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第12話 空の上の番人

ー/ー



 準決勝を翌日に控えた夜、僕たちチーム『ジャンク・キャッスル』は、『シュミットの工房』の事務室で、最後の作戦会議を開いていた。モニターに映し出されているのは、対戦相手である『グリフォン・ダイブ』の、これまでの試合のリプレイ映像だ。

「これが奴らの『グリフォン・ダイブ』か……。単純な突撃だが、とんでもない速度と破壊力だな。相手に息つく暇も与えてない」
 クエンティンが、腕を組みながら唸った。準決勝まで勝ち上がってきただけあって、その実力は本物だった。
「うむ。個々の技量は、間違いなく今大会トップクラスだ」リョウガ先輩も、厳しい表情で同意する。「しかし、その戦術は諸刃の剣でもある。もし、この最初の猛攻を凌ぎきることができれば、一気に流れはこちらに傾くはずだ」
「だよねー。あたしがちょこちょこっとかき乱している間に、クエっちがコア殴る、とかはどうかな?」
 ミミ先輩の言葉に、僕は自分のアイデアを重ねた。
「そうですね。僕がコアを囮に使って、素早く移動できる城でアタッカーたちを引きつけている間に、みんなで敵のコアを叩くのが、良さそうです」

 作戦は、すぐにまとまった。相手の猛攻から逃げ回り、その隙に三人のアタッカーで、手薄になった敵のコアを一斉に破壊する。理論上は、妥当な作戦だった。
 だけど、僕の胸には、拭いきれない、もやもやとした不安が広がっていた。これほど強いチームが、こんなにも分かりやすい戦術だけで勝ち上がってこれるものだろうか。
『リク? ……どうしたの? 不安の感情の波形を感じる』
 僕の視界の隅で、ユイのホログラムが、心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「大丈夫だよ、ユイ。……たぶん、考えすぎだよ」
 僕は、そう言って笑ってみせた。

 そして、運命の準決勝当日。
 僕たちは、いつものように大会会場のブースに入り、それぞれのPCの前に座った。外の喧騒が、嘘のように遠くに聞こえる。僕は、自分の機材を一通りチェックすると、最後に、ジョイスティックの横に置かれたフィグモを手に取った。
 あの日以来、僕は、ユイの顔をまともに見れなくなっていた。
『私は、リクが好き』
 あの言葉は、どういう意味だったんだろう。AIである彼女が、本当に人間のような「好き」という感情を……? 考えても、答えは出ない。ただ、胸の奥が、むず痒いような、暖かいような、不思議な気持ちになるだけだ。

 僕は、意を決して、ユイが入ったフィグモをジョイスティックに接続した。
『リク。準備、完了した』
 ゲーム画面の隅に現れたユイは、いつもと変わらない、少しだけ儚げな表情で僕を見ていた。
「……うん。頼むよ、ユイ」
 僕は、彼女のホログラムから目をそらすように、小さく答えた。

「おい、リク。なんだその顔」
 隣の席のクエンティンが、僕の顔を覗き込んできた。
「準決勝だからって、ガチガチに緊張してんじゃねーぞ」
「ち、違う! 緊張なんかしてない!」
 僕は、慌てて否定した。クエンティンは、僕が別の理由で動揺していることなど、知る由もなかった。

 やがて、モニターに試合開始のカウントダウンが表示される。「5、4、3、2、1……」
「行くぞ、お前ら!」
 リョウガ先輩の号令と共に、試合が始まった。

 ビルドフェイズ。僕たちは、事前の作戦通り、コアを輸送する移動要塞を作ることに専念した。
 そうこうするうちに、ビルドフェイズが終わり、アクションフェイズが始まった。光の壁が消え、戦場が一つになる。
 相手のラッシュは、まだか。来るぞ。
 そう身構えていた、その時だった。

「……ん? なんだ、あいつら」
 クエンティンが、訝しげな声を上げた。
 僕の胸を占めていた、あの正体不明の不安が、一気に形を持って膨れ上がる。
 敵陣から、巨大な影が、ゆっくりと、しかし圧倒的な存在感を放ちながら、空へと浮かび上がった。
 多数の推進ファンで巨体を浮かせ、大砲で武装した、空飛ぶ要塞。
 あれが、『グリフォン』……!

