(よし、うまく描けたぞ)
目の前の赤い薔薇を見ながら、ジョージは一息ついた。
その花びらを一枚ずつ、陰影をつけながら描いていったので、ジョージの肩はかなり凝っていた。
部屋の中に油絵特有の匂いがこもっている。
ジョージは窓を開けて空気を入れ替えた。
(――執事を呼んで、肩を揉んでもらおう)
秋の乾いた空気を部屋に入れると、ジョージは呼び鈴を鳴らした。
〇●〇
「お呼びでしょうか、坊ちゃま」
一分もしないうちに、世話係の執事がジョージの部屋に訪れた。
「悪い、少し肩を揉んでくれないか?」
「承知しました」
執事は右目にかかった前髪を耳にかけ、白い手袋を外すと、ショージの肩に両手を置いた。
凝った肩をほぐしながら、執事は薔薇の絵に視線を移した。
「――今描いていらっしゃる絵は、今度のコンクールに出されるのですか?」
「あぁ、そうだ」
ジョージは間髪入れずに言った。
「自信作なんだ! 今度こそ入賞間違いなしだぞ」
ジョージは嬉々としていった。
「そうなのですね」
その主人の熱意とは裏腹に、執事はそっけなかった。
「……どうせ、また落選すると思ってるんだろう?」
「さぁ、どうでしょう」
執事は含みを持たせてにこりと笑った。
肩を揉み終わると、彼はなにかに気づいたようにジョージの髪を一房手に取った。
「ジョージさま、髪が乱れています」
「んぁ? 悪い、全然気付かなかった」
ジョージは午前中から一心不乱に絵を描いていたので、身だしなみに気を配る余裕がなかったのだ。
「……少しよろしいですか」
「あぁ」
そう答えるや否や、執事は手櫛で主人の髪を慣れた手つきで整え始めた。
するするとジョージの金髪を梳いていく。陽光で、その金髪がキラキラと光った。
梳き終わると、執事はそれでは、と部屋を去ろうとした。
「ちょっと、待ってくれ!!」
ジョージはグイと引き留めると、執事は目を丸くした。
「……どうしたのです?ジョージさま」
「……カーソン、あのさ」
ジョージは声を潜めてこう言った。
「あの噂って知ってるか?」