「大丈夫?」
そう優しい声を出したのは、ぶつかりそうになった男の方。男の後ろで一瞬、不満そうな反応を見せたのは女。
「私は大丈夫です。こちらが急に立ったのにすみません。あの、大丈夫でしたか?」
舞香の言葉と美都が丁寧に頭を下げたのを見て、女も表情を戻した。そして舞香と視線が交わる。女は何か気付いたようだ。
「あれ? たしか江南のライダーじゃない?」
「あ、本当だ。はじめまして」
男の方のレスポンスも早い。舞香は差し伸べられた手を見て、困ったように動きを止める。
男は自ら舞香の手を取って、もう一方の手も重ねる。再び不満そうな顔付きを感じさせる女。正反対に男は曇りのない笑顔を向けてくる。
「あ、あの、私は……」
「俺は藤稜高校一年、涼風颯志よろしくな」
(えっ涼風颯志!? アンキーさんが言っていたドイツ帰りの天才児?!)
「で、こっちは成瀬十葉。障害馬術じゃ、ちょいと凄腕だぜ」
颯志は二の句が告げられない舞香を畳み掛けるように言葉を続けた。舞香を見つめる瞳は微動たりしない。
こういうときに頼りになるのは美都だ、物怖じしない。肩にかかった髪を払うと、舞香の手に変わって颯志の手を取る。
「私は常盤美都、馬場馬術。で、月皇舞香、馬場馬術。二人とも一年生よ」