第13話 折れた翼の反撃
ー/ー
ミミ先輩とクエンティンが、なすすべもなく空から落とされていく。モニターに映るその光景に、僕の思考は一瞬、凍り付いた。
だけど、絶望している暇なんて、一秒もなかった。
敵の護衛役が二人を落としている間、幸いにも、空中要塞『グリフォン』本体の『大砲』による砲撃は止んでいた。おそらく、『大砲』と『クロスボウ』の操作を同時にはできないためだろう。
好機は、今しかない。
「今のうちだ! 逆転のためのクラフトだ!」
僕の頭の中には、この絶望的な状況を覆すためだけの、一つのアイデアが組み上がっていた。
「ユイ! 僕の城と、あの空中要塞との速度差はどのくらい?!」
『空中要塞のほうが、倍くらい速い! このままじゃ、直ぐに追い詰められる!』
「そっか、『推進ファン』がいるな。とにかく、スピードだ!」
FFOでは『推進ファン』によって、さまざまなクラフトを飛ばすことができる。だけど、今からこの要塞を飛ばすほどの『推進ファン』を集めている時間はない。空中要塞を落とすだけなら、相手を上回る速度さえあればいい。
僕は、近くに転がっていた『推進ファン』を二つ、スキルで自分の元へと引き寄せた。そして、ユイの精密なアシストを借りて、速度アップと小回りが最も効く角度で、僕の要塞の側面の中央部に取り付ける。その作業が完了するのと、敵の砲撃が再開されるのは、ほぼ同時だった。
——間一髪。
新たに『推進ファン』を搭載した僕の要塞は、地面を滑るように、まるで飛ぶように、猛烈な勢いで加速した。
そして、僕たちにとって幸運だったのは、空中要塞の『大砲』に『自動照準装置』が付いていなかったことだ。だから、彼らは要塞本体を動かして僕を狙うしかない。だが、高速で動き回る標的を、着弾が遅い『大砲』で正確に狙うのは、かなり難しいはずだ。僕は、降り注ぐ砲撃の雨を、余裕をもって回避しながら、敵との距離を少しずつ、しかし確実に広げていく。そんな時――。
『リク、俺たちはどうすれば良い?』
リスポーンしたクエンティンから、通信が入った。
「クエンティンとミミ先輩は、爆弾ダルを探してきて下さい。見つかったらすぐに声をかけて! 僕が拾いに行きます!」
『なら、俺はどうすれば良い?』
リョウガ先輩の声。
「リョウガ先輩は、『バネx2』を拾って、僕の城に乗ってください! 爆弾ダルを運んでくるまで、その場で待機です!」
『分かった!』
それから、わずか数十秒後。
『リクっち、見つけたよーー!』
『俺もだ!』
「ユイ、爆弾ダルを運んでいる間だけ、操縦を代わって! 敵の追跡を振り切って!」
『OK!』
僕は空中要塞が、遅れつつもこちらを追ってきていることを確認し、ユイに操縦を任せると、距離が近いミミ先輩の方へとハンドルをきった。
要塞を走らせながら、僕は身を乗り出し、ミミ先輩からずしりと重い爆弾ダルを受け取る。
「頼んだよ!」
「はい!」
さらに要塞を走らせ、クエンティンからも、もう一つの爆弾ダルを受け取った。
「クエンティン、ミミ先輩!リョウガ先輩の方へ向かって下さい!」
『了解!』『分かった!』
その返事を聞く間もなく、僕はリョウガ先輩が待つ合流地点へと全速力で向かった。
リョウガ先輩を要塞に乗せると、彼は開口一番、真剣な目で聞いてきた。
「これからどうする?」
「これから、空中要塞に向かって、真下に入り込みます。『大砲』は真下には撃てませんから、そこが唯一の安全地帯です。そうしたら、リョウガ先輩は、『爆弾ダル』を『バネ』で跳ね上げて、空中要塞を攻撃してください! 僕の予想だと、2発で片付くと思います」
