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第3節 死線を越えるプラン/ §1

ー/ー



   ―セクション1―

 高次犯罪対策室の仮眠室――と言っても、利用するのは二名だけだが――で、大杜が目を開けたとき、辺りは真っ暗で、一瞬状況を理解できなかった。

 ゆっくりと思考が追い付いてくる。昨日の事、一昨日の事、三日前、四日前――

 時刻を確認すると、七時を回ったところだ。真っ暗なのは遮光カーテンが引かれていたからで、もう日が昇っている時間だ。

 大杜はベッドから降りた。体が一瞬ふらつくのを、暗がりから伸びてきたアイビーの腕が支えた。

「居たんだ」

「ああ。私は見守りロボットだからな」

「今は違うだろ。そんなおっきな見守りロボット連れ歩いてたら、目立って仕方ない」

 大杜が軽口を叩くと、アイビーが頭を撫でた。

「そうだな。今君は私のボスだ」

「思ったことないくせに……」

 大杜はぼやきながら、うーんと伸びをした。途端にあちこち痛めていたことを体で思い出す羽目になり、苦痛にうずくまる。

「大丈夫か?」

「……大丈夫じゃない。はぁ、今度研矢にケーキでも奢ってもらわなきゃ、割りに合わないよ」

「ケーキごときで割りに合うのか。安いな」

「それもそうか」

 大杜は笑うと、カーテンを開けるボタンを押す。鈴栄ビルの最上階の見晴らしは絶景で、白々とした光が差し込んでくる。

「いい天気だね」

「雨男が近くにいないからな」

 大杜は笑う。

「昨日の雨風はひどかったよ。まぁだからこそ星矢がヘリを断念して捕まえる余地ができたんだけど」

「そうらしいな。――体は軽く拭いて服は着替えさせておいたが、一度自分でシャワーを浴びた方がスッキリするだろう」

「うん。それから朝ごはん食べに行こ」

 大杜は体の痛みに耐えながらなんとかシャワーを終えると、アイビーをともなって、鈴木栄光警備保障の社員食堂へ向かった。

 鈴栄ビルの最上階から三階分は高犯対のエリアで、そこには地下駐車場直結のエレベーターしかないため、大杜は階段で三階分降りたのち、鈴栄サイドのエレベーターに乗り換えた。

 早朝だったが、二十四時間稼働している食堂には、それなりに人がいた。

 大杜は和食のモーニングセットを頼んで隅のテーブルに座る。

「なんか久しぶりだな。こういうご飯食べるの」

「ここのところ、病院食やら、移動しながらのコンビニ弁当とかが続いたからな」

「うん。早く、落ち着いてご飯が食べられる状況になって欲しいな」

 モーニングメニューを平げ、缶コーヒーでも買おうと席を立った時、大杜のスマートフォンが電話の着信を告げた。発信元は武朗だ。

 嫌な予感がした。急ぎでなければメッセージで良いはずだからだ。

 大杜は恐る恐る通話ボタンを押した。

「武朗、おはよう。――どうかした?」

『ニューラインズで、警備用のヒューマン型ロボットが制御不能になっていると報告があった。上空に、所属不明のヘリが飛んでるようだから、須藤か、須藤の仲間が、上空から視界に捕らえてリンクを使用した可能性がある。――お前のところの飛行タイプを向かわせてくれ。俺はMatsuQビルにいるから、俺もすぐに向かう』

