クロネコとコウヘイ03
ー/ー△▲△▲
「ねぇ、アキ。この数字ってなんだと思う?」
コウヘイはクロネコからもらった紙を机の上に置き、そこに書かれた数字を指差して尋ねた。
「んー、なんだろう。何かの暗号なのかな」
『F3.12.21 E1.10.4 A1.8.26 C2.18.47』
2人は紙とにらめっこをしたまま、考え込んだ。静かな図書館の空気は、2人の息づかいさえ飲み込み、静寂を形作っていく。
いや違うか。でも。と、ぶつぶつ呟くコウヘイ。アキは何か手がかりがないかと辺りを見回す。そんな折、アキが突然声を上げた。
「コウヘイ!この暗号、もしかしたら本の置かれている位置を表してるんじゃない?ほら、これ見て!」
アキは近くに並べられていた本を手に取り、コウヘイに差し出した。
コウヘイはアキが指差す所を見ると、背表紙に貼られたシールにJ1.41と暗号に似たものが記されていた。
「あ、本当だ!これが正解じゃない?アキ、やったじゃん、お手柄!」
「へへ。どんなもんだい!」
アキがはにかみながら手のひらを前につき出す。アキがしたいことをコウヘイは察し、同じように自分の手を前に出す。
──ぱちん。
乾いた音が図書館に響いた。
「これで全部集まったな。んで、これからどうする?」
「んー、この本に何かヒントが隠されてると思うんだけどなー」
コウヘイは一冊の本を手に取り、表裏と見回すが、特に変なところはない。
んー。と、うなりながらペラペラとページをめくる。
「分かんないなー。アキはどう?」
「私も同じ。暗号の解き方、間違ってたのかなー」
アキはお手上げとばかりに机の上に突っ伏した。コウヘイは、手がかりになればと、4冊の本のタイトルを紙に書き出すことにした。
・世界の犬図鑑
・空をとびたい!
・医学の歴史大辞典
・月の科学
共通点も特になし。何の変哲もないただの本に見える。
「わ、っかんないなー」
コウヘイは背もたれに大きく寄りかかるようにして天井を見上げる。閉塞した空気が2人を包み込み、謎解きは完全に手詰まりの様相だった。
「ちょっと休憩しようか?」
「んー、そうすっか。私、ちょっと歩いてくるわ」
アキが疲れた様子で立ち上がり、ふらふらッと入口の方に歩いていった。
残されたコウヘイは、んー。と背伸びを1つ。
(……成り行きで謎解きに参加しちゃったけど、これで良かったのかな?)
コウヘイは、ボーッと昨日から今日にかけてのことを思い出しながら、これからどうするか。どうなるのか考えていた。思い出すのはクロネコの言葉。
『この世界は今、子どもたちしか存在してないんだ。町の中で大人の姿は見なかっただろ?まぁ、存在はしてないが、子どもたちの生活を支援するために、多少の影響は現れる感じだな。例えば、昨日の夜を思い出してみな?食事の用意とかされてなかったか?……あっただろ?
完全に子どもだけだと、困るやつも出てくるから、最小限の支援行為だな。もちろん、大人がいないからスーパーも銭湯も使いたい放題だ。好きに使ってみるといい』
そんな魔法の世界みたいなこと、あるわけないと思った。しかし、図書館に来てみれば、ここにも大人の姿はない。
でも図書館は営業していたし、カウンターではパソコンの画面がついていたし、貸し出し用の端末も動いていた。
おそらくクロネコの言う不思議な力が働いていて、この世界で生きる分には困らないのだろう。コウヘイはそう感じていた。しかし、それはそれ、これはこれ、である。
(このまま元の世界に……戻れなかったら?)
