@7話
ー/ー
◆◇◆◇
「音色ちゃん、飲めるねぇ。おじさん楽しくなっちゃうよ。つまみも遠慮せず食べなさい。お腹に何か入れた方がいい」
おじさんの気遣いが余計に遠慮させる。食べ物はもちろんお酒だって贅沢できるはずはない。おじさんはそれを察したのか、
「おじさんだって極偶にだけど、外でお酒を飲んだりできる程なんだ、安い立ち飲み屋だけどな。だから遠慮はいらないよ」
そう言って残ったさんま缶を平らげると、新しい缶詰を開けた。
「ところで音色は……」
酔ってきたのか、春原さんから音色さん、音色さんから音色ちゃん、そして呼び捨てになった。音色も慣れない酒が回ってきてそんなことはどうでも良くなってきている。
「はい! 小春おひさん、なんでひょうか?」
地味で何の取柄もない音色だが、語学だけは誇れるものがあった。英語はもちろん中国語、韓国語とビジネスレベルで操れるが、今は日本語ですらおかしくなっている。
「音色はどうしてこんな所に来たんだ?」
その言葉が音色を現実に引き戻す。少し俯くと、小春も酔いが醒めたように『いいんだ、いいんだ。思い出したくないことは』と大慌てで繕う。
「私、彼氏に騙されたんです……会社の横領の犯人にさせられたんです」
左手で右側にあるグラスを手に取ると一口飲みこむ。おじさんのもてなしに心が緩んだのか、酒のせいなのか……一度口からこぼれ出た悔しさは、止めることはできなかった。
上から吊り下げられている電灯が大きく揺れた。
音色が勤めていた会社は革問屋だった。上水流八尋はそこのトップセールスマンで音色の彼氏でもあった。今思えば『イケメンの彼がなんでこんな地味な私なんかと付き合っていたのだろう?』と思う。その答えは……。
この会社は年二回行われる棚卸で在庫の確認と共にもう出ないであろう在庫の仕分けも行う。いわゆる『見切り品』を八尋は業者と結託して横流ししていた。そしてその結託業者からのキックバック、それらの伝票の承認印を八尋は、合鍵を持っている音色の判を勝手に使用していた。
着服した金は同様に勝手に音色の名前で作ったIDで電子マネーに換金し、使い込んでいた。
その特定の業者に税務調査が入って経費の不正計上が疑われ、現金の行方を追うと日付と金額が春原音色名義の電子マネーのIDと一致。八尋はまんまと音色に罪を着せたのだった。
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「おじさんだって極偶にだけど、外でお酒を飲んだりできる程なんだ、安い立ち飲み屋だけどな。だから遠慮はいらないよ」
そう言って残ったさんま缶を平らげると、新しい缶詰を開けた。
「ところで音色は……」
酔ってきたのか、春原さんから音色さん、音色さんから音色ちゃん、そして呼び捨てになった。音色も慣れない酒が回ってきてそんなことはどうでも良くなってきている。
「はい! 小春おひさん、なんでひょうか?」
地味で何の取柄もない音色だが、語学だけは誇れるものがあった。英語はもちろん中国語、韓国語とビジネスレベルで操れるが、今は日本語ですらおかしくなっている。
「音色はどうしてこんな所に来たんだ?」
その言葉が音色を現実に引き戻す。少し俯くと、小春も酔いが醒めたように『いいんだ、いいんだ。思い出したくないことは』と大慌てで繕う。
「私、彼氏に騙されたんです……会社の横領の犯人にさせられたんです」
左手で右側にあるグラスを手に取ると一口飲みこむ。おじさんのもてなしに心が緩んだのか、酒のせいなのか……一度口からこぼれ出た悔しさは、止めることはできなかった。
上から吊り下げられている電灯が大きく揺れた。
音色が勤めていた会社は革問屋だった。上水流八尋はそこのトップセールスマンで音色の彼氏でもあった。今思えば『イケメンの|彼《八尋》がなんでこんな地味な私なんかと付き合っていたのだろう?』と思う。その答えは……。
この会社は年二回行われる棚卸で在庫の確認と共にもう出ないであろう在庫の仕分けも行う。いわゆる『見切り品』を八尋は業者と結託して横流ししていた。そしてその結託業者からのキックバック、それらの伝票の承認印を八尋は、合鍵を持っている音色の判を勝手に使用していた。
着服した金は同様に勝手に音色の名前で作ったIDで電子マネーに換金し、使い込んでいた。
その特定の業者に税務調査が入って経費の不正計上が疑われ、現金の行方を追うと日付と金額が春原音色名義の電子マネーのIDと一致。八尋はまんまと音色に罪を着せたのだった。