「向かわせるのはいいけど、自衛隊機は? 遭遇して、うちのロボットを未確認機扱いで撃墜したりしない?」

『するか。そもそもうちの部隊は送れない』

「どうして?」

『須藤や犯罪グループを殺すなら構わないけどな。捕まえるんだろ。戦闘機向かわせて何するんだ』

「それもそうか」

 大杜は首をすくめた。

「うちの所属の二体を、ひとまず向かわせるよ」

『ああ。頼む』

「それから俺も今からニューラインズへ行く」

『わかった。正門前で落ち合おう』

 通話が途切れる予感に、大杜は慌てて止めた。

「待って! 武朗朝ごはん食べた?」

『いや、それどころじゃないだろ』

「いや、ご飯は大切だよ! 手早く食べられそうなの、何か持っていくから。何か希望ある?」

「……」

「あ、いやでも、腹が減っては戦はできぬって言うし」

 そのとき、通話口の向こうから、腹の虫の鳴く音が聞こえた気がした。

『……菓子パン、山ほど持ってこい。山ほどだぞ』

「了解」

 大杜は笑いを噛み殺しながら、通話を切った。



 大杜がアイビーとアキレアを伴い、八巻技研の新工場であるニューラインズの正門前へ着いたとき、武朗は不機嫌そうに塀にもたれ掛かっていた。

 広大な敷地の研究所兼工場は、外周を高い塀が取り囲んでいる。

「研矢は?」

 大杜が聞きながら、手提げ袋を広げて見せると、武朗はチョコの挟んだフランスパンを手にした。

「引き続き、ライスチップが組み込まれてるYとQの洗い出し中」

「そっか。二人とも夜通しありがと。俺だけゆっくり休んでごめんね」

「……体調は少しは戻ったのか」

「うん。随分まし。ケガの方は早々治りはしないけど、能力を使った影響は、大分解消したと思う」

「ならいい。チームで動くなら各々が得意分野を活かすのが一番だ。お前の休息はお前が自分の力を発揮するために必要なものだから、これからはいちいち礼や謝罪はいらない」

「そっか。うん、でも……」

「何だ?」

「俺は人間と行動することが少ないから――やっぱり申し訳ないし、うれしいし、言っちゃうと思う。これからも」

 武朗は呆れた様な顔をしたのち、薄く笑った。

「まぁ、なら、全員がゆっくり休めるよう、早く終えるしかないな」

 武朗はカフェオレでパンを流し込んだ。

「タケロウはヘリで来たのか?」

 アイビーの問いに、武朗は首を振る。

「いいや、こうも晴れて見通しが利くと、撃ち落とされかねない。念のため、MatsuQでバイクを借りてきた」

 武朗が振り返って示す先に、赤いボディのバイクが止まっていた。

「え、なんでバイクの免許持ってるの?」

「俺は四月生まれ――というか、俺は車両全般運転できる免許を持ってる。ちなみに、ヘリも戦闘機も一応操縦できるからな」

「うそ!」

「うちはスパルタなんだ。基本なんだって自分でする必要がある。お前のところみたいに過保護じゃないぞ」

「……反論できない」

 大杜は苦笑いを浮かべる。

「でもヘリでなくてよかったかもね。本当に撃ち落とされてたかも」

「ああ」

 武朗が中に入らずに門にもたれ掛かっているのは、サボっているわけでも、腹が減り過ぎて何もしたくなかったわけでもなく、物理的に入られなかったからだった。

「威嚇じゃないよね」

「だろうな」

 門の奥の方で、大型の銃器を構えた警備ロボットが大量に並んでいるのが見える。入ってくれば撃つぞ、ということだろう。

 自分たちが狙われるだけならともかく、周辺に工場が立ち並ぶ地域だ。見たところ中距離の武器もある。飛んでいった先で、どんな被害が出るかわからない。

「制御不能って、これらのロボットのことだよね?」

 大杜は武朗が小ぶりなメロンパンを一口で放り込み、無事に飲み込んだのを見届けてから聞く。

「ああ。研矢の調べでは、一ヶ月ほど前にここに弓佳が出現しているらしい。ハッキングやシステムの書き換えはまだ確認できてないが、まぁ現状を見ればクロだろう」

「人間の従業員は? ゼロではないよね?」

「人間は研究所エリアに数十人しかいなかったから、早々に避難済みだ。ニューラインズもプロフューと同じで、工場エリアはほぼ業務ロボット。この敷地内で、どれだけの数のロボットにライスチップが組み込まれているかは想像もつかない」

