「――ご丁寧に、その支部の抱える大罪を、シーズナルな名前の一部に加えているのか。役作りにもご執心なことだ」
京が重役の死体ばかりの会議室に居ることを確認すると、これまでにないほどの歪んだ笑みでカメラを見つめる善吉。
『あれだけ関わるのはこれっきりだ、だなんて仰っていたのに……運命と言うものは実に気まぐれですね。今や賊軍の一人として戦う覚悟を決めたのでしょうか』
「誰が賊軍だ。悪いが、俺がいる限りこっちが官軍であることに変わりないぞ」
『――まあ、それに関しては認めましょう、群馬支部の長、京さん。ですが……これはどうでしょう』
ある小型リモコンを操作すると、監視カメラの映像の一部が切り替わり、ある映像が映し出される。そこに映っていたのは、
流浪の獣とは一切関わりの無い者たちが、共通の面を付け大衆を襲う映像であった。
「――お前、ご丁寧にあんだけ大衆を洗脳した、って訳かよ。以前託児サービスもやっていたらしいが……お前が治める五斂子社って
王国は、世界に羽ばたく企業だ何だとほざきながら、あんな半グレもどきすら支えるサービスの対象になったのか。随分と落ちぶれたこった」
『元暴と呼ばれる社会の膿同然の存在を有効活用した、と言って欲しいですね。現に、この日本において反社会的勢力から足を洗おうとしている人間を阻害する条例たる、『元暴五年条項』が存在します。彼らは何とか脱却しようと……私に仕事をねだっただけに過ぎません。正当な報酬も支払っていますので』
しかし、その仕事の流し方は、新たな反社会的勢力を生み出す流れであった。匿名SNSサービスを利用し、名も姿も知らぬ者たちが一人の
指導者の下に集い、あらゆる汚れ仕事を行う……いわば『トクリュウ』と呼ばれる存在であった。
詐欺行為や違法風俗店経営など、様々な犯罪行為を行う。その中で、メンバー同士に絆と言うものは欠片も存在しない。誰かが捕まると蜘蛛の子を散らすように皆我関せず、と言う状態を貫く。そのため、元締めを叩かない限り無限に集い、無限に無差別犯罪行為を行う。
しかも、その面子が二人にとって驚きの正体であった。皆の背丈は、到底大人とは思えないほど小柄であった。そんな存在が、無差別に人を襲っている。まさに、悪夢そのものであった。
「う、そ……子供が……犯罪だなんて……」
「――お前、落ちるところまで落ちたな。元からいけ好かない野郎だとは思っていたが……性根がとことん腐り落ちた、正真正銘の下種野郎であることに変わりねえよ」
『昨今、子供はビジネスの元として役立つのは……みなさんご存じでしょう。そうでないと、弱い存在を酷く嫌う私が、子供絡みの条例などを山梨で発布していません。少年法で守られた、最高の駒の出来上がりです』
それ以上、多くを語らない善吉。
その断片的な映像で、少しでも判断材料を増やそうと努力する京であった。
まず、それぞれのトクリュウたちは、齢にして推定八歳から十二歳まで。表情を窺い知ることはできないが、恐らくそれぞれが善吉の洗脳を間接的に受けている。子供である以上、純朴であるため深く催眠が入り込みやすい。
さらに、子供にとっては大金である数千円から数万程度のはした金を握らせておけば、ある程度動ける機動力の高い駒として働いてくれる。異を唱える者は存在せず、流浪の獣がちっぽけに思えるほどの統率力で蹂躙する。そしておそらく、動きが手馴れているために戦闘技法も洗脳によって
吸収済み。英雄も簡単に手出しできない、最悪の兵隊である。
『――ああ、そうだ。これはあくまで談笑の域に入るのですが……』
そこで少しばかりのノイズが入り込み、映像が若干ではあるが途切れ途切れになる。その通信状況の悪さに多少なり違和感を抱く京であったが、すぐにその
異常は治る。
『こちらの新聞記事、ご存じでしょうかね』
提示されたのは、数日前から千葉県の新聞にて報じられている、『少年少女の誘拐事件が千葉県各地で多発している』旨の記事である。その被害人数は、ざっと数十人に上る。あまりにもの被害人数に、地域住民は震撼していた。
『その次がこちら。新聞社に何者かがタレこんだようです』
その内容は、『誘拐された被害者のうち、六割ほどが東京デスティニーアイランドに直近で向かっていた』との内容。一見すると一つ前の記事よりも、内容が大したことが無いように思える記事であるが、京と千尋は既に脳内に一つの仮説が出来上がっていた。
京はある程度彼と喋ったこともあるため、すぐに辿り着いたのだが、千尋はこれまで大した接点もない中で、怒気を滲ませながら映像を睨みつけるのだ。
『――何です、二人揃って? とても、怖い顔をしていらっしゃる』
わざとらしく震えてみせるも、その表情は実に醜悪。堪えきれずに、性根の悪い嗤いがこぼれるほどであったのだ。眼鏡の奥で光る眼光は、暗に自分が、『そう』であることを示すようであった。
「――お前が、やったのか」
『
ご名答! 匿名での情報のタレコミも、子供たちの誘拐も! 千葉支部の失墜のために……私と一部面子によって行ったことですよ!』
悪びれる様子もなく、実に楽しげな様子で二人を嗤う善吉。まるで、愉快なことがあった後の子供のようであった。
『――まあ、それ以外のこともやりましたよ。流浪の獣と言う存在を利用しながら……おっと、唐突ではあるが時間のようですね』
「待て、まだお前には聞きたいことが――――」
わざとらしく手を振りながら、映像を乱暴に切断する。画面の向こう側で怒り心頭状態の京たちをおちょくるように、去り際すら演出して。
そんな中、事態は悪い方へ傾き始める。映像が再び切り替わると、千葉県ローカルのニュース画面に切り替わる。
『只今入ったニュースです。謎の子供の暴走事件に関係しているとして、千葉県警主導でこちらの三名が臨時指名手配となりました。現在も千葉県内にて逃亡しているとのことですので、県民の皆さんは外出する際鉢合わせにならないよう注意してください』
そこで映し出されたのは、京、千尋、灰崎の三人。それぞれ懸賞金は一千万。映像や写真提供であったとしても、同額が支払われるようであった。
「アタシたち……お尋ね者になっちゃったのか」
「――まだ、状況としては最悪じゃあない。奴も……俺らが厄介に思った結果だろう」
来栖善吉は基本的に効率を最重視する。その中で、わざわざ端役のような存在に人員を割いて、その端役を殺すだなんてことはしない。あくまで蟻以下の存在として、見下し続けるだけ。これは慢心などではなく、あくまで認識はしており、少しでも危険因子となった瞬間に目障りになったため消す……と言うだけである。
そんな善吉が、流浪の獣に少しかかわっただけで、最初から指名手配し首を求めるほどに三人を追っている。未だ事件の核心や当人の所在地が分かっているわけではないが、これは大きな一歩であった。良くもないのだが。
「――とりあえず、灰崎君を迎えに行こう。このホテルに居座る理由は無くなった。流浪の獣は半壊滅状態になった……と考えて、逃げ回りながら次の一手を考えるべきだ」
千尋は、少し逡巡するも、黙って頷いてカジノエリアに走って戻るのだった。