表示設定
表示設定
目次 目次




第2節 邂逅/ §3

ー/ー



   ―セクション3―

 アキレアは指を揃えて両手を大きく振るった。
見た目には変化はないが、風圧が星矢を襲い、彼の持っていた竹刀が吹き飛んだ。

「ちっ……なかなかやるじゃねぇか」

 星矢は後ろに飛んで二振目を避けながら、竹刀を拾い上げた。

 スパーク音が激しく鳴る。

「ボス、もっと下がって」

 カスミとブルースターが、大杜を引き離す。

「ここはアキレアが戦うには狭過ぎる。でも外に出れば逃走される確率が高まるし」

 星矢とアキレアの戦いは、周囲の壁を壊し、床を粉砕してしまう。

 狭さに星矢が上手く動ききれない分、アキレアもまた能力を活かしきれていない。なぜなら本気で彼女が手刀を振るえば、半径五メートルは木っ端微塵だからだ。

「とにかく、カスミは先にラボへ戻って。それ以上ボディを損傷すると致命的だよ」

「さっきも言ったけど、あなたと退避するよ」

「でもアキレアの戦闘中だ。戦闘中は見守り、終了後即座にロックを掛けなければ、規律違反だ。俺が怒られるぐらいならいいけど、アキレアの能力が禁止されるような事態になったら大変だよ。俺は離れられない」

「でも――」

 カスミとブルースターが困ったように、顔を見合わせる。

 その時、アキレアの見えない刃が大杜たちのすぐ脇を抜けたようで、側にあった大きな観葉植物が斜めにすっぱりと切れて倒れた。

「ほら、危ないでしょ‼︎」

 カスミの声に、大杜は引き攣った表情で、一歩後退した。

「なんだ、仲間同士でやりゃよかったのに」

 星矢が嘲笑するように言う。

 アキレアはキッと睨むと、さらなる接近戦に持ち込むべく、飛びかかるように、距離を詰めた。

 手刀の威力は強大だが、殺すことができないのであれば、有り余る力は、逆に足枷にもなる。本来人間相手に使う能力ではないのだから、仕方ないのだが。

 アキレアは揃えていた指を、人差し指と中指の二本だけを立てる形に変更した。これで少し威力が下がる。致命傷にならない程度の傷を負わせて、大人しくさせるしかない。

 だが、星矢は竹刀を非接触で攻撃できる電気武器に変更させた。電流が竹刀の先端から伸び、腕に当たる。威力を下げる際にスピードも下げないといけないため、アキレアの手を引くタイミングが遅れた。

 右の手首から先が黒く焦げたような色を見せた。特殊なボディを焼くほどの威力に、手首だけでなく、体全体が痺れて動けなくなる。

「アキレア‼︎」

 大杜が叫ぶ。

 星矢がアキレアの右側から竹刀を振りかぶる。

 ブルースターがアキレアに向かって走るが、ブルースターは武器を持たない。

「ブルースター、ダメだ!」

(共倒れになってしまう‼︎)

