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第二百五十一話

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 アタッシュケースを傍において、一服していた灰崎。京たちから一部始終を伝えられる……よりも前に、指さした先はホール上部に存在するモニター。その一部始終をあの場以外でも目撃していた証であった。
「……山梨から出てきた矢先にこれってのも、中々面倒だわ本当。分かっているとは思うが……このアタッシュケースのモード切り替えで変身できるバイク、最大二人なんだが……どうするつもりだ?」
 遠くに逃げるにも、行き先は不透明。そんな中で、周りの人間誰も信用できない状態に。バイクで移動は出来るだろうが……この内一人はどう移動するか。そういった懸念点山盛りな状況で、超VIPエリアに近づく昇降機の動きが視界隅で理解できた。三人は即座に身構える。
「中にいるのは……俺の関係者一人に女の子一人……それとボーイ一人だね」
 ドアが緩慢に開くと、そこから現れたのは……百喰と加賀美であった。百喰がボーイに多額のチップを渡しエリアに侵入すると、灰崎と同じアタッシュケースを持った加賀美は目を丸くしていた。
「え……何で百喰さん以外の教会支部長が……!?」
「あー……それにはちょーっと事情があるッつうかよ……今から語ることに嘘はねえから安心しな」
 呆れつつ頭を掻きながら加賀美と接する灰崎。そこでこの階層であったことを放そうとした、その時であった。
 京が、加賀美の後ろにいた百喰に、勢いよく飛び蹴りを叩き込む。土壇場で防ぐも、勢いよく壁に叩きつけられる百喰。
 異を唱えようとする加賀美であったが、灰崎はこれを制止する。少しの間ではあるが、京と接してきた灰崎は、彼が嘘を吐かない誠実な存在であることを認識している。結局のところ、以前口にした『英雄になりたい存在』と言う文言をそのまま信じている訳なのだが、このまとまった一件にてそれは確信に変わった。
「――灰崎君、皆を連れて今すぐ逃げた方がいい! こいつは、こいつだけは偽物だ!!」
 百喰は、『金に執着が無い』。そのため、チップだのなんだの、払うような性格ではない。元より、多少なりミニマリストの気があるため、財布の中身はか細いものである。
 そんな中で、『多額のチップを』『百喰』が支払っている状況は、どう考えてもおかしかったのだ。
「――流石ですね。観察眼はかなりのものです……群馬支部支部長、関東地方最強の支部長……京さん」
 擬態を解くと、その場に現れたのは――他でもない、来栖善吉。シームレスに、命の危機が迫っていたのだ。

 騙されていた加賀美は衝撃を受けながらも、皆に連れられ昇降機内へ入り込み、すぐに下層へ向かうべく動こうとしていた。
 善吉がノータイムで銃を撃ち放つも、灰崎が手に持つアタッシュケースを掲げることで弾く。
「あー、面倒ですね、実に面倒です……まあ、遅かれ早かれ……連中は野垂れ死にます。私のお膝元で、ゆっくりと死んでいくだけですから」
 気怠そうに昇降機を見送ると、その場には善吉と京のみが残る。張り詰めた空気感が、場を占有する。
「……少し見ない間に、『パテ』でも盛ったか? 家康の側に……何か妙なものを感じるよ」
「これまたご明察(Exactly)。千葉支部の現支部長代理の力……それを根こそぎ奪わせてもらいました。ネームバリューのあるとんでもないお人を抱えておきながら、戦いに向かない実に御しやすい人でした。残るはただの搾りかす同然、害にすらならないでしょう。強大な障害同然である英雄陣営を、時間をかけじっくりとなぶり殺しにする以外ないでしょうね」
 二人の間に、見えない圧力と殺意の衝突が生まれる。互いに構える訳でもないが、一歩でも踏み出せばすぐに殺し合いが始まる……それほどの一触即発状態が、拮抗していたのだ。
 しかし、しばらくにらみ合った後、善吉は肩を竦めた。
「――やめにしましょう。まだ、私は貴方に敵わなさそうですね。貴方ばかりは……もっと準備をしなければ、対等の関係にはなれなさそうですから」
「何が言いたい」
「とぼけないでくださいよ。これでも一上場企業の主なんですよ? 取引相手の素性程度は入念に調べますから」
 なぜあの時、グレープ・フルボディに現れたか。なぜ院たちを攻撃しなかったか。そしてなぜあの時、満身創痍状態にあった清志郎を攻撃しなかったか。
 その答えは、一見目を疑ってしまうほどに単純なものであった。

「――京、佑弐郎。貴方は……瀧本信一郎率いる数名の英雄集団、俗称『原初の英雄』……その一人として、一度瀧本信一郎と敵対したこともある――『稀有な存在』であることは……もちろん知っていますから」



