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第151話 響き渡る彼の心情は

ー/ー



 みんなの視線が山路へ集まった。
 きっと夏村や椎名もうっすらと気づいているのだろう。何かがあることに。
 ただ一人、山路本人だけは白を切る。

「……何のことかな? 杉野」

「そうか。自分から言う気はないんだな」

「…………」

 誤魔化すようにぎこちなく笑う山路。
 そうだな。本来なら俺が答えに辿り着くことなんてなかったんだろうな。

「……この一週間さ。みんなと…………いや、演劇部のみんなといろんな話をしたんだ。俺の知らないこと、俺の思いもよらないこと、本当に色んなことだった」

 そう。思えば俺たち二年だけじゃない。先輩たちに助言をもらって、後輩たちにも相談して、それで色んなことに気づいて今、俺はここにいる。

「そん中で一人に聞かれたんだ。山路がいつから辞めることを考えていたのかって」

「それは……」

「いやさ。その時思ったんだ。盲点っていうか、山路がどうして辞めるのかの動機ばっか考えて、他のことをよく考えてなかったなって」

 山路の表情が少し険しくなる。
 構わず、俺は話を続ける。

「宣戦布告されたときから心のどっかにその気があったなら、その前から考えていたってことだろ? じゃあ、一体いつからか。そんでそんなに前から辞めるつもりだったのなら、どうして今まで辞めなかったのか。色々考えてさ」

 山路だけでなく、みんなの視線が俺へと集まる。
 胸が苦しくなる。視線が痛いんじゃない。山路を見て俺の辿り着いた結論が正しいと確信できたからだ。
 それでも俺は話を止めない。

「そんで、春大会の終わりに何があるのか、考えた」

 その一言に、山路は大きく表情を歪めた。
 そして俺は辿り着いた結論を山路にぶつける。



「山路、お前は先輩たちが引退するから辞めるんだろ?」



「え……」

 声を上げたのは女子たちだった。
 三人とも困惑したように山路と俺を見比べた。
 そりゃそうだ。この言葉だけじゃ山路がどうして辞めるかわからないだろう。
 だから俺は真実を口にしようとした。
 何かが止めとけって警告を出しているが、俺は気にしない。

「もっと明確に言おうか山路。お前は――「………めろ」え?」

「止めろって言ってんだよ!」

 一瞬の出来事だった。
 山路が叫び俺の胸ぐらを掴みかかった。
 反射的に身構えようとしたが、とっさのことに反応できず俺は背中から倒れこむ。全身に痛みを感じた。
 そして馬乗りになる形で山路が俺の上に乗る。
 視界の端で増倉が何かを言おうとするが、山路の叫びにかき消される。

「ちょっ――!」

「何でだよ! どうしてだ! どうしてこのまま静かに辞めさせてくれないんだ!」

 それは今日初めて出す山路の感情だった。
 鋭くなった瞳には、さっきまでの冷静さが嘘かと思うほどの熱が確かにある。
 山路の感情に対して、俺も持っている感情をぶつける。

