「難しい言葉や表現……禾几のそれは、語尾や述語を普段使わないような言葉に置き変えているだけだ。それだけでいい」
「でも……」
「会話に変な英語を途中途中にぶち込んでくる奴いるだろ? それと同じ類で大丈夫」
恭吾の言葉からは恋実への『信頼』のようなものが伝わってくる。
教えるのが面倒だからとか、適当なことを言って誤魔化している訳ではないのが分かる。
「そっか……今回は『愛』というテーマそのものが難問だもんね」
「ま、確かに万人に明確な答えなんてない」
「というより永遠の未解決問題でしょ」
その言葉に恭吾はわずかに反応を示した。
ダウンを喫したボクサーが、ゆっくりと立ち上がる……立ち上がるその少し前に不敵な笑みを浮かべる、その笑みの直前、腫れあがった目の奥の光には消えることない力が宿っている……そんな反応だ。
「未解決問題……だと?」
『カチリ』……異次元の世界の音が恋実には聞こえた。
それは恭吾のスイッチが入った事を意味する地雷を踏んだ音……同時に静かに緊急事態発生の警告が全身に回る。
「優香ちゃん問題だってすぐに解決してみせる! 『未解決問題』という名を騙って良いのは『ゴールドバッハの予想』くらいしか断じてない!」
てっきり優香ちゃん問題が進展していないことに矛先が向けられると思っていた恋実は、胸を撫で下ろす。この2週間何もしていないからだ。
恭吾の理解不能なプライドが恋実を救った。