表示設定
表示設定
目次 目次




第4章~第4話 ネズミの楽園・ユニバース25④~

ー/ー



 ネコ先輩の迫真のパペット劇は、さらに熱を帯び始める。

 ◆

 3:広がる格差社会

 ナレーション:マウスたちの社会階層は世代を減るごとに大きくなっていき、5つのタイプに分けられるようになりました。

 ボス:地位が安定していて強い
 中堅:ボスよりも地位が不安定だが下剋上を狙う
 愛欲:異性・同性・年少者を問わず性行為を行う
 執着:立場は弱いものの異性に執着するストーカー気質
 隠居:引きこもりのニートマウス

 ナレーション:これは、人間社会でもよく問題視されるもので、幼い子を狙った犯罪、ストーカーによる事件、無気力で孤立した働かない人たちなど。まるで、人間社会の縮図のような現象が見られ始めました。これに加えて、先ほど話した凶暴化したメスによる児童虐待などによって秩序は崩壊。通常のマウスであるはずの個体も、社会構造は壊れたままでも餌や水は与えられるため、育児放棄されてニートマウスになった子供たちも育ち、親世代になると集団から離れ社会性を学ばなかったためか、そのままコミュニケーションも取らずに孤立し、発情しても、求愛のルールが分からず異性をストーカーのように追いかけ回し始めました。

 執着ネズミ:悶々……悶々……あふれる情欲をどうすれば……あっ、雌ネズミちゃんだ!
 雌ネズミB:うわ、ストーカーの弱者オスだ。キモッ……。

 ナレーション:そしてメスの中でも格差が生まれるようになります。強いボスのオスに囲まれている『富裕層』のメスは子育てをしっかりして死亡率は50%にとどまったものの、中堅に囲まれているだけの貧困層のメスは過密状態での子育てを強いられるため、巣作りが上手くできず、餌の確保に必死になるため子育てが滞りがちになり、子供を運ぼうとしても落としたり無視して放置する無関心なネグレクトも確認されます。放置された子供は愛欲や執着タイプに変貌したマウスに襲われて、死亡率は90%を超え

 金持ち雌ネズミ:快適な生活すぎワロタ
 貧困の雌ネズミ:物価高で苦しすぎ……エサもないし、子供は言うこと聞かないし、死にたい……

 ナレーション:やがて全てのネズミが無気力で何もしないニートマウスとなり、博士は活動しなくなった集団の状態をこう命名します。

 白衣姿のクマ:この状態を『行動的衰退(Behavioral sink)』と名付けよう。

 ナレーション:実験開始から560日後。マウスたちは出産しなくなり、個体数の増加は停止。600日後、死亡率が出生率を上回り、2200匹まで増えた数は減少傾向へ。920日後、最後の妊娠が確認されたものの生まれることなく、いよいよ実験開始から1780日後に、最後のオスが死亡。設備内の集団は完全に滅亡してしまった。

 最後の雄ネズミ:チュウ……楽園もこれでおしまいだチュ。

 ◆

 パタリと倒れて、ネズミのパペットは息絶えてしまった。

「―――と、このように楽園と考えられたコミュニティが崩壊に至った、と言うのがカルフーン博士の主張だ」

 巧みな(?)パペット劇で、実験の概要を解説したネコ先輩は、そう言って説明を締めくくる。

「なんか、怖い……」

「もし、これが、人間の社会にも当てはまったら……」

 九院さんと、佳衣子が続けざまに感想をつぶやく。

「なんだか、いまの日本社会を見ているみたいですね」

 私が感じたことをポツリ……と漏らすと、ネコ先輩は、「ほう……」と、目を細めて反応する。

「さすが、文筆家だけはあるね。ネズコくんは、この結果から、我が国との共通点を見出したんだね?」

「えぇ、衣食住が満たされていて、安全と言う点では日本も楽園のような国と言えるんじゃないですか? 働ける
人は食べるものに困らないし働けない人も充実した福祉の恩恵に預かることができる。平均寿命ランキングでも日本は世界トップレベルだし、これは充実した医療や福祉、犯罪数の少なさや衛生的で病気になりにくいことなどが理由にあげられていますよね?」

「ふむ……たしかに、そのとおりだ」

「でも、これだけ、長寿大国であるのに、その反面で出生数は年々低下していますよね? それに、この実験では、格差の拡大や育児放棄のネグレクト、無気力な若者の増加によってコミュニティが崩壊したってことですけど、日本でも少子高齢化や格差の拡大が指摘されています」

「うむ……たしかに、西暦2100年には、我が国の人口は約半分の6000万人になるとされているし、もしこのまま進めば日本人はある意味絶滅危惧種になるかもしれないねぇ」

 ここまで、私たちの社会の現状とユニバース25の実験の共通点を指摘すると、九院さんが、不安そうな表情で声を絞り出す。

「それじゃあ、やっぱり……」

 そんな彼女の表情を眺めながら、ネコ先輩はクラスメートの肩にポンと手を置く。

「まあ、そう暗い表情にならなくても大丈夫だ。なにを隠そう、ワタシにも、キミの従兄弟くんと同じ経験があってね。その時に、この『ユニバース25』と呼ばれる実験のことを色々と調べたんだ。そして、この実験と日本の未来を安易に重ねるのは多くの問題点があることがわかった。実は、この動物実験には、重大な欠陥がいくつもあるんだ」