 その時、入口から、小さな人影が入り込んで来た。

「え……」
 大杜が声を上げた。

 どこかの幼稚園の制服を着た女の子が、エレベーターホールへ向かって駆けて来る。

 燃えるような刀の刃を叩き込もうとしていた星矢も、視界に入った幼児の姿に、刀を止めた。

「なんだ?」

 少女は破壊された異常な床や壁の状態を気にすることなく、走り近寄ってきたが、ちょうど星矢の手前辺りの瓦礫につまずき、転んだ。

 星矢が思わず覗き込むように少女を見た瞬間、少女は顔を上げて笑う。

「お兄ちゃん、見てみて!」

 少女は握りしめていたシャボン玉の吹き口をむけて、ふうと息を吹き掛けた。

 シャボン玉が柔らかく弾ける――星矢の目の前で。

 その直後、星矢は膝を折った。

「くそ、が――」

 そのまま床に倒れた。

 少女は、星矢が落とした竹刀の(つか)をそっと蹴って遠ざけた。

「即効性の麻酔薬。粘膜から体内に入ったら、一瞬で昏倒ね」

「――目から入ったってこと?」

「そう。特殊開発室のを貰ってきちゃった」

 大杜の質問に、Q0(キューレイ)11(イチイチ)、ガーベラが無邪気に答えた。

「ああ、うん。そうなんだ」

 大杜は苦笑しつつ、息を吐いた。

「ブルースター、現行犯逮捕」

 呆気に取られていたブルースターが、昏倒している星矢に慌てて手錠を掛ける。

「アキレア、お疲れ様。大丈夫?」

「痺れているだけだ。少しすれば動ける」

「良かった。ありがとう。来てくれて本当に助かったよ。――『リロック』」

「ラジャ」

 アキレアが能力をロックしたのを見届けたあと、大杜は倒れている星矢のそばに近寄り、膝をついて、彼の顔をじっと眺めた。

「合格すれば……友達になれるって言ったくせに……嘘つき」

「ボス?」

 ガーベラと呼ばれた少女が大杜を覗き込む。大杜の瞳にうっすら水の膜が張っているのを怪訝に思う。

「気にしないで。ちょっとした感傷なだけ――彼もやっぱり研矢なんだな、って思って……」

 正確には、彼こそがオリジナルなのだが。

 研矢が優しいように、星矢の根底にあるものも優しいはずだ。

(小さな子が近くに来ただけで、その刃を止めるんだから)

 あの瞬間、星矢が竹刀を振るっていれば、その延長線上まで近づいていたガーベラの体は、アキレアと共に真っ二つになっていたはずだった。

「ガーベラも無茶しちゃダメだよ」

 彼が優しかったから、大切な部下は死なずに済んだのだ。

「秦星矢を逮捕しました」

 大杜は投げ捨てたインカムを拾い上げ、報告した。



 日彩がビルを飛び出した時には雨は止んでいた。濡れたレインコート姿の警察官が道に立って、交通整理をしている。

 自分が弓佳を持ち去ったことで、緊急配備が発令されたのかもしれないと、日彩は慌てた。

 一人で検問などをやり過ごす自信がない。

(エイト君がどこかに――)

 日彩が弓佳を奪った後、エイトが彼女をここまで送り、そのあと彼はどこかへ去った。

 が、ヘリが飛べずに計画が変更になった際に、星矢がエイトを呼び戻したはずなのだ。

 日彩はバッグを両手で持ち、きょろきょろと辺りを見回す。

(警察に見つかる前に、見つけなきゃ)

 日彩がビルの外周をゆっくり回ると、植え込みの影で、バイクにまたがりスマホを眺めているエイトらしき影に気付いた。

 向こうは日彩に気づくと、ヘルメットのシールドを上げた。

「あれ、セイちゃんは?」

 周りに警官が増えてきていることもわかっているだろうに、やたらと明るい声を上げる。

「佐々――警察の人とやり合ってます。先に行けって言われて」

「ふぅん。俺たちが遠ざかるまで足止めしてくれてんのかな? じゃあ後ろ乗って。荷物落とさないでよー」

 日彩は言われた通り後ろにまたがり、ヘルメットを受け取る。

 エイトは少し離れたところに停まっているバイクを見やった。ヒューマン型のロボットがまたがっている。研矢が使用するために、運転させて持ってきたものだった。

 エイトはブレスレットを自身の額に当て、見つめたまま呟いた。
 
「あいつが来たら、そのバイクを譲り、お前は警戒中の警官の元に行って、自爆しろ」

 日彩はその様を興味深く見つめた。

「それがリンクの使い方?」

「ん? そうそう。セイちゃんの開発したTTPシステムが仕込まれてるロボットなら自由に動かせるんだ。ほんとは口に出す必要はないんだけどさ、案外、心の中で言葉を的確に話すって難しいんだよな。別の言葉が思い浮かんだり、表現が曖昧になったりする。発言する方が間違いがないよ。――ひいろちゃんも使うときは言葉にするといいよ」

