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第二百三十三話

ー/ー



「? 出口はあっちにあるけれど……」
「良かった。では……申し訳ありませんが案内してくれませんか。このスマホを使っても構いませんので」
 その画面には、最初から地図の画面だなんて映し出されていない。彼の追加された能力が、スマホアプリとしてインストールされている。それを見たら最後、どんな存在も傀儡と化す。
 そのスマホを手にした瞬間、礼安の視界から脳内を汚染するべく、催眠の波動が礼安に直撃する。どれほどエヴァが叫ぼうと、その叫び声すら口封じをされているため封殺される。
「――無駄ですよ。貴女がどれほど眼前の少女に尽くそうと……結局は変わりません。精神を読み取られる、だなんて事前情報がある中で、その対策をしない馬鹿はいないでしょう? なら、少しくらいやれることはやるに限る。――そこまで日は開いていませんが……お久しぶりですねェ、エヴァ・クリストフ」
 眼鏡を片手で直しながら、そのレンズ奥に見える狂気的な瞳が、エヴァを突き刺す。まるで蛇に睨まれた蛙のような、無力感を覚えるほどに、彼の魔力と念力が増幅されていたのだ。
 その時、彼女の中で思い返すは、来栖善吉に能力を奪われたと語った和井内。元々、ここまで凶悪な能力ではなかっただろうに、心理学を用いた善吉の悪の方向への思考転換が、ここまで作用するとは思っていなかった。
 元々違法適合手術で埋め込んだ因子であるはずなのに、そして借り物の力であるはずなのに、異常なほどの適合率を見せていたのだ。英雄顔負け、どころか並の英雄の卵だと余裕で敗北してしまうほど。まるで、前世からその肉体に適合していたかのようであったのだ。
(たった数日の間に、ここまで強くなるだなんて――!? 本気で我々を潰しにかかっているんだ……!!)
「その通りですよ、エヴァ・クリストフ」
 思考を完全に読まれたエヴァは、冷や汗を掻く。このどうしようもない現状に加え、自分の思考が相手にとって、手に取るように分かってしまう念能力保持者を目の前にしていたからこそ。
 眼鏡のブリッジを押し上げながら、礼安の頭を玩具を扱うように、何度も軽く叩く。礼安はスマホの画面に見入っており、目は虚ろであった。
「でも、私だけではここまで強くなれませんでした。千葉支部前支部長の置き土産たる、和井内さん。彼の戦う意思が非常に弱くて助かりました。お陰様で蹂躙できたうえに、便利な能力を拝借できました。私の人心掌握術や人を統べる力があれば……私の欲望も満たせると思いまして。短期間で準備すれば、きっと君らも修行だ何だと、小賢しいことをする暇もないでしょうし……丁度いいと思いまして、『思い立ったら即実行』を心掛けたまでですよ。潤沢な行動力は、ビジネスの肝ですから」
 何一つ言葉を発せない上に、近づくだけで一切攻撃行動をとることができない、強力な催眠術を瞬時にかけられたため、これまでにないほど恨みがましく睨みつける以外に行動できないエヴァ。そんな彼女を見やってほくそ笑み、強力無比な洗脳がかかるころ合いだろうと礼安の方へ向き直る。
 眼前の存在は、よく特撮作品などであるような、あるいは二次元の作品等であるような、悪役特有のへまをしない。全部が全部自分の思い通りになるよう、綿密に非情な計画を立てるのだ。人間が持つある程度の善性すらかなぐり捨て、全てを自分が真なる意味で出世し全てを掌握する、その目的のために動き続ける。
 そのためなら、計画の前倒しだろうが何だろうが、問答無用で行うのみであるのだ。
「さて、では新生山梨支部の大幹部として……一年次期待のルーキーこと、瀧本礼安の身柄を頂いていこうかな。少々オーバーパワーかもしれないが……あの学園長も流石に自分の娘を人質に取られたら、自慢のポーカーフェイスを保てないだろうね」
 礼安は、口すら一切動かすことは無く、善吉のスマホを当人に返す。

「――さて、では早速。瀧本礼安、眼前の女を殺せ」

 エヴァは絶望した。あれだけ多くの案件を共に解決してきた後輩であり、自らの想い人たる礼安が、この世で最も煮え湯を飲ませてきた存在たる、来栖善吉に操られている。武器が無いため一切抵抗できるわけもなく、武器があっても礼安に振り下ろせるはずもなく。
 ただ、自分の無力を嘆き、涙を流すのみ。
 そのはずだった。


(エヴァちゃんを 泣かせた 多くの人 傷つけ 玩具にした)

 騒ぎが起こる中、エヴァは絶望感に苛まれた影響で、善吉は周りの大騒ぎによってかき消されるほど、実にか細い声であった。

(エヴァちゃん 心 あの人見たら 見たことないほど 黒くなった)

 礼安はその者の正体を知らない。名前と行った悪行以外知らない。山梨の地を踏みしめていないからこそ、事前知識がほぼと言っていいほどに無かったのだ。

(黒は 誰かを 憎む気持ち つまり エヴァちゃん あの人に 酷いこと されたんだ)

 それでも、握りしめるは拳。次第に、蒼雷が右拳に宿り始める。

(そうか あの人が)

 次第に青筋が額に走り始め、体全体から異常なほど魔力が迸り始める。

(来栖善吉 その人 なんだ)

 そうして、遂に。


「――お前かアァァァァァァッ!!!!!!!!!!」


 これまでにないほど怒り、
 これまでにないほど叫び、
 これまでにないほど力を込め、
 力を解放し、地面と激しく攪拌するように、最大限にまで憎くなった男の頬に、蒼雷纏った全身全霊の右スマッシュを叩き込んだのだ。