「まずい……!」
 僕たちの「対ラッシュ戦術」は、完全に無意味になった。いや、それどころか、地上で中途半端な要塞を組んでいる僕たちは、空の上の番人にとって、格好の的でしかない。

『リク! 上空から、砲撃が来る!』
「とりあえず逃げる! みんな散開して砲撃から逃げて!」

 砲撃の落ちた地点から、爆炎と爆音が上がる。

 僕は砲撃から逃げながら、ヘッドセットで叫んだ。
「みんな、ゴメン! これは敵の戦術を読み違えた僕のミスだ! でもまだ負けたわけじゃない! これから『バネ』を使ってクラフトするから、それをうまく使って上空に上がってほしい!」

 僕は、降り注ぐ砲撃の中を駆け抜けながら、『バネ』のパーツをスキルで二つ集めた。そして、移動しながらの神業的なクラフトで、『バネ』と『バネ』を組み合わせ、通常より遥かに高く飛べる『バネx2』を即席で作り上げた。
「今から、クラフトした『バネ』を投げる! それを使って、うまく上まで上がって!」
 そう叫んで、僕は完成した『バネx2』を、仲間たちがいる方向へ力一杯放り投げた。

「よし、俺がこの『バネx2』を抑えておく!」リョウガ先輩が、地面に設置されたそれを、巨体でがっしりと固定してくれた。「クエンティン、ミミ、順番に上に上がってくれ!」

「お先に!」
 ミミ先輩は、もともと両足に『バネ』をつけている。彼女は、一気に『バネx2』の上までジャンプすると、その反動を利用して、天高く大ジャンプを敢行した。その姿は、まさしく空を舞う体操選手のようだ。ミミ先輩は敵の要塞の上を飛び越え、滑空に移行した。
 その頃、クエンティンも『バネx2』の上に乗り、大きくジャンプ。敵の要塞よりやや高い位置を確保し、滑空に入った。

 ミミ先輩は、その背中に、僕が彼女のために特別にクラフトした、一門の『大砲』を取り付けていた。少々狙いが甘くても、爆風でダメージを与えられる、彼女のための決戦兵器だ。
 ミミ先輩が、空中で体勢を立て直し、背中の『大砲』を眼下の要塞に向けようとした、その瞬間だった。

 彼女を最大の脅威と判断したのだろう。敵の空中要塞と、その周りを飛んでいた護衛役のアタッカーたちが、一斉にミミ先輩へと狙いをつけた。無数のクロスボウと弓矢が、空を黒く埋め尽くす。
「キャア!」
「ミミ先輩!」
 集中砲火を浴びたミミ先輩のアバターは、なすすべもなく、光の粒子となって地上へと落ちていった。