「うん」

「よっし、行くよ。掴まってて」

 エイトの言葉と同時にバイクは勢いよく走り出した。が、しかし、すぐに止まった。

 日彩の視線の先に、検問が見えた。

「エイトさん、どうするの?」

「いや、検問で止まったんじゃない。――セイちゃんが捕まった」

「え……うそ……」

「うーん。僕も信じられないや。しかし、警察のやりとりでは、逮捕したって、さ」

「え、聞こえるの?」

「このヘルメットに無線受信用イヤホンが内蔵されてるんだー。警察のやりとりの一部は捉えられる。――なんにせよ、捕まったのなら、行き先は変更だなー」

「え?」

「バッグの中のお姫サマ、しばらくは生命維持できるとしても、いつまでも……とはいかないからねぇ。セイちゃんがいないんじゃ、首は繋げなーい」

「そんな……」

「だから、繋げてもらいに行こー 」

「え……そんなことできるの? 誰がしてくれるの?」

「そりゃ主治医の先生サマだよ」

 エイトは目的地を変える。南波記念病院へ。

「取り返すのは、またの機会にね」



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第2節 邂逅/ §4


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



   ―セクション3―
 アキレアは指を揃えて両手を大きく振るった。
見た目には変化はないが、風圧が星矢を襲い、彼の持っていた竹刀が吹き飛んだ。
「ちっ……なかなかやるじゃねぇか」
 星矢は後ろに飛んで二振目を避けながら、竹刀を拾い上げた。
 スパーク音が激しく鳴る。
「ボス、もっと下がって」
 カスミとブルースターが、大杜を引き離す。
「ここはアキレアが戦うには狭過ぎる。でも外に出れば逃走される確率が高まるし」
 星矢とアキレアの戦いは、周囲の壁を壊し、床を粉砕してしまう。
 狭さに星矢が上手く動ききれない分、アキレアもまた能力を活かしきれていない。なぜなら本気で彼女が手刀を振るえば、半径五メートルは木っ端微塵だからだ。
「とにかく、カスミは先にラボへ戻って。それ以上ボディを損傷すると致命的だよ」
「さっきも言ったけど、あなたと退避するよ」
「でもアキレアの戦闘中だ。戦闘中は見守り、終了後即座にロックを掛けなければ、規律違反だ。俺が怒られるぐらいならいいけど、アキレアの能力が禁止されるような事態になったら大変だよ。俺は離れられない」
「でも――」
 カスミとブルースターが困ったように、顔を見合わせる。
 その時、アキレアの見えない刃が大杜たちのすぐ脇を抜けたようで、側にあった大きな観葉植物が斜めにすっぱりと切れて倒れた。
「ほら、危ないでしょ‼︎」
 カスミの声に、大杜は引き攣った表情で、一歩後退した。
「なんだ、仲間同士でやりゃよかったのに」
 星矢が嘲笑するように言う。
 アキレアはキッと睨むと、さらなる接近戦に持ち込むべく、飛びかかるように、距離を詰めた。
 手刀の威力は強大だが、殺すことができないのであれば、有り余る力は、逆に足枷にもなる。本来人間相手に使う能力ではないのだから、仕方ないのだが。
 アキレアは揃えていた指を、人差し指と中指の二本だけを立てる形に変更した。これで少し威力が下がる。致命傷にならない程度の傷を負わせて、大人しくさせるしかない。
 だが、星矢は竹刀を非接触で攻撃できる電気武器に変更させた。電流が竹刀の先端から伸び、腕に当たる。威力を下げる際にスピードも下げないといけないため、アキレアの手を引くタイミングが遅れた。
 右の手首から先が黒く焦げたような色を見せた。特殊なボディを焼くほどの威力に、手首だけでなく、体全体が痺れて動けなくなる。
「アキレア‼︎」
 大杜が叫ぶ。
 星矢がアキレアの右側から竹刀を振りかぶる。
 ブルースターがアキレアに向かって走るが、ブルースターは武器を持たない。
「ブルースター、ダメだ!」
(共倒れになってしまう‼︎)
 その時、入口から、小さな人影が入り込んで来た。
「え……」
 大杜が声を上げた。
 どこかの幼稚園の制服を着た女の子が、エレベーターホールへ向かって駆けて来る。
 燃えるような刀の刃を叩き込もうとしていた星矢も、視界に入った幼児の姿に、刀を止めた。
「なんだ?」
 少女は破壊された異常な床や壁の状態を気にすることなく、走り近寄ってきたが、ちょうど星矢の手前辺りの瓦礫につまずき、転んだ。
 星矢が思わず覗き込むように少女を見た瞬間、少女は顔を上げて笑う。
「お兄ちゃん、見てみて!」
 少女は握りしめていたシャボン玉の吹き口をむけて、ふうと息を吹き掛けた。
 シャボン玉が柔らかく弾ける――星矢の目の前で。
 その直後、星矢は膝を折った。
「くそ、が――」