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「? 出口はあっちにあるけれど……」
「良かった。では……申し訳ありませんが案内してくれませんか。このスマホを使っても構いませんので」
 その画面には、最初から地図の画面だなんて映し出されていない。彼の追加された能力が、スマホアプリとしてインストールされている。それを見たら最後、どんな存在も傀儡と化す。
 そのスマホを手にした瞬間、礼安の視界から脳内を汚染するべく、催眠の波動が礼安に直撃する。どれほどエヴァが叫ぼうと、その叫び声すら口封じをされているため封殺される。
「――無駄ですよ。貴女がどれほど眼前の少女に尽くそうと……結局は変わりません。精神を読み取られる、だなんて事前情報がある中で、その対策をしない馬鹿はいないでしょう? なら、少しくらいやれることはやるに限る。――そこまで日は開いていませんが……お久しぶりですねェ、エヴァ・クリストフ」
 眼鏡を片手で直しながら、そのレンズ奥に見える狂気的な瞳が、エヴァを突き刺す。まるで蛇に睨まれた蛙のような、無力感を覚えるほどに、彼の魔力と念力が増幅されていたのだ。
 その時、彼女の中で思い返すは、来栖善吉に能力を奪われたと語った和井内。元々、ここまで凶悪な能力ではなかっただろうに、心理学を用いた善吉の悪の方向への思考転換が、ここまで作用するとは思っていなかった。
 元々違法適合手術で埋め込んだ因子であるはずなのに、そして借り物の力であるはずなのに、異常なほどの適合率を見せていたのだ。英雄顔負け、どころか並の英雄の卵だと余裕で敗北してしまうほど。まるで、前世からその肉体に適合していたかのようであったのだ。
(たった数日の間に、ここまで強くなるだなんて――!? 本気で我々を潰しにかかっているんだ……!!)
「その通りですよ、エヴァ・クリストフ」
 思考を完全に読まれたエヴァは、冷や汗を掻く。このどうしようもない現状に加え、自分の思考が相手にとって、手に取るように分かってしまう念能力保持者を目の前にしていたからこそ。
 眼鏡のブリッジを押し上げながら、礼安の頭を玩具を扱うように、何度も軽く叩く。礼安はスマホの画面に見入っており、目は虚ろであった。
「でも、私だけではここまで強くなれませんでした。千葉支部前支部長の置き土産たる、和井内さん。彼の戦う意思が非常に弱くて助かりました。お陰様で蹂躙できたうえに、便利な能力を拝借できました。私の人心掌握術や人を統べる力があれば……私の欲望も満たせると思いまして。短期間で準備すれば、きっと君らも修行だ何だと、小賢しいことをする暇もないでしょうし……丁度いいと思いまして、『思い立ったら即実行』を心掛けたまでですよ。潤沢な行動力は、ビジネスの肝ですから」
 何一つ言葉を発せない上に、近づくだけで一切攻撃行動をとることができない、強力な催眠術を瞬時にかけられたため、これまでにないほど恨みがましく睨みつける以外に行動できないエヴァ。そんな彼女を見やってほくそ笑み、強力無比な洗脳がかかるころ合いだろうと礼安の方へ向き直る。
 眼前の存在は、よく特撮作品などであるような、あるいは二次元の作品等であるような、悪役特有のへまをしない。全部が全部自分の思い通りになるよう、綿密に非情な計画を立てるのだ。人間が持つある程度の善性すらかなぐり捨て、全てを自分が真なる意味で出世し全てを掌握する、その目的のために動き続ける。
 そのためなら、計画の前倒しだろうが何だろうが、問答無用で行うのみであるのだ。
「さて、では新生山梨支部の大幹部として……一年次期待のルーキーこと、瀧本礼安の身柄を頂いていこうかな。少々オーバーパワーかもしれないが……あの学園長も流石に自分の娘を人質に取られたら、自慢のポーカーフェイスを保てないだろうね」
 礼安は、口すら一切動かすことは無く、善吉のスマホを当人に返す。
「――さて、では早速。瀧本礼安、眼前の女を殺せ」
 エヴァは絶望した。あれだけ多くの案件を共に解決してきた後輩であり、自らの想い人たる礼安が、この世で最も煮え湯を飲ませてきた存在たる、来栖善吉に操られている。武器が無いため一切抵抗できるわけもなく、武器があっても礼安に振り下ろせるはずもなく。
 ただ、自分の無力を嘆き、涙を流すのみ。
 そのはずだった。
(エヴァちゃんを 泣かせた 多くの人 傷つけ 玩具にした)
 騒ぎが起こる中、エヴァは絶望感に苛まれた影響で、善吉は周りの大騒ぎによってかき消されるほど、実にか細い声であった。
(エヴァちゃん 心 あの人見たら 見たことないほど 黒くなった)
 礼安はその者の正体を知らない。名前と行った悪行以外知らない。山梨の地を踏みしめていないからこそ、事前知識がほぼと言っていいほどに無かったのだ。
(黒は 誰かを 憎む気持ち つまり エヴァちゃん あの人に 酷いこと されたんだ)
 それでも、握りしめるは拳。次第に、蒼雷が右拳に宿り始める。
(そうか あの人が)
 次第に青筋が額に走り始め、体全体から異常なほど魔力が迸り始める。
(来栖善吉 その人 なんだ)
 そうして、遂に。
「――お前かアァァァァァァッ!!!!!!!!!!」
 これまでにないほど怒り、
 これまでにないほど叫び、
 これまでにないほど力を込め、
 力を解放し、地面と激しく攪拌するように、最大限にまで憎くなった男の頬に、蒼雷纏った全身全霊の右スマッシュを叩き込んだのだ。