 武朗は思わせぶりに大杜に視線をやった。

「上層部から、これ以上大事(おおごと)にならないよう――世間に知られないよう、静かに対処しろと命令があった」

 大杜は頷く。

「うちも同じようなものだよ。ロボットが操られるなんてことは知られたくないって――そりゃまぁそうなんだけどさ。とにかく、情報を拡散しないために高犯対だけで対応しろって指示があったところ。とうさ――副室長が無理言うなとカリカリしてる」

 紀伊国が上からの指示と大杜への心配とに挟まれて、気苦労していることに心が痛む。

「犯人は須藤だった?」

「飛行タイプの男の方がさっき報告に降りて来たが、ヘリには須藤が乗っているらしい」

「そう。でもこんなところで何をしたいのかな。取り引き?」

 上空のヘリは敷地内を旋回しているが、目的が何かは不明なままだ。

「国に脅しをかける準備でもしているのかもな。ここの技術やロボットが欲しいだけなら盗めばいい。こんな騒ぎは起こさないだろうからな」

「うん。でもさ……八技って普通の民間企業だよね? なんでアサルトライフルやマシンガンなんてあるの……?」

 大杜が疑問に思うのは当然だった。ロボット達が持つ武器は、そうそう手に入るものではない。紛争地でもないのだから。

 武朗は新しいパンの袋を開けかけて、手を止めると、意味ありげに大杜を見下ろす。

「八技は防衛省御用達。――これ以上は追及しない事を勧めるが、どうしても聞きたければ、俺の知ってる範囲で教えてやる。命を掛けてるのに、知りたい事を知らされないのはフェアじゃないからな」

 武朗は、大杜の病室でも同じことを言っていた。命を預けることになるかもしれないのに、能力のことを知らされないのはフェアではないと。

 彼の中には信念があるらしい。

 大杜は少し考えてから首をすくめて見せた。
 
「武朗ってさ、根が優しいよね」

 大杜は溜め息を吐いた。

「いい。聞かないでおく」

 聞けばきっと腹も立つのだろうし、紀伊国の立場を危うくするかもしれない。何より、しゃべってしまった武朗が罰を受けるかもしれない。

 彼はその覚悟で教えてやると言っているのだろうが、大杜はもう、正義だけを信じて、ロボットヒーローに憧れる子供ではない。

(世界が正義に満ちているなんて、別に思ってもいない。今は自分のやるべき事をやるだけ――)