「そんなの当たり前だろ!! さっきから聞いていれば何が端役だ! 何が共感できないだ! 悟ってんじゃねーぞ!」

「黙れよ! 頼むからこのまま静かに辞めさせてくれ!」

「ふざけんな! そんなの認められるわけないだろ!」

「ちょっと二人とも止めて! …………ねぇ樫田!」

 視界の外で増倉が樫田に助けを求める。
 だが、樫田は動かないだろう。
 吐息が聞こえるぐらい顔を近づけ、山路は俺を睨む。

「いいだろ! 別に嘘はついてない!」

「だからなおさら悪いんだろ! 何でだよ!? 俺たちは一緒に部活やってきた仲間だろ! ダチだろ! なのに何で本当の理由を言えないだよ!?」

「言えるわけないだろ!」

 俺の胸ぐらを握る山路の手が震えている。
 目の前の山路の表情は必死で、ぐつぐつとして怒りで一杯だった。

「だから何でだよ!? 分かんねーよ! 何で正直に言ってくれなかったんだよ!」

「杉野には分かんないよ! 僕がどんな気持ちで部活をしていたなんて!」

「分かんねーよ! 分かんねーから言えって言ってんだよ!」

「何様だよ!」

「そっちこそ!」

 俺に乗りながら山路は胸ぐらを掴んだ手を締めてくる。
 必死に抵抗しながら、俺は叫ぶ。

「俺が知った時どう思ったから分かるか!?」

「っ! 呆れたのか!? 怒ったのか!?」

「違ぇよ! 悲しかったんだよ! 樫田も大槻も知っていて、俺だけ知らないで! 友達なら知っていてもいいようなことを、俺だけが知らないで! 何でだよ山路!?」

「うるさい!」

「いいじゃねーか! 誰も笑わない! 誰も軽蔑しない!」

「黙れよ! そんなことは、そんなことは分かっているんだよ!」

「おま、分かっているなら――!?」

「ダチだからだよ!!」

「っ!」

 山路の咆哮(ほうこう)が教室中に響き渡った。
 俺の頬に、雫が落ちてくる。生温く重いその雫が何度も俺にぶつかってくる。

「ダチだから、仲間だから……言えなかったんだよ……」

 胸ぐらを絞めていた両手がゆっくりと離れていく。
 俺は呼吸を整えながら山路を見る。

「こんな不純な動機で、みんなと一緒にいたわけじゃないんだ…………でも、それでも、仕方ないだろ。僕にとってはどっちも大切なんだ……」

 かすれた声で山路が白状したのは葛藤だった。
 静まり返った中、山路はゆっくりと立ち上がった。
 視界が広くなる。大槻と樫田は辛そうな表情で立ち尽くし、女子たちは困惑と悲痛の入り混じった表情をしていた。