「分かった。責任重大だな」
「はい。準備は良いですか?」
「うむ」
「 では、行きます!」
「オウ!」
僕は、再び『ハンドル』を握りしめ、空に浮かぶ巨大な要塞の、その真下へと猛然と突っ込んで行った。
敵の護衛役が放つ矢が、雨のように降り注ぐ。だが、お構いなしだ。
「今です!」
僕の掛け声とともに、リョウガ先輩は『バネx2』の上に『爆弾ダル』をセットし、スキルを発動させた。解き放たれた『バネ』が、轟音と共に『爆弾ダル』を真上へと射出する。
放たれた『爆弾ダル』は、空中要塞のど真ん中とはいかなかったが、中央後方に正確に命中した。
凄まじい爆発が起こり、『ブロック』が吹き飛んで、内部の青白い『コア』が露出する。
「よし! あと一発!」
僕の要塞と空中要塞は、互いの勢いのまま、すれ違い、反対方向へと進んでいた。先ほどの爆発で、敵の『推進ファン』がいくつか吹き飛んだのだろう。その巨体はバランスを崩し、姿勢制御で手一杯のようだった。
チャンスだ。後ろから回り込んで、トドメを刺す!
そう思って、僕が要塞を反転させ、敵に近づいた、その時だった。
さっきの爆発で吹き飛ばされた敵の護衛アタッカー二人が、一斉に僕の要塞目掛け、手持ちの爆弾を投げてきた。
しまった、と思った時には、もう遅い。僕の真後ろで、二つの爆発が同時に起こった。一瞬、視界が真っ白になり、何が起きたのか分からなかった。
やがて視界が戻り、振り返る。
そこにいたはずのリョウガ先輩は、消えていた。
そればかりか、僕が乗っている操縦席より後ろの『板』も、『タイヤ』も、『爆弾ダル』も、全てが消えていた。
僕のジャンク・キャッスルは、その半分を、爆発で吹き飛ばされていたのだ。
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だけど、絶望している暇なんて、一秒もなかった。
敵の護衛役が二人を落としている間、幸いにも、空中要塞『グリフォン』本体の『大砲』による砲撃は止んでいた。おそらく、『大砲』と『クロスボウ』の操作を同時にはできないためだろう。
好機は、今しかない。
「今のうちだ! 逆転のためのクラフトだ!」
僕の頭の中には、この絶望的な状況を覆すためだけの、一つのアイデアが組み上がっていた。
「ユイ! 僕の城と、あの空中要塞との速度差はどのくらい?!」
『空中要塞のほうが、倍くらい速い! このままじゃ、直ぐに追い詰められる!』
「そっか、『推進ファン』がいるな。とにかく、スピードだ!」
FFOでは『推進ファン』によって、さまざまなクラフトを飛ばすことができる。だけど、今からこの要塞を飛ばすほどの『推進ファン』を集めている時間はない。空中要塞を落とすだけなら、相手を上回る速度さえあればいい。
僕は、近くに転がっていた『推進ファン』を二つ、スキルで自分の元へと引き寄せた。そして、ユイの精密なアシストを借りて、速度アップと小回りが最も効く角度で、僕の要塞の側面の中央部に取り付ける。その作業が完了するのと、敵の砲撃が再開されるのは、ほぼ同時だった。
——間一髪。
新たに『推進ファン』を搭載した僕の要塞は、地面を滑るように、まるで飛ぶように、猛烈な勢いで加速した。
そして、僕たちにとって幸運だったのは、空中要塞の『大砲』に『自動照準装置』が付いていなかったことだ。だから、彼らは要塞本体を動かして僕を狙うしかない。だが、高速で動き回る標的を、着弾が遅い『大砲』で正確に狙うのは、かなり難しいはずだ。僕は、降り注ぐ砲撃の雨を、余裕をもって回避しながら、敵との距離を少しずつ、しかし確実に広げていく。そんな時――。
