いに行こうと。
〇●〇
その晩、ジョージは寝ずに過ごした。寝坊したら困るからだ。
絵を描きながら馬車を待っていると、とうとう東の空が白んできたので、ジョージは出かける支度を始めた。当然カーソンたちは眠っているから、なんとなく自分で選んだ服を着こみ、そして最後に母の形見であるペンダントを首からぶら下げた。
部屋の窓を開けると、とても寒くてジョージは白い息を吐いた。月の光を反射して、ペンダントの宝石がきらりと光る。
目を凝らして外を見ると、馬車が待機していた。
(そうだ、あの絵も持って行かなくちゃ)
ジョージはその男に渡すと約束していた絵を数点まとめた。
(――さて、出発だ)
ジョージは分厚いコートをさっと羽織り、彼のもとへと出かけた。