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清算された子

ー/ー




※「清算」(せいさん)
 -過去の関係に結末、けじめをつけること-

「彼氏が出来たら、絶対、パパに報告すること」
 物心がついた頃から、何度も娘に言い聞かせていた。
 「また、その話。もうわかってるって。パパは心配しすぎなの。そんな簡単に彼氏なんてできる訳ないでしょ。ママがいない高校生は大変なの。パパのお弁当だって作らないといけないし」
 「いつも美味しいお弁当をありがとうな」
 愛娘が高校生になり、心配が増える一方だ。最近の男どもは一人の女性だけを愛することができない。
 娘には辛い思いをさせたくない。俺が男を見定める。少しでも不安要素があれば、即却下。

 電車通勤をしていると、聞きたくないような話を耳にしなければならない時がある。
 毎日の献立を考えるのが、吐き気を催すほど苦痛だと主婦が大きな声で喋っていた。働きもせず、家にいる分際で偉そうに。とても気分が悪くなる。
 見慣れた景色にうんざりし、会社に向かう。毎日同じことの繰り返しで俺の方こそ、この生活に吐き気がする。
 しかし、愛娘がいるから頑張れるのだ。

 朝礼が始まった。部長の隣に、ものすごい美人が立っている。静かにしてなければいけないのに、周りもざわついている。
 「静かに!」
 部長が口を開いた。
 「みんなも気になって仕方がないと思うが、こちらの美人さんは、今日から仲間になる『川瀬芽衣』さんだ。みんなよろしく頼むぞ」
 「はじめまして。先程、ご紹介していただきました『川瀬芽衣』と申します。広告のお仕事は初めてですので皆さんにご迷惑をおかけしない様、誠意一杯頑張りますので、ご指導のほどよろしくお願いいたします」
 同僚の佐々木が肘で突いてくる。
 「何だよ、やめろ」
 「すげぇ、美人だな。お前、手出すなよ。亡くなった奥さんが悲しむぞ」
 「出すわけないだろ」
「よく言うぜ。久典、お前の若い頃の話を聞いてれば誰でもそう言いたくなるだろ」
「うるせぇな。やっぱり、お前に話すんじゃなかった」

 酔いもまわり心地よくなっていた事もあり、つい話してしまった。俺の消したい過去を。
 元カノの『梨花』は服毒自殺をした。原因は俺の幾度となる浮気だ。
 今思えば、自分のことを後回しにし、尽くしてくれるいい子だった。
 第一発見者の俺は、真っ先に疑われた。何度も同じ事を色々な刑事に聞かれ、悲しんでいる余裕などなかった。むしろ、勝手に死んだことを腹立たしく思った。アリバイが立証され、無事に容疑者リストから外れたのは三ヶ月もの月日を要した。
 でも、俺は『遺書はなかったです』と一つだけ、嘘をついた。自分宛に書いてある内容が怖くて、家で燃やした。あの言葉がずっと頭にこびりついて離れない。
 そのこともあって俺は、娘の心配を過剰にしてしまう。

 「よろしくお願いします」
 川瀬さんのデスクは俺の隣らしい。横顔もとても美人だ。思わず見とれてしまう。元カノと妻で懲りたのに、俺の悪い部分が顔を出そうとしている。もう誰も愛さないと決めたんだ。恋愛をしていなければ、症状は出ない。
 しかし、絶世の美女を目の前にしたら無理だ。恋をしてしまった。きっと今回は大丈夫だ。川瀬さん以上の美人はいないだろうから……。
 よくある話だが、仕事を教えているうちに自然と距離が縮まり、早々に肉体関係が生まれた。父子家庭な事もあり、芽衣は自宅に来る回数が増えていった。
 
 「久典さん、おかえりなさい。今日は早上がりだったから、ご飯作って待ってたの」
 「それは嬉しいな。ありがとう」
 「みーちゃんは、部活で遅くなるって」
 いつの間にか、娘とも仲良くなり、芽衣は『みーちゃん』と呼んでいる。娘も気に入っているらしい。俺は猫みたいであまり好きじゃない。
 俺はやっと運命の人に出会えた。芽衣に夢中で他の女など全く興味がない。今やっと、元カノと妻の気持ちが分かる。こんなに愛している人に何度も裏切られてしまうなんてとても耐えられない。本当に申し訳ないことをした。