 余計な情報は入れないに限る。

「とりあえず、目の前の事態を収めよう。思考の制御を受けてるロボットと接触したい。それも制御を受けている最中のものを」

「無茶を言う」

「でもそうでないと的確に動きを止められない」

「逆に、制御を受けている最中のものを分析できれば、全部止められると言うわけか?」

 ライスチップがどれだけ出回っているかはわからないが、全てに影響を与えられると言うことであれば、ここでの収穫はとても大きいものになる。

「うん。構造が同じものは全て壊せるようになるよ」

「なら、やるしかないな」

 武朗は上空を見上げる。

 ケリアとダスティはヘリに近づけず、滞空している。ヘリに近付き、須藤を刺激して、門の外に向けられている武器を使用されることがあってはいけないからだ。

「連中の目を掻い潜って、俺たちで中に侵入するか。――アイビーと……アキレアだったか。お前らはここで奴らの注意を引き続けろ」

 大杜の命令ではないので、アキレアが明らかにムッとした様子で睨む。

「アキレア、頼んだよ」

 大杜が慌ててフォローすると、彼女は静かに敬礼した。

「ラジャ」

「――アイビー」

「わかっている。タケロウの指示に従おう。だが、タケロウ、タイトに無理をさせるな」

「――本人が勝手にする分までは保証できないが」

 武朗はそう言うと、最後のパンを口に放り込んだ。




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 高次犯罪対策室の仮眠室――と言っても、利用するのは二名だけだが――で、大杜が目を開けたとき、辺りは真っ暗で、一瞬状況を理解できなかった。
 ゆっくりと思考が追い付いてくる。昨日の事、一昨日の事、三日前、四日前――
 時刻を確認すると、七時を回ったところだ。真っ暗なのは遮光カーテンが引かれていたからで、もう日が昇っている時間だ。
 大杜はベッドから降りた。体が一瞬ふらつくのを、暗がりから伸びてきたアイビーの腕が支えた。
「居たんだ」
「ああ。私は見守りロボットだからな」
「今は違うだろ。そんなおっきな見守りロボット連れ歩いてたら、目立って仕方ない」
 大杜が軽口を叩くと、アイビーが頭を撫でた。
「そうだな。今君は私のボスだ」
「思ったことないくせに……」
 大杜はぼやきながら、うーんと伸びをした。途端にあちこち痛めていたことを体で思い出す羽目になり、苦痛にうずくまる。
「大丈夫か?」
「……大丈夫じゃない。はぁ、今度研矢にケーキでも奢ってもらわなきゃ、割りに合わないよ」
「ケーキごときで割りに合うのか。安いな」
「それもそうか」
 大杜は笑うと、カーテンを開けるボタンを押す。鈴栄ビルの最上階の見晴らしは絶景で、白々とした光が差し込んでくる。
「いい天気だね」
「雨男が近くにいないからな」
 大杜は笑う。
「昨日の雨風はひどかったよ。まぁだからこそ星矢がヘリを断念して捕まえる余地ができたんだけど」
「そうらしいな。――体は軽く拭いて服は着替えさせておいたが、一度自分でシャワーを浴びた方がスッキリするだろう」
「うん。それから朝ごはん食べに行こ」
 大杜は体の痛みに耐えながらなんとかシャワーを終えると、アイビーをともなって、鈴木栄光警備保障の社員食堂へ向かった。
 鈴栄ビルの最上階から三階分は高犯対のエリアで、そこには地下駐車場直結のエレベーターしかないため、大杜は階段で三階分降りたのち、鈴栄サイドのエレベーターに乗り換えた。
 早朝だったが、二十四時間稼働している食堂には、それなりに人がいた。
 大杜は和食のモーニングセットを頼んで隅のテーブルに座る。
「なんか久しぶりだな。こういうご飯食べるの」
「ここのところ、病院食やら、移動しながらのコンビニ弁当とかが続いたからな」
「うん。早く、落ち着いてご飯が食べられる状況になって欲しいな」
 モーニングメニューを平げ、缶コーヒーでも買おうと席を立った時、大杜のスマートフォンが電話の着信を告げた。発信元は武朗だ。
 嫌な予感がした。急ぎでなければメッセージで良いはずだからだ。
 大杜は恐る恐る通話ボタンを押した。
