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6.友情の兆し

ー/ー



 午後になって、ミナトが学校から帰ってきた。
 白砂サンは星飛雄馬の(ねえ)ちゃんみたいに、出入り口の影からジットリした視線を向けて、様子を伺っている。
 なぜ出てきて話をしないのかと言うと、帰宅してきた敬一クンがそこに居るからだろう。
 シノさんは敬一クンに、スバルが暴力沙汰を起こして学校に呼び出された件も、そこから発覚したミナトがクラスでイヤガラセを受けている件も話していないらしく、二人に対応している敬一クンの口からそれらの話題は全く出てこない。

「今日の学校はどうだった? 昨日は始業式だけだったが、今日は授業もあって、クラスの皆とも交流が出来ただろう?」
「クラスの奴は、バカばっかりだよ!」
「ばか?」
「だって、僕とミナトのコト、みんな双子だって思ってるんだよ! 先生まで! 転校の手続きした時に、柊一がちゃんと "ハトコです" って説明したのに!」
「それなら、友達がばかなんじゃなくて、先生同士の連絡不足だろう?」
「バカはバカだよ。それにあんな奴ら、友達じゃないし」
「スバル(くん)。簡単に人をばかなんて言っては駄目だぞ。クラスメイトに先生がちゃんと説明をしてないなら、スバル君が自分で、ミナト君はハトコだと説明すればいいだろう?」
「僕は説明しようとしたけど、ミナトがそんなの()っとけって言うし。それに僕より先に転入してるのに、ミナトは友達が全然いないんだ」

 そりゃそうだろうな……と俺は頷いた。
 大人から見たって可愛げが無いミナトは、同級生からすれば、全く気に障る嫌な奴だろう。
 オマケに午前中のスバルの話を追加すると、転入早々クラスのヒエラルキーを乱す存在になってしまったのだから、友達なんて出来る(わけ)が無い。

「別に、友達なんていらないし」

 俯いてノートに計算式を書いていたミナトが、ボソッとコメントした。

「友達はいらない……か。だけど友達がいれば、学校に行くのが今よりもっと楽しくなるぞ? 困った時にチカラになってくれるのも、友達だ。気の合わない奴と無理に仲良くする必要は無いが、最初から友達なんていらないって態度でいたらダメだ。まずは自分が偏見を持たず、卑屈にならず、真剣に向き合っていれば、そのうち自然に友達が出来るぞ」

 子供と敬一クンの会話を聞いていて、敬一クンは本当に恵まれた資質を持ってるんだな……と思った。

 俺にはそんな、友達が自然発生したコトなど無い。

 シノさんは惚れた相手であって、友達にはカウント出来ない。
 幼馴染で一緒にバンド活動までやっていたショーゴさんは、現在シノさんと終わりの見えない冷戦中で、シノさん側に付いてしまった俺は常に微妙な距離を取らざるを得ない。
 バンド仲間にはもう一人、新田サンというヒトが居るのだが、俺達よりも一回り年上なので、懇意にしてもらっているが友達とはチガウ。
 メゾンの幽霊事件以来、割と口を利くようにはなったが、コグマは俺を友達と認識しているかどうか、正直解らない。

 俺的に友達と呼ぶのに一番抵抗の無いショーゴさんが友達とカウント出来ないなら、パッと顔が思い浮かぶ程度に付き合いのある連中も、ただの "知人" としか言えない。
 故に俺には "友達" と呼べる相手が存在しないのだ。
 そんな俺にも増して問題多きミナトとスバルに、友達が自然発生するとは思えなかった。


§


「スバル君は、もう少し丁寧に字を書いた方がいいな。算数の問題は難しい応用も全問正解(せいかい)していて素晴らしい。だがせっかく正解してるのに、字を読み間違えられて不正解になったら、もったいないぞ」
「それは前から言われてる……ケド、僕、丁寧なのって苦手なんだもん。カテキョにも、理数は教えるの楽だけど、作文とかは全然ダメだって言われた」
「カテキョ?」
「家庭教師だよ」

 補足をしたのは、ミナトだった。

「敬一、勉強は一段落したかね?」

 入り口の影からずっと此方の様子を伺っていた白砂サンが、カタツムリのようにちょこっとだけ顔を出して訊ねた。

「はい、大丈夫です」

 敬一クンが答えると、白砂サンは銀の盆におやつの皿を乗せてきた。

「今日のおやつは、クレープだよ。ミナトはいつもの苺とカスタードクリーム、スバルは好物がチョコレートと言っていたので、バナナを添えた。どちらもオレンジソースが熱いので、気を付けて」