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 アタッシュケースを傍において、一服していた灰崎。京たちから一部始終を伝えられる……よりも前に、指さした先はホール上部に存在するモニター。その一部始終をあの場以外でも目撃していた証であった。
「……山梨から出てきた矢先にこれってのも、中々面倒だわ本当。分かっているとは思うが……このアタッシュケースのモード切り替えで変身できるバイク、最大二人なんだが……どうするつもりだ?」
 遠くに逃げるにも、行き先は不透明。そんな中で、周りの人間誰も信用できない状態に。バイクで移動は出来るだろうが……この内一人はどう移動するか。そういった懸念点山盛りな状況で、超VIPエリアに近づく昇降機の動きが視界隅で理解できた。三人は即座に身構える。
「中にいるのは……俺の関係者一人に女の子一人……それとボーイ一人だね」
 ドアが緩慢に開くと、そこから現れたのは……百喰と加賀美であった。百喰がボーイに多額のチップを渡しエリアに侵入すると、灰崎と同じアタッシュケースを持った加賀美は目を丸くしていた。
「え……何で百喰さん以外の教会支部長が……!?」
「あー……それにはちょーっと事情があるッつうかよ……今から語ることに嘘はねえから安心しな」
 呆れつつ頭を掻きながら加賀美と接する灰崎。そこでこの階層であったことを放そうとした、その時であった。
 京が、加賀美の後ろにいた百喰に、勢いよく飛び蹴りを叩き込む。土壇場で防ぐも、勢いよく壁に叩きつけられる百喰。
 異を唱えようとする加賀美であったが、灰崎はこれを制止する。少しの間ではあるが、京と接してきた灰崎は、彼が嘘を吐かない誠実な存在であることを認識している。結局のところ、以前口にした『英雄になりたい存在』と言う文言をそのまま信じている訳なのだが、このまとまった一件にてそれは確信に変わった。
「――灰崎君、皆を連れて今すぐ逃げた方がいい! こいつは、こいつだけは偽物だ!!」
 百喰は、『金に執着が無い』。そのため、チップだのなんだの、払うような性格ではない。元より、多少なりミニマリストの気があるため、財布の中身はか細いものである。
 そんな中で、『多額のチップを』『百喰』が支払っている状況は、どう考えてもおかしかったのだ。
「――流石ですね。観察眼はかなりのものです……群馬支部支部長、関東地方最強の支部長……京さん」
 擬態を解くと、その場に現れたのは――他でもない、来栖善吉。シームレスに、命の危機が迫っていたのだ。
 騙されていた加賀美は衝撃を受けながらも、皆に連れられ昇降機内へ入り込み、すぐに下層へ向かうべく動こうとしていた。
 善吉がノータイムで銃を撃ち放つも、灰崎が手に持つアタッシュケースを掲げることで弾く。
「あー、面倒ですね、実に面倒です……まあ、遅かれ早かれ……連中は野垂れ死にます。私のお膝元で、ゆっくりと死んでいくだけですから」
 気怠そうに昇降機を見送ると、その場には善吉と京のみが残る。張り詰めた空気感が、場を占有する。
「……少し見ない間に、『パテ』でも盛ったか? 家康の側に……何か妙なものを感じるよ」
「これまた|ご明察《Exactly》。千葉支部の現支部長代理の力……それを根こそぎ奪わせてもらいました。ネームバリューのあるとんでもないお人を抱えておきながら、戦いに向かない実に御しやすい人でした。残るはただの搾りかす同然、害にすらならないでしょう。強大な障害同然である英雄陣営を、時間をかけじっくりとなぶり殺しにする以外ないでしょうね」
 二人の間に、見えない圧力と殺意の衝突が生まれる。互いに構える訳でもないが、一歩でも踏み出せばすぐに殺し合いが始まる……それほどの一触即発状態が、拮抗していたのだ。
 しかし、しばらくにらみ合った後、善吉は肩を竦めた。
「――やめにしましょう。まだ、私は貴方に敵わなさそうですね。貴方ばかりは……もっと準備をしなければ、対等の関係にはなれなさそうですから」
「何が言いたい」
「とぼけないでくださいよ。これでも一上場企業の主なんですよ? 取引相手の素性程度は入念に調べますから」
 なぜあの時、グレープ・フルボディに現れたか。なぜ院たちを攻撃しなかったか。そしてなぜあの時、満身創痍状態にあった清志郎を攻撃しなかったか。
 その答えは、一見目を疑ってしまうほどに単純なものであった。
「――京、佑弐郎。貴方は……瀧本信一郎率いる数名の英雄集団、俗称『原初の英雄』……その一人として、一度瀧本信一郎と敵対したこともある――『稀有な存在』であることは……もちろん知っていますから」