 それから、わずか10秒後。
 数の有利を作られ、同じく集中攻撃を受けたクエンティンも、悔しそうな叫び声を残して、撃墜されてしまった。


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 準決勝を翌日に控えた夜、僕たちチーム『ジャンク・キャッスル』は、『シュミットの工房』の事務室で、最後の作戦会議を開いていた。モニターに映し出されているのは、対戦相手である『グリフォン・ダイブ』の、これまでの試合のリプレイ映像だ。
「これが奴らの『グリフォン・ダイブ』か……。単純な突撃だが、とんでもない速度と破壊力だな。相手に息つく暇も与えてない」
 クエンティンが、腕を組みながら唸った。準決勝まで勝ち上がってきただけあって、その実力は本物だった。
「うむ。個々の技量は、間違いなく今大会トップクラスだ」リョウガ先輩も、厳しい表情で同意する。「しかし、その戦術は諸刃の剣でもある。もし、この最初の猛攻を凌ぎきることができれば、一気に流れはこちらに傾くはずだ」
「だよねー。あたしがちょこちょこっとかき乱している間に、クエっちがコア殴る、とかはどうかな?」
 ミミ先輩の言葉に、僕は自分のアイデアを重ねた。
「そうですね。僕がコアを囮に使って、素早く移動できる城でアタッカーたちを引きつけている間に、みんなで敵のコアを叩くのが、良さそうです」
 作戦は、すぐにまとまった。相手の猛攻から逃げ回り、その隙に三人のアタッカーで、手薄になった敵のコアを一斉に破壊する。理論上は、妥当な作戦だった。
 だけど、僕の胸には、拭いきれない、もやもやとした不安が広がっていた。これほど強いチームが、こんなにも分かりやすい戦術だけで勝ち上がってこれるものだろうか。
『リク? ……どうしたの? 不安の感情の波形を感じる』
 僕の視界の隅で、ユイのホログラムが、心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「大丈夫だよ、ユイ。……たぶん、考えすぎだよ」
 僕は、そう言って笑ってみせた。
 そして、運命の準決勝当日。
 僕たちは、いつものように大会会場のブースに入り、それぞれのPCの前に座った。外の喧騒が、嘘のように遠くに聞こえる。僕は、自分の機材を一通りチェックすると、最後に、ジョイスティックの横に置かれたフィグモを手に取った。
 あの日以来、僕は、ユイの顔をまともに見れなくなっていた。
『私は、リクが好き』
 あの言葉は、どういう意味だったんだろう。AIである彼女が、本当に人間のような「好き」という感情を……? 考えても、答えは出ない。ただ、胸の奥が、むず痒いような、暖かいような、不思議な気持ちになるだけだ。
 僕は、意を決して、ユイが入ったフィグモをジョイスティックに接続した。
『リク。準備、完了した』
 ゲーム画面の隅に現れたユイは、いつもと変わらない、少しだけ儚げな表情で僕を見ていた。
「……うん。頼むよ、ユイ」
 僕は、彼女のホログラムから目をそらすように、小さく答えた。
「おい、リク。なんだその顔」
 隣の席のクエンティンが、僕の顔を覗き込んできた。
「準決勝だからって、ガチガチに緊張してんじゃねーぞ」
「ち、違う! 緊張なんかしてない!」
 僕は、慌てて否定した。クエンティンは、僕が別の理由で動揺していることなど、知る由もなかった。
 やがて、モニターに試合開始のカウントダウンが表示される。「5、4、3、2、1……」
「行くぞ、お前ら!」
 リョウガ先輩の号令と共に、試合が始まった。
 ビルドフェイズ。僕たちは、事前の作戦通り、コアを輸送する移動要塞を作ることに専念した。
 そうこうするうちに、ビルドフェイズが終わり、アクションフェイズが始まった。光の壁が消え、戦場が一つになる。
 相手のラッシュは、まだか。来るぞ。
 そう身構えていた、その時だった。
「……ん? なんだ、あいつら」
 クエンティンが、訝しげな声を上げた。
 僕の胸を占めていた、あの正体不明の不安が、一気に形を持って膨れ上がる。
 敵陣から、巨大な影が、ゆっくりと、しかし圧倒的な存在感を放ちながら、空へと浮かび上がった。
 多数の推進ファンで巨体を浮かせ、大砲で武装した、空飛ぶ要塞。
 あれが、『グリフォン』……!
「まずい……!」
 僕たちの「対ラッシュ戦術」は、完全に無意味になった。いや、それどころか、地上で中途半端な要塞を組んでいる僕たちは、空の上の番人にとって、格好の的でしかない。
『リク! 上空から、砲撃が来る!』
「とりあえず逃げる! みんな散開して砲撃から逃げて!」
 砲撃の落ちた地点から、爆炎と爆音が上がる。
 僕は砲撃から逃げながら、ヘッドセットで叫んだ。
「みんな、ゴメン! これは敵の戦術を読み違えた僕のミスだ! でもまだ負けたわけじゃない! これから『バネ』を使ってクラフトするから、それをうまく使って上空に上がってほしい!」
 僕は、降り注ぐ砲撃の中を駆け抜けながら、『バネ』のパーツをスキルで二つ集めた。そして、移動しながらの神業的なクラフトで、『バネ』と『バネ』を組み合わせ、通常より遥かに高く飛べる『バネx2』を即席で作り上げた。
「今から、クラフトした『バネ』を投げる! それを使って、うまく上まで上がって!」
 そう叫んで、僕は完成した『バネx2』を、仲間たちがいる方向へ力一杯放り投げた。
「よし、俺がこの『バネx2』を抑えておく!」リョウガ先輩が、地面に設置されたそれを、巨体でがっしりと固定してくれた。「クエンティン、ミミ、順番に上に上がってくれ!」
「お先に!」
 ミミ先輩は、もともと両足に『バネ』をつけている。彼女は、一気に『バネx2』の上までジャンプすると、その反動を利用して、天高く大ジャンプを敢行した。その姿は、まさしく空を舞う体操選手のようだ。ミミ先輩は敵の要塞の上を飛び越え、滑空に移行した。
 その頃、クエンティンも『バネx2』の上に乗り、大きくジャンプ。敵の要塞よりやや高い位置を確保し、滑空に入った。
 ミミ先輩は、その背中に、僕が彼女のために特別にクラフトした、一門の『大砲』を取り付けていた。少々狙いが甘くても、爆風でダメージを与えられる、彼女のための決戦兵器だ。
 ミミ先輩が、空中で体勢を立て直し、背中の『大砲』を眼下の要塞に向けようとした、その瞬間だった。
 彼女を最大の脅威と判断したのだろう。敵の空中要塞と、その周りを飛んでいた護衛役のアタッカーたちが、一斉にミミ先輩へと狙いをつけた。無数のクロスボウと弓矢が、空を黒く埋め尽くす。
「キャア!」
「ミミ先輩!」
 集中砲火を浴びたミミ先輩のアバターは、なすすべもなく、光の粒子となって地上へと落ちていった。
 それから、わずか10秒後。
 数の有利を作られ、同じく集中攻撃を受けたクエンティンも、悔しそうな叫び声を残して、撃墜されてしまった。