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ー/ー蟹坂ナオのこと。
「むふふ」と思わず品のない笑いが口から出てしまう。
だけど止められない、ますます「むひひひ」と品性は落ちてゆくばかり。
まあしょうがない。この部屋には彼女「蟹坂ナオ」1人しかいないのだから。
ベッドに広げたガジェットをひとつひとつ、むふふと笑いながらチェックする。
いずれもスマートな撮影機材ばかりだ。ともすれば配信でもするの? みたいな。
そうだ。撮って撮って撮りまくるのだ。
愛用のスマホにアクションカメラ、ジンバルに確認用タブレットPC。そして大小様々なバッテリー。
そして特注のセンサー。手のひらサイズで高性能、とよくあるスペック。
「絶対に姿を収めてやるんだもんね……ふひっ」
ちょっと乱視気味の厚いレンズの眼鏡の奥から、糸のように細い目が光る。
「さて寝るかな……明日……ふひひひ」
そんな彼女の部屋の壁には、余す所なくびっしりと写真が貼られていた。
すべて野生動物。それもイヌ科だけに絞られた写真。
北の地で撮影したキタキツネ、アフリカのサバンナにいるアードウルフ、ハイエナ、それに近所の林で遭遇したタヌキ。
だがそれら以上に大量に壁を埋め尽くすほどに貼られていたものは……
カナダの森で撮ったオオカミだった。
灰色の毛を持った大きな身体、そして見つめるもの全てを射すくめるかのような、鋭い眼光。
その中の一枚、向けられたカメラに気づいたのか、真正面をキッと睨みつけているオオカミの写真、しかもそれだけは大判で印刷されていた。
パジャマ姿の彼女は、愛おしげにその写真に頬ずりをした。
気のせいか、鼻息も荒く。
「機材はすべて揃った。だから私の手であなたを撮ってみせる……!」
そして眠りにつく前また彼女は1人つぶやいた。
「待っててね、オオカミさん……」
⭐︎⭐︎⭐︎
「ぶへーっきしょい!」
「どうしたんですかジン。風邪でも引いたとか?」
「あン? 違うわ。タケルにやられちまったんだ!」
「タケル……ああ、昨日こっそりパンダに会ったって話してましたね。僕はぐっすり寝ちゃってたんでガッカリしちゃいましたが」
「だからテメーはいなかったのか。つーかもうアイツとは絶交だ! 二度と助けに行ったりしねーからな!」
「ジン……それほどまでに怒るってことは、相当の大げんかしたとかですか?」
「……オメーが知らないってことは、何にも聞かされてないんだな」
「ええ、ジンが同行したこともいま知りましたし」
「あのヤローに顔面蹴られたんだ! しかも! その……鼻をな」
「ぷっ」
「オイ、いま笑ったろ!」
「え、いや、だってタケルの足の……被害を受けたってことですよね?」
「ああそうだよ! あの猛烈に臭い足で鼻をグイッと蹴られたんだ! おかげでクシャミは止まらねーわ、挙げ句の果てに鼻の感覚が麻痺しちまった、くそっ……最低最悪だ」
「タケルの足はほんと臭いですものね、僕も一緒に寝てて何度もあれで起こされましたし、それに……」
「分かる。人間の時よりワーウルフの姿してる方のがさらに臭くなってる、だろ?」
「ええ……イタチもそれで鼻がダメになってしまったって」
「つーことでだ。今度からトラブル起きてもアイツは絶対呼ぶンじゃねーぞ。組むのならお前だけだ」
「承知しました、タケルには今回秘密で行かれちゃいましたし、ちょっと僕も怒ったんで」
「お前も怒ることあるんだな」
「何度もタケルは土下座して謝ってましたけどね、ふふっ」
「それともうひとつ、忠告してえことがあるんだが……」
「な、なんでしょう」
「前に学校で暴れたコアラか……あの事件以降、執拗に写真撮りまくってる人間の女がいるらしい」
「写真を……?」
「ああ、俺も近所の犬から聞いたんでまた細けえところは分からないけどな。だが追ってる人間。そいつはどうも……」
「なにか特徴とか?」
「お前やタケルと同い年くらいの背丈だそうだ……つまりはオンナノコってやつだな」