 「さっきから携帯が何度か鳴ってるぞ」
 「あ、ありがとう」
 芽衣の挙動不審な動きに胸騒ぎを覚える……。俺には分かるんだ。浮気をしている奴の不自然な仕草が。

 ー私の浮気を疑っている。もっと疑え。こいつは奥さんまで追いつめたのか。『恋愛をしなければ、症状が出ない』そのダサい言い訳には、反吐が出る。もっといい女が欲しくなる欲求を、自分でコンロールできないだけなのに、病人ぶりやがって。このブス男ー

 「今夜は帰ります」
 「明日は二人揃って休みだ。帰る理由なんてないだろ」
 「実家の母が、田舎から来ているの」
 「それなら、連れてきてくれればよかったのに」
 「いいの?ありがとう。でもまたの機会にさせてもらう」
 そう言って、芽衣は帰っていった。絶対に嘘だ。今まで家族の話など聞いた事もない。それに、すごい数の通知音。絶対に浮気をしている。

 俺はしばらく考えたが、この目で確かめようと芽衣の家に向かった。冬になると日が短くなり、あっと言う間に真っ暗だ。街灯がなく、はっきりと見えないが、愛娘に似ている子がこちらに向かって歩いてくる。名前を呼ぼうとしたが、突然姿が消えた。
 嫌な予感が胸を締め付ける。うまく走ることが出来ずに、サンダルを履いてきた事を後悔した。
 予感は的中。愛娘の美月は、倒されていた。さらに驚いたのは、美月に跨がっていたのは芽衣だっだ。暗くて顔が見えなかったが、太ももの薔薇で分かった。
 「おい!離れろ!」
 「遺書を覚えてる?『将来、女の子を授からない事を祈っているわ』と書いてあったでしょ。でも奥さんは産んでくれたのね」
 下着を片手に持ち、もう片方の手で美月の腹に液体をかけた。
 そして、俺の頬に右手を添えて『過去は追いかけてくるのよ』と甘い声で囁いた。