「……こうなったからには、ちゃんと話すよ」

 何かを決意したのか、何かを諦めたのか山路は呟く。
 みんなの視線を集めると、ゆっくりと話し出す。
 山路の内にある本当の動機を。

「僕はね、轟先輩のことが好きだったんだ」



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 みんなの視線が山路へ集まった。
 きっと夏村や椎名もうっすらと気づいているのだろう。何かがあることに。
 ただ一人、山路本人だけは白を切る。
「……何のことかな? 杉野」
「そうか。自分から言う気はないんだな」
「…………」
 誤魔化すようにぎこちなく笑う山路。
 そうだな。本来なら俺が答えに辿り着くことなんてなかったんだろうな。
「……この一週間さ。みんなと…………いや、演劇部のみんなといろんな話をしたんだ。俺の知らないこと、俺の思いもよらないこと、本当に色んなことだった」
 そう。思えば俺たち二年だけじゃない。先輩たちに助言をもらって、後輩たちにも相談して、それで色んなことに気づいて今、俺はここにいる。
「そん中で一人に聞かれたんだ。山路がいつから辞めることを考えていたのかって」
「それは……」
「いやさ。その時思ったんだ。盲点っていうか、山路がどうして辞めるのかの動機ばっか考えて、他のことをよく考えてなかったなって」
 山路の表情が少し険しくなる。
 構わず、俺は話を続ける。
「宣戦布告されたときから心のどっかにその気があったなら、その前から考えていたってことだろ? じゃあ、一体いつからか。そんでそんなに前から辞めるつもりだったのなら、どうして今まで辞めなかったのか。色々考えてさ」
 山路だけでなく、みんなの視線が俺へと集まる。
 胸が苦しくなる。視線が痛いんじゃない。山路を見て俺の辿り着いた結論が正しいと確信できたからだ。
 それでも俺は話を止めない。
「そんで、春大会の終わりに何があるのか、考えた」
 その一言に、山路は大きく表情を歪めた。
 そして俺は辿り着いた結論を山路にぶつける。
「山路、お前は先輩たちが引退するから辞めるんだろ?」
「え……」
 声を上げたのは女子たちだった。
 三人とも困惑したように山路と俺を見比べた。
 そりゃそうだ。この言葉だけじゃ山路がどうして辞めるかわからないだろう。
 だから俺は真実を口にしようとした。
 何かが止めとけって警告を出しているが、俺は気にしない。
「もっと明確に言おうか山路。お前は――「………めろ」え?」
「止めろって言ってんだよ!」
 一瞬の出来事だった。
 山路が叫び俺の胸ぐらを掴みかかった。
 反射的に身構えようとしたが、とっさのことに反応できず俺は背中から倒れこむ。全身に痛みを感じた。
 そして馬乗りになる形で山路が俺の上に乗る。
 視界の端で増倉が何かを言おうとするが、山路の叫びにかき消される。
「ちょっ――!」
「何でだよ! どうしてだ! どうしてこのまま静かに辞めさせてくれないんだ!」
 それは今日初めて出す山路の感情だった。
 鋭くなった瞳には、さっきまでの冷静さが嘘かと思うほどの熱が確かにある。
 山路の感情に対して、俺も持っている感情をぶつける。
「そんなの当たり前だろ!! さっきから聞いていれば何が端役だ! 何が共感できないだ! 悟ってんじゃねーぞ!」
「黙れよ! 頼むからこのまま静かに辞めさせてくれ!」
「ふざけんな! そんなの認められるわけないだろ!」
「ちょっと二人とも止めて! …………ねぇ樫田!」
 視界の外で増倉が樫田に助けを求める。
 だが、樫田は動かないだろう。
 吐息が聞こえるぐらい顔を近づけ、山路は俺を睨む。
「いいだろ! 別に嘘はついてない!」
「だからなおさら悪いんだろ! 何でだよ!? 俺たちは一緒に部活やってきた仲間だろ! ダチだろ! なのに何で本当の理由を言えないだよ!?」
「言えるわけないだろ!」
 俺の胸ぐらを握る山路の手が震えている。
 目の前の山路の表情は必死で、ぐつぐつとして怒りで一杯だった。
「だから何でだよ!? 分かんねーよ! 何で正直に言ってくれなかったんだよ!」
「杉野には分かんないよ! 僕がどんな気持ちで部活をしていたなんて!」
「分かんねーよ! 分かんねーから言えって言ってんだよ!」
「何様だよ!」
「そっちこそ!」
 俺に乗りながら山路は胸ぐらを掴んだ手を締めてくる。
 必死に抵抗しながら、俺は叫ぶ。
「俺が知った時どう思ったから分かるか!?」
「っ! 呆れたのか!? 怒ったのか!?」
「違ぇよ! 悲しかったんだよ! 樫田も大槻も知っていて、俺だけ知らないで! 友達なら知っていてもいいようなことを、俺だけが知らないで! 何でだよ山路!?」
「うるさい!」
「いいじゃねーか! 誰も笑わない! 誰も軽蔑しない!」
「黙れよ! そんなことは、そんなことは分かっているんだよ!」
「おま、分かっているなら――!?」
「ダチだからだよ!!」
「っ!」
 山路の咆哮《ほうこう》が教室中に響き渡った。
 俺の頬に、雫が落ちてくる。生温く重いその雫が何度も俺にぶつかってくる。
「ダチだから、仲間だから……言えなかったんだよ……」
 胸ぐらを絞めていた両手がゆっくりと離れていく。
 俺は呼吸を整えながら山路を見る。
「こんな不純な動機で、みんなと一緒にいたわけじゃないんだ…………でも、それでも、仕方ないだろ。僕にとってはどっちも大切なんだ……」
 かすれた声で山路が白状したのは葛藤だった。
 静まり返った中、山路はゆっくりと立ち上がった。
 視界が広くなる。大槻と樫田は辛そうな表情で立ち尽くし、女子たちは困惑と悲痛の入り混じった表情をしていた。
「……こうなったからには、ちゃんと話すよ」
 何かを決意したのか、何かを諦めたのか山路は呟く。
 みんなの視線を集めると、ゆっくりと話し出す。
 山路の内にある本当の動機を。
「僕はね、轟先輩のことが好きだったんだ」