 皿の上のクレープは、艶やかなフルーツソースをトロリと纏い、クリームで飾り付けられていて、まるでフランス料理のデザートのようだ。

「わあっ、すげぇ!」
「じゃあ二人がおやつを食べている間に、俺はワークノートの答え合わせをしておこう」

 スバルは早速ナイフとフォークを握りしめ、クレープを頬張り始めたが、ミナトは席を立つと、そそくさと厨房に戻って行こうとしている白砂サンのあとを追った。

「聖一、どうしたの?」
「どうもしていないよ」
「うそだ。いつもは、おやつ食べてる時に、あそこに一緒に座って話するでしょ」
「今日は……ほら、お客様が見えたから、厨房に戻らなければ」

 無理に笑顔を作って、白砂サンは逃げるように厨房に引っ込んでしまった。
 ミナトは訝しむような顔をしたものの、あとは追わずにテーブルに戻る。

「どうしたんだよミナト? 早く食べなよ、コレ、スッゲー美味しいぞ!」
「聖一のお菓子は、どれもみんな美味しいよ」

 ミナトは答えて、ナイフとフォークを手に取った。

「うん。そっちのも美味しそう。僕のチョコ、ひとくち分けるから、そっちもひとくち食べさせてよ」
「いいよ」

 俺は「あれっ?」と思った。
 なぜかと言うと、スバルがあけすけな態度で話掛けても、今までのミナトは適当に受け流していたのに、今日はちゃんと応対をしているように見えたからだ。
 それに、おやつの "一口交換" はスバルの常套句の一つなのだが、ミナトがそれに応じたのは、たぶん今日が初めてだと思う。
 どうやらスバルがクラスメイトを殴った一件は、思った以上にミナトの心に衝撃を与えていて、スバルとの距離が縮まったらしい。
 友達は出来そうもないスバルとミナトだが、二人には懇意になる兆しが出てきたようだ。