「むふふ」と思わず品のない笑いが口から出てしまう。
だけど止められない、ますます「むひひひ」と品性は落ちてゆくばかり。
まあしょうがない。この部屋には彼女「蟹坂ナオ」1人しかいないのだから。
ベッドに広げたガジェットをひとつひとつ、むふふと笑いながらチェックする。
いずれもスマートな撮影機材ばかりだ。ともすれば配信でもするの? みたいな。
そうだ。撮って撮って撮りまくるのだ。
愛用のスマホにアクションカメラ、ジンバルに確認用タブレットPC。そして大小様々なバッテリー。
そして特注のセンサー。手のひらサイズで高性能、とよくあるスペック。
「絶対に姿を収めてやるんだもんね……ふひっ」
ちょっと乱視気味の厚いレンズの眼鏡の奥から、糸のように細い目が光る。
「さて寝るかな……明日……ふひひひ」
そんな彼女の部屋の壁には、余す所なくびっしりと写真が貼られていた。
すべて野生動物。それもイヌ科だけに絞られた写真。
北の地で撮影したキタキツネ、アフリカのサバンナにいるアードウルフ、ハイエナ、それに近所の林で遭遇したタヌキ。
だがそれら以上に大量に壁を埋め尽くすほどに貼られていたものは……
カナダの森で撮ったオオカミだった。
灰色の毛を持った大きな身体、そして見つめるもの全てを射すくめるかのような、鋭い眼光。
その中の一枚、向けられたカメラに気づいたのか、真正面をキッと睨みつけているオオカミの写真、しかもそれだけは大判で印刷されていた。
パジャマ姿の彼女は、愛おしげにその写真に頬ずりをした。
気のせいか、鼻息も荒く。
「機材はすべて揃った。だから私の手であなたを撮ってみせる……!」
そして眠りにつく前また彼女は1人つぶやいた。
「待っててね、オオカミさん……」
⭐︎⭐︎⭐︎
「ぶへーっきしょい!」
「どうしたんですかジン。風邪でも引いたとか?」
「あン? 違うわ。タケルにやられちまったんだ!」
「タケル……ああ、昨日こっそりパンダに会ったって話してましたね。僕はぐっすり寝ちゃってたんでガッカリしちゃいましたが」
「だからテメーはいなかったのか。つーかもうアイツとは絶交だ! 二度と助けに行ったりしねーからな!」
「ジン……それほどまでに怒るってことは、相当の大げんかしたとかですか?」
「……オメーが知らないってことは、何にも聞かされてないんだな」
「ええ、ジンが同行したこともいま知りましたし」
「あのヤローに顔面蹴られたんだ! しかも! その……鼻をな」
「ぷっ」
「オイ、いま笑ったろ!」
「え、いや、だってタケルの足の……被害を受けたってことですよね?」
「ああそうだよ! あの猛烈に臭い足で鼻をグイッと蹴られたんだ! おかげでクシャミは止まらねーわ、挙げ句の果てに鼻の感覚が麻痺しちまった、くそっ……最低最悪だ」
「タケルの足はほんと臭いですものね、僕も一緒に寝てて何度もあれで起こされましたし、それに……」
「分かる。人間の時よりワーウルフの姿してる方のがさらに臭くなってる、だろ?」
「ええ……イタチもそれで鼻がダメになってしまったって」
「つーことでだ。今度からトラブル起きてもアイツは絶対呼ぶンじゃねーぞ。組むのならお前だけだ」
「承知しました、タケルには今回秘密で行かれちゃいましたし、ちょっと僕も怒ったんで」
「お前も怒ることあるんだな」
「何度もタケルは土下座して謝ってましたけどね、ふふっ」
「それともうひとつ、忠告してえことがあるんだが……」
「な、なんでしょう」
「前に学校で暴れたコアラか……あの事件以降、執拗に写真撮りまくってる人間の女がいるらしい」
「写真を……?」
「ああ、俺も近所の犬から聞いたんでまた細けえところは分からないけどな。だが追ってる人間。そいつはどうも……」
「なにか特徴とか?」
「お前やタケルと同い年くらいの背丈だそうだ……つまりはオンナノコってやつだな」
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