「武朗、おはよう。――どうかした?」
『ニューラインズで、警備用のヒューマン型ロボットが制御不能になっていると報告があった。上空に、所属不明のヘリが飛んでるようだから、須藤か、須藤の仲間が、上空から視界に捕らえてリンクを使用した可能性がある。――お前のところの飛行タイプを向かわせてくれ。俺はMatsuQビルにいるから、俺もすぐに向かう』
「向かわせるのはいいけど、自衛隊機は? 遭遇して、うちのロボットを未確認機扱いで撃墜したりしない?」
『するか。そもそもうちの部隊は送れない』
「どうして?」
『須藤や犯罪グループを殺すなら構わないけどな。捕まえるんだろ。戦闘機向かわせて何するんだ』
「それもそうか」
 大杜は首をすくめた。
「うちの所属の二体を、ひとまず向かわせるよ」
『ああ。頼む』
「それから俺も今からニューラインズへ行く」
『わかった。正門前で落ち合おう』
 通話が途切れる予感に、大杜は慌てて止めた。
「待って! 武朗朝ごはん食べた?」
『いや、それどころじゃないだろ』
「いや、ご飯は大切だよ! 手早く食べられそうなの、何か持っていくから。何か希望ある?」
「……」
「あ、いやでも、腹が減っては戦はできぬって言うし」
 そのとき、通話口の向こうから、腹の虫の鳴く音が聞こえた気がした。
『……菓子パン、山ほど持ってこい。山ほどだぞ』
「了解」
 大杜は笑いを噛み殺しながら、通話を切った。
 大杜がアイビーとアキレアを伴い、八巻技研の新工場であるニューラインズの正門前へ着いたとき、武朗は不機嫌そうに塀にもたれ掛かっていた。
 広大な敷地の研究所兼工場は、外周を高い塀が取り囲んでいる。
「研矢は?」
 大杜が聞きながら、手提げ袋を広げて見せると、武朗はチョコの挟んだフランスパンを手にした。
「引き続き、ライスチップが組み込まれてるYとQの洗い出し中」
「そっか。二人とも夜通しありがと。俺だけゆっくり休んでごめんね」
「……体調は少しは戻ったのか」
「うん。随分まし。ケガの方は早々治りはしないけど、能力を使った影響は、大分解消したと思う」
「ならいい。チームで動くなら各々が得意分野を活かすのが一番だ。お前の休息はお前が自分の力を発揮するために必要なものだから、これからはいちいち礼や謝罪はいらない」
「そっか。うん、でも……」
「何だ?」
「俺は人間と行動することが少ないから――やっぱり申し訳ないし、うれしいし、言っちゃうと思う。これからも」
 武朗は呆れた様な顔をしたのち、薄く笑った。
「まぁ、なら、全員がゆっくり休めるよう、早く終えるしかないな」
 武朗はカフェオレでパンを流し込んだ。
「タケロウはヘリで来たのか?」
 アイビーの問いに、武朗は首を振る。
「いいや、こうも晴れて見通しが利くと、撃ち落とされかねない。念のため、MatsuQでバイクを借りてきた」
 武朗が振り返って示す先に、赤いボディのバイクが止まっていた。
「え、なんでバイクの免許持ってるの?」
「俺は四月生まれ――というか、俺は車両全般運転できる免許を持ってる。ちなみに、ヘリも戦闘機も一応操縦できるからな」
「うそ!」
「うちはスパルタなんだ。基本なんだって自分でする必要がある。お前のところみたいに過保護じゃないぞ」
「……反論できない」
 大杜は苦笑いを浮かべる。
「でもヘリでなくてよかったかもね。本当に撃ち落とされてたかも」
「ああ」
 武朗が中に入らずに門にもたれ掛かっているのは、サボっているわけでも、腹が減り過ぎて何もしたくなかったわけでもなく、物理的に入られなかったからだった。
「威嚇じゃないよね」
「だろうな」
 門の奥の方で、大型の銃器を構えた警備ロボットが大量に並んでいるのが見える。入ってくれば撃つぞ、ということだろう。
 自分たちが狙われるだけならともかく、周辺に工場が立ち並ぶ地域だ。見たところ中距離の武器もある。飛んでいった先で、どんな被害が出るかわからない。
「制御不能って、これらのロボットのことだよね?」
 大杜は武朗が小ぶりなメロンパンを一口で放り込み、無事に飲み込んだのを見届けてから聞く。