悪い想像が頭を過る。不安がまたコウヘイの心に影を落とす。その時───
突然、首筋にヒヤッとした感触があった。
「ヒゃッ!!」
コウヘイはびっくりして、イスから転げ落ちそうになった。その様子を見たであろう人物は、ゲラゲラと笑い声を上げる。
「アッハハハ!悪い悪ぃ。そ、そんなにびっくり、するとは……ククク」
コウヘイの首に当てたのはペットボトル。悪戯心で冷たい物を当ててみたら、コウヘイの思いがけぬ反応にアキは笑いのツボに入ったようだ。苦しそうに腹を抱えながら、その笑い声はしばらくの間止まらなかった。
「もうそろそろ、落ち着いた方がいいんじゃない?」
コウヘイは少し不機嫌そうにアキに言葉を投げ掛ける。
「んフフ。いやーこんなに笑ったのは久しぶりだ!笑っちゃ悪いんだけど、さっきのを思い出すと止まらねーんだわ」
涙目でまだプククと思い出し笑いをしているアキ。コウヘイはそっぽを向いて頬杖をつく。
「はー、面白かった!コウヘイ、ありがとう!……そんなにむくれるなよ、悪かったってば。飲み物、買ってきたんだ。それを飲んで許してくれよ」
コウヘイは、ジト目でテーブルの上に置かれたペットボトルを見る。1つはいちごミルク、もう1つはアップルジュース。
それを見たコウヘイは、ふと、元の世界のアキとの会話を思い出した。
□□□
『コウヘイくんは、どんな飲み物が好きなの?私?私はアップルジュースかなー』
そんな雑談であったが、あの時もコウヘイがいちごミルクが好きだと友達がバラしてしまい、甘党なのがクラス中に知れ渡ってしまった。
その時の友達とじゃれるコウヘイを見て、アキは口許を隠してしばらくの間笑っていた。
□□□
「──コウヘイ?どうした?アップルジュースの方が良かったか?」
ジーッとペットボトルを見て、何も言わないコウヘイを不審に思ったか、アキが呼び掛ける。
コウヘイはその声にハッとなり、慌てて返事をする。
「あ、いや。そんなことない。俺、これ好きだし?ありがとう、いただくよ」
勢い良くペットボトルを傾け、ごくんと飲み込む。口には仄かにイチゴの香りと強烈な甘味が広がる。
その味はどこか懐かしい味がした。
「なぁ。どうして、これ買ったんだ?あ、いや俺は好きだけどさ、いちごミルクって好みが分かれそうじゃん?」
コウヘイは疑問に思ったことを尋ねた。アキは少し考えた後に口を開いた。
「なんでだろな。何となく、コウヘイが好きだと思ったんだ。今日、初めて会ったのに不思議だな」
はにかむアキ。コウヘイはその笑顔に″アキ″を重ねる。アキと″アキ″。性格は違えど、見た目以外にも変な共通点を感じる時があった。コウヘイの中で、この世界の謎がまた1つ増えたが、アキと一緒にいると元気が出てくる感じがした。
しばしの休憩後、2人は紙に書かれた暗号に注目した。
「なぁ、この最初のアルファベットは本棚の位置だったよな?これ、もしかして本の順番も関係ないかな?」
アキはそう言うと、4冊の本を並べ替えた。
「なるほどね!ん、今気付いたけど本のラベルの番号と暗号で数字の数が違くない?」
コウヘイは『A1.8.26』と書かれた暗号の末尾を指差す。ラベルには無い数字──『26』がそこには記されていた。
「えーと、『26』か。この『8』が8番目の本を指しているっぽいんだけど、『26』も26番目の本って意味なのかな?」
「『A1』がAの本棚の1段目を現しているみたいだからな。8番目と26番目……ってことか。あ、もしくはページ数ってことはないか?」
なるほど。ページ数の可能性もあるか。コウヘイはアキの閃きに感心する。そして本を手に取り、26ページ目を開いてみることにした。
「あ、何か挟まってる!」
26ページ目。そこにはA4サイズを2つ折にした紙が挟まっていた。コウヘイは紙を広げる。そこには──
『門をまもる』
という文字だけが書かれていた。
5文字だけの少ない情報に2人は戸惑いを見せる。
「え、これだけ?どういう意味?」
アキの言葉にコウヘイも同意見だ。苦労して手がかりを発見したが、それは、また別の暗号だった。
一先ず、他の本も確認してみよう。ということになり、手分けして確認してみた。
1『門をまもる』
2『あかき門は空まで』
3『まよけのまじない』
4『ささげるいのり』
コウヘイは、発見した言葉を紙に順番に書き出してみた。
「んー、これだけだと良くわかんねーなぁ」
コウヘイとアキは腕を組んで考える。
「門を守る……朱き門は空まで。ここって赤い門を何かが守ってるってことかな?もしかして、このヒントって関連してる?」
コウヘイが気付いたことを口にする。アキが、あ、そうかも。と応える。
「じゃあ、この『魔除けのまじない』と『捧げる祈り』も関連してる?」
朱い門にそれを守るもの、魔除けと祈り……。2人は順番に謎の言葉を口にしていく。そして──
「「神社!!」」
2人の声が重なった。目を合わせるコウヘイとアキ。
ピタリと息があったことに驚いた後に破顔する。
プッ。ククク。アハハハ。
笑い声が静かな図書館の中に響く。それから、2人はどちらからともなく席から立ち上がった。
「本を片付けて、向かおう」
「おう、今から行けばまだ暗くなる前に着くと思う」
手分けして、元の位置に本を返して入口前に再集合。
再びコウヘイとアキの目が合う。アキはゆっくりと右手を差し出す。
コウヘイは静かにうなづき、その手を躊躇わずに取った。
太陽が西に傾き始めたが、まだ明るさは十分。コウヘイとアキは手をつなぎ、暗号が示す神社へ向かって駆け出した。
続
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