ポテンシャル、潜在能力と言われるこの能力は、内に潜んでいて未だ表面に出ない隠された能力だけを指すわけではない。
瞬発的に表面化する持続性のない能力、つまり『意識的にその能力を常に引き出しているわけではない』だけで、一定の状況下においての閃き、少なくとも舞羽のそれは、そう言った類の能力だ。固定概念に囚われない閃き……。
(その閃きに迷いが生じている……?)
天才はその才能を見極める……遊馬は舞羽の現状をそう分析していた。
***
(明日乗る馬は、あたしを引っ張ってくれる、ガツガツ系の馬だといいな)
馬との相性は大切である。しかし今まで舞羽はあまり気にしたことがなかった。馬にも個性がある。同じように接しても反応が鈍い馬だったり、動きが軽い馬や反撞(* 馬の背の動きによる乗り手への跳ね返りの感覚のこと)が高かったり。
舞羽は弱気になっていたと言える。
舞羽は明日を想うと眠れないでいた。ベッドに潜るのも早すぎた。カーテンの隙間から漏れる星空、広く明るい北海道の空は思考を覚醒させて止まない。
薄い掛布団をめくると、はだけた館内着から程よい太ももが露わになる。肌質が伝わってくる艶やかさだ。そっと裾を直す。
ただコースを回る順番を覚えれば馬が飛んでくれる、というものではなく、騎手がどのような作戦を考えて馬をリードして、それを実行するための指示を正しく馬に出せるかが勝負の行方にかかわってくる。
舞羽は勝負に囚われていた。恐らくそれは障害馬術の天才、天沢遊馬が『負ける』なんて考えられないという、思いもよらないプレッシャーが舞羽の自信喪失に拍車をかけている。
舞羽はベッドから降りると、一枚羽織って部屋を出た。廊下の電気は頼りない程度に灯っていた。