みんなの視線が山路へ集まった。
きっと夏村や椎名もうっすらと気づいているのだろう。何かがあることに。
ただ一人、山路本人だけは白を切る。
「……何のことかな? 杉野」
「そうか。自分から言う気はないんだな」
「…………」
誤魔化すようにぎこちなく笑う山路。
そうだな。本来なら俺が答えに辿り着くことなんてなかったんだろうな。
「……この一週間さ。みんなと…………いや、演劇部のみんなといろんな話をしたんだ。俺の知らないこと、俺の思いもよらないこと、本当に色んなことだった」
そう。思えば俺たち二年だけじゃない。先輩たちに助言をもらって、後輩たちにも相談して、それで色んなことに気づいて今、俺はここにいる。
「そん中で一人に聞かれたんだ。山路がいつから辞めることを考えていたのかって」
「それは……」
「いやさ。その時思ったんだ。盲点っていうか、山路がどうして辞めるのかの動機ばっか考えて、他のことをよく考えてなかったなって」
山路の表情が少し険しくなる。
構わず、俺は話を続ける。
「宣戦布告されたときから心のどっかにその気があったなら、その前から考えていたってことだろ? じゃあ、一体いつからか。そんでそんなに前から辞めるつもりだったのなら、どうして今まで辞めなかったのか。色々考えてさ」
山路だけでなく、みんなの視線が俺へと集まる。
胸が苦しくなる。視線が痛いんじゃない。山路を見て俺の辿り着いた結論が正しいと確信できたからだ。
それでも俺は話を止めない。
「そんで、春大会の終わりに何があるのか、考えた」
その一言に、山路は大きく表情を歪めた。
そして俺は辿り着いた結論を山路にぶつける。
「山路、お前は先輩たちが引退するから辞めるんだろ?」
「え……」
声を上げたのは女子たちだった。
三人とも困惑したように山路と俺を見比べた。
そりゃそうだ。この言葉だけじゃ山路がどうして辞めるかわからないだろう。
だから俺は真実を口にしようとした。
何かが止めとけって警告を出しているが、俺は気にしない。
「もっと明確に言おうか山路。お前は――「………めろ」え?」
「止めろって言ってんだよ!」
一瞬の出来事だった。
山路が叫び俺の胸ぐらを掴みかかった。
反射的に身構えようとしたが、とっさのことに反応できず俺は背中から倒れこむ。全身に痛みを感じた。
そして馬乗りになる形で山路が俺の上に乗る。
視界の端で増倉が何かを言おうとするが、山路の叫びにかき消される。
「ちょっ――!」
「何でだよ! どうしてだ! どうしてこのまま静かに辞めさせてくれないんだ!」
それは今日初めて出す山路の感情だった。
鋭くなった瞳には、さっきまでの冷静さが嘘かと思うほどの熱が確かにある。
山路の感情に対して、俺も持っている感情をぶつける。
「そんなの当たり前だろ!! さっきから聞いていれば何が端役だ! 何が共感できないだ! 悟ってんじゃねーぞ!」
「黙れよ! 頼むからこのまま静かに辞めさせてくれ!」
「ふざけんな! そんなの認められるわけないだろ!」
「ちょっと二人とも止めて! …………ねぇ樫田!」
視界の外で増倉が樫田に助けを求める。
だが、樫田は動かないだろう。
吐息が聞こえるぐらい顔を近づけ、山路は俺を睨む。
「いいだろ! 別に嘘はついてない!」
「だからなおさら悪いんだろ! 何でだよ!? 俺たちは一緒に部活やってきた仲間だろ! ダチだろ! なのに何で本当の理由を言えないだよ!?」
「言えるわけないだろ!」
俺の胸ぐらを握る山路の手が震えている。
目の前の山路の表情は必死で、ぐつぐつとして怒りで一杯だった。
「だから何でだよ!? 分かんねーよ! 何で正直に言ってくれなかったんだよ!」
「杉野には分かんないよ! 僕がどんな気持ちで部活をしていたなんて!」
「分かんねーよ! 分かんねーから言えって言ってんだよ!」
「何様だよ!」
「そっちこそ!」
俺に乗りながら山路は胸ぐらを掴んだ手を締めてくる。
必死に抵抗しながら、俺は叫ぶ。
「俺が知った時どう思ったから分かるか!?」
「っ! 呆れたのか!? 怒ったのか!?」
「違ぇよ! 悲しかったんだよ! 樫田も大槻も知っていて、俺だけ知らないで! 友達なら知っていてもいいようなことを、俺だけが知らないで! 何でだよ山路!?」
「うるさい!」
「いいじゃねーか! 誰も笑わない! 誰も軽蔑しない!」
「黙れよ! そんなことは、そんなことは分かっているんだよ!」
「おま、分かっているなら――!?」
「ダチだからだよ!!」
「っ!」
山路の
咆哮が教室中に響き渡った。
俺の頬に、雫が落ちてくる。生温く重いその雫が何度も俺にぶつかってくる。
「ダチだから、仲間だから……言えなかったんだよ……」
胸ぐらを絞めていた両手がゆっくりと離れていく。
俺は呼吸を整えながら山路を見る。
「こんな不純な動機で、みんなと一緒にいたわけじゃないんだ…………でも、それでも、仕方ないだろ。僕にとってはどっちも大切なんだ……」
かすれた声で山路が白状したのは葛藤だった。
静まり返った中、山路はゆっくりと立ち上がった。
視界が広くなる。大槻と樫田は辛そうな表情で立ち尽くし、女子たちは困惑と悲痛の入り混じった表情をしていた。
「……こうなったからには、ちゃんと話すよ」
何かを決意したのか、何かを諦めたのか山路は呟く。
みんなの視線を集めると、ゆっくりと話し出す。
山路の内にある本当の動機を。
「僕はね、轟先輩のことが好きだったんだ」