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 午後になって、ミナトが学校から帰ってきた。
 白砂サンは星飛雄馬の|姉《ねえ》ちゃんみたいに、出入り口の影からジットリした視線を向けて、様子を伺っている。
 なぜ出てきて話をしないのかと言うと、帰宅してきた敬一クンがそこに居るからだろう。
 シノさんは敬一クンに、スバルが暴力沙汰を起こして学校に呼び出された件も、そこから発覚したミナトがクラスでイヤガラセを受けている件も話していないらしく、二人に対応している敬一クンの口からそれらの話題は全く出てこない。
「今日の学校はどうだった? 昨日は始業式だけだったが、今日は授業もあって、クラスの皆とも交流が出来ただろう?」
「クラスの奴は、バカばっかりだよ!」
「ばか?」
「だって、僕とミナトのコト、みんな双子だって思ってるんだよ! 先生まで! 転校の手続きした時に、柊一がちゃんと "ハトコです" って説明したのに!」
「それなら、友達がばかなんじゃなくて、先生同士の連絡不足だろう?」
「バカはバカだよ。それにあんな奴ら、友達じゃないし」
「スバル|君《くん》。簡単に人をばかなんて言っては駄目だぞ。クラスメイトに先生がちゃんと説明をしてないなら、スバル君が自分で、ミナト君はハトコだと説明すればいいだろう?」
「僕は説明しようとしたけど、ミナトがそんなの|放《ほ》っとけって言うし。それに僕より先に転入してるのに、ミナトは友達が全然いないんだ」
 そりゃそうだろうな……と俺は頷いた。
 大人から見たって可愛げが無いミナトは、同級生からすれば、全く気に障る嫌な奴だろう。
 オマケに午前中のスバルの話を追加すると、転入早々クラスのヒエラルキーを乱す存在になってしまったのだから、友達なんて出来る|訳《わけ》が無い。
「別に、友達なんていらないし」
 俯いてノートに計算式を書いていたミナトが、ボソッとコメントした。
「友達はいらない……か。だけど友達がいれば、学校に行くのが今よりもっと楽しくなるぞ? 困った時にチカラになってくれるのも、友達だ。気の合わない奴と無理に仲良くする必要は無いが、最初から友達なんていらないって態度でいたらダメだ。まずは自分が偏見を持たず、卑屈にならず、真剣に向き合っていれば、そのうち自然に友達が出来るぞ」
 子供と敬一クンの会話を聞いていて、敬一クンは本当に恵まれた資質を持ってるんだな……と思った。
 俺にはそんな、友達が自然発生したコトなど無い。
 シノさんは惚れた相手であって、友達にはカウント出来ない。
 幼馴染で一緒にバンド活動までやっていたショーゴさんは、現在シノさんと終わりの見えない冷戦中で、シノさん側に付いてしまった俺は常に微妙な距離を取らざるを得ない。
 バンド仲間にはもう一人、新田サンというヒトが居るのだが、俺達よりも一回り年上なので、懇意にしてもらっているが友達とはチガウ。
 メゾンの幽霊事件以来、割と口を利くようにはなったが、コグマは俺を友達と認識しているかどうか、正直解らない。
 俺的に友達と呼ぶのに一番抵抗の無いショーゴさんが友達とカウント出来ないなら、パッと顔が思い浮かぶ程度に付き合いのある連中も、ただの "知人" としか言えない。
 故に俺には "友達" と呼べる相手が存在しないのだ。
 そんな俺にも増して問題多きミナトとスバルに、友達が自然発生するとは思えなかった。
§
「スバル君は、もう少し丁寧に字を書いた方がいいな。算数の問題は難しい応用も全問|正解《せいかい》していて素晴らしい。だがせっかく正解してるのに、字を読み間違えられて不正解になったら、もったいないぞ」
「それは前から言われてる……ケド、僕、丁寧なのって苦手なんだもん。カテキョにも、理数は教えるの楽だけど、作文とかは全然ダメだって言われた」
「カテキョ?」
「家庭教師だよ」
 補足をしたのは、ミナトだった。
「敬一、勉強は一段落したかね?」
 入り口の影からずっと此方の様子を伺っていた白砂サンが、カタツムリのようにちょこっとだけ顔を出して訊ねた。
「はい、大丈夫です」
 敬一クンが答えると、白砂サンは銀の盆におやつの皿を乗せてきた。
「今日のおやつは、クレープだよ。ミナトはいつもの苺とカスタードクリーム、スバルは好物がチョコレートと言っていたので、バナナを添えた。どちらもオレンジソースが熱いので、気を付けて」
 皿の上のクレープは、艶やかなフルーツソースをトロリと纏い、クリームで飾り付けられていて、まるでフランス料理のデザートのようだ。
「わあっ、すげぇ!」
「じゃあ二人がおやつを食べている間に、俺はワークノートの答え合わせをしておこう」
 スバルは早速ナイフとフォークを握りしめ、クレープを頬張り始めたが、ミナトは席を立つと、そそくさと厨房に戻って行こうとしている白砂サンのあとを追った。
「聖一、どうしたの?」
「どうもしていないよ」
「うそだ。いつもは、おやつ食べてる時に、あそこに一緒に座って話するでしょ」
「今日は……ほら、お客様が見えたから、厨房に戻らなければ」
 無理に笑顔を作って、白砂サンは逃げるように厨房に引っ込んでしまった。
 ミナトは訝しむような顔をしたものの、あとは追わずにテーブルに戻る。
「どうしたんだよミナト? 早く食べなよ、コレ、スッゲー美味しいぞ!」
「聖一のお菓子は、どれもみんな美味しいよ」
 ミナトは答えて、ナイフとフォークを手に取った。
「うん。そっちのも美味しそう。僕のチョコ、ひとくち分けるから、そっちもひとくち食べさせてよ」
「いいよ」
 俺は「あれっ?」と思った。
 なぜかと言うと、スバルがあけすけな態度で話掛けても、今までのミナトは適当に受け流していたのに、今日はちゃんと応対をしているように見えたからだ。
 それに、おやつの "一口交換" はスバルの常套句の一つなのだが、ミナトがそれに応じたのは、たぶん今日が初めてだと思う。
 どうやらスバルがクラスメイトを殴った一件は、思った以上にミナトの心に衝撃を与えていて、スバルとの距離が縮まったらしい。
 友達は出来そうもないスバルとミナトだが、二人には懇意になる兆しが出てきたようだ。