夏の快晴が汗となって体を伝う。疾走するクアトロが風を起こし、汗を攫ってくれる。馬場の砂とその奥に見える芝生との境目が、そのスピードでぼやけていく。
コース取りで大きく回っても、クアトロの肢はしっかり馬場をグリップして、舞羽に安心感を与えてくれる。
「クアトロ、ありがとう」
馬の耳と耳の間の少し先に置いた目線の端に、ピンッと外側に向けて立てたクアトロの両耳が映り込んでいる。耳を見てクアトロが集中しているのが良く分かる。
(フィニッシュまで後3つ!)
次の障害はコンビネーション障害。ラストは垂直障害。コンビネーション・ダブルの障害の飛越をスムーズに抜けたなら、単純な垂直障害はスピード勝負だ。
遊馬は5歩で入ると言っていた……舞羽はそんなことが頭をかすめた。
遊馬の馬の誘導では5歩で踏み切れる、しかし舞羽の誘導では5歩だと厳しい。
障害馬術では狭いコースを右旋回、左旋回しながら順番通りの障害を越えなければならない。大きく回ればタイムがロスする。それを巧みに馬の手前(* 馬は速度によって肢の運びが違い、左右の肢が非対称に動くため、左右の着地を変えることでコーナーの曲がるグリップ・スピードが変わる)を変えて馬の肢捌きをコントロールする。
これをどんな馬でもストレスを与えずできるのが遊馬の馬の誘導の神業である。
そのとき、鈍い音と共にクアトロの肢が引っかかる……。
6歩しっかり待てたが、舞羽の気持ちが先走ってしまったのだろう。バランスがわずかに崩れて、クアトロの肢がバーに当たった。
ラッキーとしか言いようがなかった。バーは辛うじて落下を免れ、減点はない。そして、そのままフィニッシュ。
タイムは58.06。