「あの噂って、あの絵画の噂のことですか?」
「あぁ、そうだ!」
ジョージは目を輝かせ、前のめりになってそう答えた。
カーソンは顎に右手をあて、静かに思考を巡らせた。
「たしか、ある絵画に関わった人間が煙のようにいなくなるというものでしたよね」
「大筋はそんなもんかな。要約すると、ある洋館に人を喰う絵画があるらしい」
「三流小説家が書きそうな、ありふれたホラー小説の設定ですね」
カーソンは鼻を鳴らした。
「そんなこと言うなよ……」
ジョージは眉をハの字にして、しょんぼりとし、続けた。
「この絵画の作者は不明。収蔵場所はおろか、その絵画が何枚存在するのか知る者は誰もいないんだ」
「……ずいぶんと熱心なんですね」
カーソンは訝しそうにそう言って、続けた。
「それが真実だとしたら、絵画に出会った人がいなくなっているのに、なぜその絵画の存在が巷に広がっているのです?」
「それはおっしゃる通りなんだけどさ」
カーソンはため息をついてこう言った。
「ジョージさま、そんなことに気を遣う暇があるのでしたら、コンクールに集中してください。大学を中退してもう一年になりますよ! はやくコンクールで入賞して、何かしらの成果をお父さまにご報告しなければ」
(分かってるよ、カーソン……)
今度はジョージがため息を吐く番だった。
カーソンはこう続けた。
「事故の後遺症のこともありますし……。私は、心配しているんですからね!!」
「悪い悪い、ちょっとした冗談だよ、冗談!!」
ジョージは困ったように眉を下げて笑った。
カーソンとジョージは二つ違いの年齢差で、使用人と主人という身分の差はあれども兄弟のように育ってきた。カーソンはジョージのことを主人というより、手のかかる弟のように接している。
「まったく、ジョージさまったら……」
そうブツブツとつぶやくと、カーソンは部屋を出ていこうとドアの取っ手に手をかけた。
(ふぅ、危ない危ない)
ジョージは内心ヒヤヒヤしていた。この先の話を、カーソンにしなくて本当に良かったと胸をなでおろした。
笑顔で彼を見送っていると、カーソンは、くるりと振り返ると厳しい顔つきでこう告げた。
「そうだ、ジョージさま。その絵画を探すために、あの男の力を借りよう……なんて、考えてませんよね?」
――ギクリ!!!
ジョージの笑顔が強張った。
「そ、そんなわけないじゃないか!! もうあいつとは関わらないって約束しただろう」
「……ならいいんですけれど」
カーソンはそう呟くと、部屋をあとにした。