「ああ。研矢の調べでは、一ヶ月ほど前にここに弓佳が出現しているらしい。ハッキングやシステムの書き換えはまだ確認できてないが、まぁ現状を見ればクロだろう」
「人間の従業員は? ゼロではないよね?」
「人間は研究所エリアに数十人しかいなかったから、早々に避難済みだ。ニューラインズもプロフューと同じで、工場エリアはほぼ業務ロボット。この敷地内で、どれだけの数のロボットにライスチップが組み込まれているかは想像もつかない」
 武朗は思わせぶりに大杜に視線をやった。
「上層部から、これ以上|大事《おおごと》にならないよう――世間に知られないよう、静かに対処しろと命令があった」
 大杜は頷く。
「うちも同じようなものだよ。ロボットが操られるなんてことは知られたくないって――そりゃまぁそうなんだけどさ。とにかく、情報を拡散しないために高犯対だけで対応しろって指示があったところ。とうさ――副室長が無理言うなとカリカリしてる」
 紀伊国が上からの指示と大杜への心配とに挟まれて、気苦労していることに心が痛む。
「犯人は須藤だった?」
「飛行タイプの男の方がさっき報告に降りて来たが、ヘリには須藤が乗っているらしい」
「そう。でもこんなところで何をしたいのかな。取り引き?」
 上空のヘリは敷地内を旋回しているが、目的が何かは不明なままだ。
「国に脅しをかける準備でもしているのかもな。ここの技術やロボットが欲しいだけなら盗めばいい。こんな騒ぎは起こさないだろうからな」
「うん。でもさ……八技って普通の民間企業だよね? なんでアサルトライフルやマシンガンなんてあるの……?」
 大杜が疑問に思うのは当然だった。ロボット達が持つ武器は、そうそう手に入るものではない。紛争地でもないのだから。
 武朗は新しいパンの袋を開けかけて、手を止めると、意味ありげに大杜を見下ろす。
「八技は防衛省御用達。――これ以上は追及しない事を勧めるが、どうしても聞きたければ、俺の知ってる範囲で教えてやる。命を掛けてるのに、知りたい事を知らされないのはフェアじゃないからな」
 武朗は、大杜の病室でも同じことを言っていた。命を預けることになるかもしれないのに、能力のことを知らされないのはフェアではないと。
 彼の中には信念があるらしい。
 大杜は少し考えてから首をすくめて見せた。
「武朗ってさ、根が優しいよね」
 大杜は溜め息を吐いた。
「いい。聞かないでおく」
 聞けばきっと腹も立つのだろうし、紀伊国の立場を危うくするかもしれない。何より、しゃべってしまった武朗が罰を受けるかもしれない。
 彼はその覚悟で教えてやると言っているのだろうが、大杜はもう、正義だけを信じて、ロボットヒーローに憧れる子供ではない。
(世界が正義に満ちているなんて、別に思ってもいない。今は自分のやるべき事をやるだけ――)
 余計な情報は入れないに限る。
「とりあえず、目の前の事態を収めよう。思考の制御を受けてるロボットと接触したい。それも制御を受けている最中のものを」
「無茶を言う」
「でもそうでないと的確に動きを止められない」
「逆に、制御を受けている最中のものを分析できれば、全部止められると言うわけか?」
 ライスチップがどれだけ出回っているかはわからないが、全てに影響を与えられると言うことであれば、ここでの収穫はとても大きいものになる。
「うん。構造が同じものは全て壊せるようになるよ」
「なら、やるしかないな」
 武朗は上空を見上げる。
 ケリアとダスティはヘリに近づけず、滞空している。ヘリに近付き、須藤を刺激して、門の外に向けられている武器を使用されることがあってはいけないからだ。
「連中の目を掻い潜って、俺たちで中に侵入するか。――アイビーと……アキレアだったか。お前らはここで奴らの注意を引き続けろ」
 大杜の命令ではないので、アキレアが明らかにムッとした様子で睨む。
「アキレア、頼んだよ」
 大杜が慌ててフォローすると、彼女は静かに敬礼した。
「ラジャ」
「――アイビー」
「わかっている。タケロウの指示に従おう。だが、タケロウ、タイトに無理をさせるな」
「――本人が勝手にする分までは保証できないが」
 武朗はそう言うと、最後のパンを口に放り込んだ。