 そのまま床に倒れた。
 少女は、星矢が落とした竹刀の|柄《つか》をそっと蹴って遠ざけた。
「即効性の麻酔薬。粘膜から体内に入ったら、一瞬で昏倒ね」
「――目から入ったってこと?」
「そう。特殊開発室のを貰ってきちゃった」
 大杜の質問に、|Q0《キューレイ》ー|11《イチイチ》、ガーベラが無邪気に答えた。
「ああ、うん。そうなんだ」
 大杜は苦笑しつつ、息を吐いた。
「ブルースター、現行犯逮捕」
 呆気に取られていたブルースターが、昏倒している星矢に慌てて手錠を掛ける。
「アキレア、お疲れ様。大丈夫?」
「痺れているだけだ。少しすれば動ける」
「良かった。ありがとう。来てくれて本当に助かったよ。――『リロック』」
「ラジャ」
 アキレアが能力をロックしたのを見届けたあと、大杜は倒れている星矢のそばに近寄り、膝をついて、彼の顔をじっと眺めた。
「合格すれば……友達になれるって言ったくせに……嘘つき」
「ボス?」
 ガーベラと呼ばれた少女が大杜を覗き込む。大杜の瞳にうっすら水の膜が張っているのを怪訝に思う。
「気にしないで。ちょっとした感傷なだけ――彼もやっぱり研矢なんだな、って思って……」
 正確には、彼こそがオリジナルなのだが。
 研矢が優しいように、星矢の根底にあるものも優しいはずだ。
(小さな子が近くに来ただけで、その刃を止めるんだから)
 あの瞬間、星矢が竹刀を振るっていれば、その延長線上まで近づいていたガーベラの体は、アキレアと共に真っ二つになっていたはずだった。
「ガーベラも無茶しちゃダメだよ」
 彼が優しかったから、大切な部下は死なずに済んだのだ。
「秦星矢を逮捕しました」
 大杜は投げ捨てたインカムを拾い上げ、報告した。
 日彩がビルを飛び出した時には雨は止んでいた。濡れたレインコート姿の警察官が道に立って、交通整理をしている。
 自分が弓佳を持ち去ったことで、緊急配備が発令されたのかもしれないと、日彩は慌てた。
 一人で検問などをやり過ごす自信がない。
(エイト君がどこかに――)
 日彩が弓佳を奪った後、エイトが彼女をここまで送り、そのあと彼はどこかへ去った。
 が、ヘリが飛べずに計画が変更になった際に、星矢がエイトを呼び戻したはずなのだ。
 日彩はバッグを両手で持ち、きょろきょろと辺りを見回す。
(警察に見つかる前に、見つけなきゃ)
 日彩がビルの外周をゆっくり回ると、植え込みの影で、バイクにまたがりスマホを眺めているエイトらしき影に気付いた。
 向こうは日彩に気づくと、ヘルメットのシールドを上げた。
「あれ、セイちゃんは?」
 周りに警官が増えてきていることもわかっているだろうに、やたらと明るい声を上げる。
「佐々――警察の人とやり合ってます。先に行けって言われて」
「ふぅん。俺たちが遠ざかるまで足止めしてくれてんのかな? じゃあ後ろ乗って。荷物落とさないでよー」
 日彩は言われた通り後ろにまたがり、ヘルメットを受け取る。
 エイトは少し離れたところに停まっているバイクを見やった。ヒューマン型のロボットがまたがっている。研矢が使用するために、運転させて持ってきたものだった。
 エイトはブレスレットを自身の額に当て、見つめたまま呟いた。
「あいつが来たら、そのバイクを譲り、お前は警戒中の警官の元に行って、自爆しろ」
 日彩はその様を興味深く見つめた。
「それがリンクの使い方?」
「ん? そうそう。セイちゃんの開発したTTPシステムが仕込まれてるロボットなら自由に動かせるんだ。ほんとは口に出す必要はないんだけどさ、案外、心の中で言葉を的確に話すって難しいんだよな。別の言葉が思い浮かんだり、表現が曖昧になったりする。発言する方が間違いがないよ。――ひいろちゃんも使うときは言葉にするといいよ」
「うん」
「よっし、行くよ。掴まってて」
 エイトの言葉と同時にバイクは勢いよく走り出した。が、しかし、すぐに止まった。
 日彩の視線の先に、検問が見えた。
「エイトさん、どうするの?」
「いや、検問で止まったんじゃない。――セイちゃんが捕まった」
「え……うそ……」
「うーん。僕も信じられないや。しかし、警察のやりとりでは、逮捕したって、さ」
「え、聞こえるの?」
「このヘルメットに無線受信用イヤホンが内蔵されてるんだー。警察のやりとりの一部は捉えられる。――なんにせよ、捕まったのなら、行き先は変更だなー」
「え?」
「バッグの中のお姫サマ、しばらくは生命維持できるとしても、いつまでも……とはいかないからねぇ。セイちゃんがいないんじゃ、首は繋げなーい」
「そんな……」
「だから、繋げてもらいに行こー 」
「え……そんなことできるの? 誰がしてくれるの?」
「そりゃ主治医の先生サマだよ」
 エイトは目的地を変える。南波記念病院へ。
「取り返すのは、またの機会にね」