 その子が生きた意味は、ただ「製造された」という事実に過ぎない。
あなたの知る“美人”は、自然か、それとも製造か。



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※「清算」(せいさん)
 -過去の関係に結末、けじめをつけること-
「彼氏が出来たら、絶対、パパに報告すること」
 物心がついた頃から、何度も娘に言い聞かせていた。
 「また、その話。もうわかってるって。パパは心配しすぎなの。そんな簡単に彼氏なんてできる訳ないでしょ。ママがいない高校生は大変なの。パパのお弁当だって作らないといけないし」
 「いつも美味しいお弁当をありがとうな」
 愛娘が高校生になり、心配が増える一方だ。最近の男どもは一人の女性だけを愛することができない。
 娘には辛い思いをさせたくない。俺が男を見定める。少しでも不安要素があれば、即却下。
 電車通勤をしていると、聞きたくないような話を耳にしなければならない時がある。
 毎日の献立を考えるのが、吐き気を催すほど苦痛だと主婦が大きな声で喋っていた。働きもせず、家にいる分際で偉そうに。とても気分が悪くなる。
 見慣れた景色にうんざりし、会社に向かう。毎日同じことの繰り返しで俺の方こそ、この生活に吐き気がする。
 しかし、愛娘がいるから頑張れるのだ。
 朝礼が始まった。部長の隣に、ものすごい美人が立っている。静かにしてなければいけないのに、周りもざわついている。
 「静かに!」
 部長が口を開いた。
 「みんなも気になって仕方がないと思うが、こちらの美人さんは、今日から仲間になる『川瀬芽衣』さんだ。みんなよろしく頼むぞ」
 「はじめまして。先程、ご紹介していただきました『川瀬芽衣』と申します。広告のお仕事は初めてですので皆さんにご迷惑をおかけしない様、誠意一杯頑張りますので、ご指導のほどよろしくお願いいたします」
 同僚の佐々木が肘で突いてくる。
 「何だよ、やめろ」
 「すげぇ、美人だな。お前、手出すなよ。亡くなった奥さんが悲しむぞ」
 「出すわけないだろ」
「よく言うぜ。久典、お前の若い頃の話を聞いてれば誰でもそう言いたくなるだろ」
「うるせぇな。やっぱり、お前に話すんじゃなかった」
 酔いもまわり心地よくなっていた事もあり、つい話してしまった。俺の消したい過去を。
 元カノの『梨花』は服毒自殺をした。原因は俺の幾度となる浮気だ。
 今思えば、自分のことを後回しにし、尽くしてくれるいい子だった。
 第一発見者の俺は、真っ先に疑われた。何度も同じ事を色々な刑事に聞かれ、悲しんでいる余裕などなかった。むしろ、勝手に死んだことを腹立たしく思った。アリバイが立証され、無事に容疑者リストから外れたのは三ヶ月もの月日を要した。
 でも、俺は『遺書はなかったです』と一つだけ、嘘をついた。自分宛に書いてある内容が怖くて、家で燃やした。あの言葉がずっと頭にこびりついて離れない。
 そのこともあって俺は、娘の心配を過剰にしてしまう。
 「よろしくお願いします」
 川瀬さんのデスクは俺の隣らしい。横顔もとても美人だ。思わず見とれてしまう。元カノと妻で懲りたのに、俺の悪い部分が顔を出そうとしている。もう誰も愛さないと決めたんだ。恋愛をしていなければ、症状は出ない。
 しかし、絶世の美女を目の前にしたら無理だ。恋をしてしまった。きっと今回は大丈夫だ。川瀬さん以上の美人はいないだろうから……。
 よくある話だが、仕事を教えているうちに自然と距離が縮まり、早々に肉体関係が生まれた。父子家庭な事もあり、芽衣は自宅に来る回数が増えていった。
 「久典さん、おかえりなさい。今日は早上がりだったから、ご飯作って待ってたの」
 「それは嬉しいな。ありがとう」
 「みーちゃんは、部活で遅くなるって」
 いつの間にか、娘とも仲良くなり、芽衣は『みーちゃん』と呼んでいる。娘も気に入っているらしい。俺は猫みたいであまり好きじゃない。
 俺はやっと運命の人に出会えた。芽衣に夢中で他の女など全く興味がない。今やっと、元カノと妻の気持ちが分かる。こんなに愛している人に何度も裏切られてしまうなんてとても耐えられない。本当に申し訳ないことをした。
 「さっきから携帯が何度か鳴ってるぞ」
 「あ、ありがとう」
 芽衣の挙動不審な動きに胸騒ぎを覚える……。俺には分かるんだ。浮気をしている奴の不自然な仕草が。
 ー私の浮気を疑っている。もっと疑え。こいつは奥さんまで追いつめたのか。『恋愛をしなければ、症状が出ない』そのダサい言い訳には、反吐が出る。もっといい女が欲しくなる欲求を、自分でコンロールできないだけなのに、病人ぶりやがって。このブス男ー
 「今夜は帰ります」
 「明日は二人揃って休みだ。帰る理由なんてないだろ」
 「実家の母が、田舎から来ているの」
 「それなら、連れてきてくれればよかったのに」
 「いいの?ありがとう。でもまたの機会にさせてもらう」
 そう言って、芽衣は帰っていった。絶対に嘘だ。今まで家族の話など聞いた事もない。それに、すごい数の通知音。絶対に浮気をしている。
 俺はしばらく考えたが、この目で確かめようと芽衣の家に向かった。冬になると日が短くなり、あっと言う間に真っ暗だ。街灯がなく、はっきりと見えないが、愛娘に似ている子がこちらに向かって歩いてくる。名前を呼ぼうとしたが、突然姿が消えた。
 嫌な予感が胸を締め付ける。うまく走ることが出来ずに、サンダルを履いてきた事を後悔した。
 予感は的中。愛娘の美月は、倒されていた。さらに驚いたのは、美月に跨がっていたのは芽衣だっだ。暗くて顔が見えなかったが、太ももの薔薇で分かった。
 「おい!離れろ!」
 「遺書を覚えてる?『将来、女の子を授からない事を祈っているわ』と書いてあったでしょ。でも奥さんは産んでくれたのね」
 下着を片手に持ち、もう片方の手で美月の腹に液体をかけた。
 そして、俺の頬に右手を添えて『過去は追いかけてくるのよ』と甘い声で囁いた。
 その子が生きた意味は、ただ「製造された」という事実に過ぎない。
あなたの知る“美人”は、自然か、それとも製造か。