「お、あそこにいるのが舞香ちゃんだ。 おーい」
颯志は観客席に居る舞香を見つけたのか、大きく手を振る。三人は思わず釣られてそっちに顔を向ける。目を細めてみても、視線をずらしてみても舞香はもちろん、美都の姿も確認できない。
「あ、ゴメン人違いだった……本当はあっちだった。舞香ちゃ~ん!」
颯志はさっきと反対方向へと向き直る。再び三人揃ってそちらに顔を向けると、そこには江南女性陣三人の姿が。苦笑するしかない江南選手人三人。
「颯志! またっ!」
「うわっ。 十葉!」
飛んできた十葉が、たしなめる。それはまるで颯志のお姉さん、もしくは、監督者……さしずめ酔っぱらいか、徘徊を繰り返す颯志を連れ戻しに来た保護者のようだ。
「ごめんなさい、迷惑かけたみたいで……」
「なんで謝るんだよ。乗馬は周囲が良く見えていないと危ないからさ、みんなで首の体操をしただけだ、あははは」
(それをお痛をした、と言うのよ……)
深々と頭を下げる十葉は、舞羽だけには意識的な眼差しを注いでしまう。
「ははは……涼風君の言う通りだね。ドイツ帰りのマイスターには教わってばかりさ」
「だろ? さすが優等生は話が分かる。あ、俺のことは颯志って呼んでくれて構わないよ、同級生だし」
二人の間には、きっと常人では分かりかねぬ会話が、合わせた目の内でやり取りされていたはずだ。そしてそれは長くは必要としない。ベストなタイミングで十葉が切る。
「いいからいくよ、もう」