 そして、彼女は、有名グルメ漫画の主人公みたいなことを付け加えた。

「明日の放課後、ワタシに付き合ってもらおう。キミたちに、()()()()()()()()姿()を見せてあげるよ」


スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 ネコ先輩の迫真のパペット劇は、さらに熱を帯び始める。
 ◆
 3:広がる格差社会
 ナレーション:マウスたちの社会階層は世代を減るごとに大きくなっていき、5つのタイプに分けられるようになりました。
 ボス:地位が安定していて強い
 中堅:ボスよりも地位が不安定だが下剋上を狙う
 愛欲:異性・同性・年少者を問わず性行為を行う
 執着:立場は弱いものの異性に執着するストーカー気質
 隠居:引きこもりのニートマウス
 ナレーション:これは、人間社会でもよく問題視されるもので、幼い子を狙った犯罪、ストーカーによる事件、無気力で孤立した働かない人たちなど。まるで、人間社会の縮図のような現象が見られ始めました。これに加えて、先ほど話した凶暴化したメスによる児童虐待などによって秩序は崩壊。通常のマウスであるはずの個体も、社会構造は壊れたままでも餌や水は与えられるため、育児放棄されてニートマウスになった子供たちも育ち、親世代になると集団から離れ社会性を学ばなかったためか、そのままコミュニケーションも取らずに孤立し、発情しても、求愛のルールが分からず異性をストーカーのように追いかけ回し始めました。
 執着ネズミ:悶々……悶々……あふれる情欲をどうすれば……あっ、雌ネズミちゃんだ!
 雌ネズミB:うわ、ストーカーの弱者オスだ。キモッ……。
 ナレーション:そしてメスの中でも格差が生まれるようになります。強いボスのオスに囲まれている『富裕層』のメスは子育てをしっかりして死亡率は50%にとどまったものの、中堅に囲まれているだけの貧困層のメスは過密状態での子育てを強いられるため、巣作りが上手くできず、餌の確保に必死になるため子育てが滞りがちになり、子供を運ぼうとしても落としたり無視して放置する無関心なネグレクトも確認されます。放置された子供は愛欲や執着タイプに変貌したマウスに襲われて、死亡率は90%を超え
 金持ち雌ネズミ:快適な生活すぎワロタ
 貧困の雌ネズミ:物価高で苦しすぎ……エサもないし、子供は言うこと聞かないし、死にたい……
 ナレーション:やがて全てのネズミが無気力で何もしないニートマウスとなり、博士は活動しなくなった集団の状態をこう命名します。
 白衣姿のクマ:この状態を『行動的衰退(Behavioral sink)』と名付けよう。
 ナレーション:実験開始から560日後。マウスたちは出産しなくなり、個体数の増加は停止。600日後、死亡率が出生率を上回り、2200匹まで増えた数は減少傾向へ。920日後、最後の妊娠が確認されたものの生まれることなく、いよいよ実験開始から1780日後に、最後のオスが死亡。設備内の集団は完全に滅亡してしまった。
 最後の雄ネズミ:チュウ……楽園もこれでおしまいだチュ。
 ◆
 パタリと倒れて、ネズミのパペットは息絶えてしまった。
「―――と、このように楽園と考えられたコミュニティが崩壊に至った、と言うのがカルフーン博士の主張だ」
 巧みな(?)パペット劇で、実験の概要を解説したネコ先輩は、そう言って説明を締めくくる。
「なんか、怖い……」
「もし、これが、人間の社会にも当てはまったら……」
 九院さんと、佳衣子が続けざまに感想をつぶやく。
「なんだか、いまの日本社会を見ているみたいですね」
 私が感じたことをポツリ……と漏らすと、ネコ先輩は、「ほう……」と、目を細めて反応する。
「さすが、文筆家だけはあるね。ネズコくんは、この結果から、我が国との共通点を見出したんだね?」
「えぇ、衣食住が満たされていて、安全と言う点では日本も楽園のような国と言えるんじゃないですか? 働ける
人は食べるものに困らないし働けない人も充実した福祉の恩恵に預かることができる。平均寿命ランキングでも日本は世界トップレベルだし、これは充実した医療や福祉、犯罪数の少なさや衛生的で病気になりにくいことなどが理由にあげられていますよね?」
「ふむ……たしかに、そのとおりだ」
「でも、これだけ、長寿大国であるのに、その反面で出生数は年々低下していますよね? それに、この実験では、格差の拡大や育児放棄のネグレクト、無気力な若者の増加によってコミュニティが崩壊したってことですけど、日本でも少子高齢化や格差の拡大が指摘されています」
「うむ……たしかに、西暦2100年には、我が国の人口は約半分の6000万人になるとされているし、もしこのまま進めば日本人はある意味絶滅危惧種になるかもしれないねぇ」
 ここまで、私たちの社会の現状とユニバース25の実験の共通点を指摘すると、九院さんが、不安そうな表情で声を絞り出す。
「それじゃあ、やっぱり……」
 そんな彼女の表情を眺めながら、ネコ先輩はクラスメートの肩にポンと手を置く。
「まあ、そう暗い表情にならなくても大丈夫だ。なにを隠そう、ワタシにも、キミの従兄弟くんと同じ経験があってね。その時に、この『ユニバース25』と呼ばれる実験のことを色々と調べたんだ。そして、この実験と日本の未来を安易に重ねるのは多くの問題点があることがわかった。実は、この動物実験には、重大な欠陥がいくつもあるんだ」
 そして、彼女は、有名グルメ漫画の主人公みたいなことを付け加えた。
「明日の放課後、ワタシに付き合ってもらおう。キミたちに、|こ《・》|の《・》|実《・》|験《・》|の《・》|本《・》|当《・》|の《・》|姿《・》を見せてあげるよ」