『リク、俺たちはどうすれば良い?』
リスポーンしたクエンティンから、通信が入った。
「クエンティンとミミ先輩は、爆弾ダルを探してきて下さい。見つかったらすぐに声をかけて! 僕が拾いに行きます!」
『なら、俺はどうすれば良い?』
リョウガ先輩の声。
「リョウガ先輩は、『バネx2』を拾って、僕の城に乗ってください! 爆弾ダルを運んでくるまで、その場で待機です!」
『分かった!』
それから、わずか数十秒後。
『リクっち、見つけたよーー!』
『俺もだ!』
「ユイ、爆弾ダルを運んでいる間だけ、操縦を代わって! 敵の追跡を振り切って!」
『OK!』
僕は空中要塞が、遅れつつもこちらを追ってきていることを確認し、ユイに操縦を任せると、距離が近いミミ先輩の方へとハンドルをきった。
要塞を走らせながら、僕は身を乗り出し、ミミ先輩からずしりと重い爆弾ダルを受け取る。
「頼んだよ!」
「はい!」
さらに要塞を走らせ、クエンティンからも、もう一つの爆弾ダルを受け取った。
「クエンティン、ミミ先輩!リョウガ先輩の方へ向かって下さい!」
『了解!』『分かった!』
その返事を聞く間もなく、僕はリョウガ先輩が待つ合流地点へと全速力で向かった。
リョウガ先輩を要塞に乗せると、彼は開口一番、真剣な目で聞いてきた。
「これからどうする?」
「これから、空中要塞に向かって、真下に入り込みます。『大砲』は真下には撃てませんから、そこが唯一の安全地帯です。そうしたら、リョウガ先輩は、『爆弾ダル』を『バネ』で跳ね上げて、空中要塞を攻撃してください! 僕の予想だと、2発で片付くと思います」
「分かった。責任重大だな」
「はい。準備は良いですか?」
「うむ」
「 では、行きます!」
「オウ!」
僕は、再び『ハンドル』を握りしめ、空に浮かぶ巨大な要塞の、その真下へと猛然と突っ込んで行った。
敵の護衛役が放つ矢が、雨のように降り注ぐ。だが、お構いなしだ。
「今です!」
僕の掛け声とともに、リョウガ先輩は『バネx2』の上に『爆弾ダル』をセットし、スキルを発動させた。解き放たれた『バネ』が、轟音と共に『爆弾ダル』を真上へと射出する。
放たれた『爆弾ダル』は、空中要塞のど真ん中とはいかなかったが、中央後方に正確に命中した。
凄まじい爆発が起こり、『ブロック』が吹き飛んで、内部の青白い『コア』が露出する。
「よし! あと一発!」
僕の要塞と空中要塞は、互いの勢いのまま、すれ違い、反対方向へと進んでいた。先ほどの爆発で、敵の『推進ファン』がいくつか吹き飛んだのだろう。その巨体はバランスを崩し、姿勢制御で手一杯のようだった。
チャンスだ。後ろから回り込んで、トドメを刺す!
そう思って、僕が要塞を反転させ、敵に近づいた、その時だった。
さっきの爆発で吹き飛ばされた敵の護衛アタッカー二人が、一斉に僕の要塞目掛け、手持ちの爆弾を投げてきた。
しまった、と思った時には、もう遅い。僕の真後ろで、二つの爆発が同時に起こった。一瞬、視界が真っ白になり、何が起きたのか分からなかった。
やがて視界が戻り、振り返る。
そこにいたはずのリョウガ先輩は、消えていた。
そればかりか、僕が乗っている操縦席より後ろの『板』も、『タイヤ』も、『爆弾ダル』も、全てが消えていた。
僕のジャンク・キャッスルは、その半分を、爆発で吹き飛ばされていたのだ。