表示設定
表示設定
目次 目次




第二百二十九話

ー/ー



 車を走らせ、一時間弱。東京湾アクアラインこと国道四百九号、そして東京湾アクアブリッジを突っ走り辿り着くは、千葉県は木更津。
 千葉県を構成するは、中心業務地区の幕張新都心、アジア地域有数の国際見本市会場である幕張メッセ、国際線旅客数・就航都市数・貿易額で日本一の成田国際空港など、実に様々である。そして、今や日本を代表するテーマパーク、そして千葉県にあるはずなのに「東京」の名を冠することで有名な、「東京デスティニーアイランド」が存在する。こちらは集客施設来場者数で日本一を誇ることでも有名か。
 地域ごとに様々な特色を持っており、農工漁商、バランスの取れた産業構造である。
 しかし、それほどの観光名所であり、住みよい場所に辿り着いたのにも拘らず、一行の表情は浮かないままであった。それもそのはず、今回の目的は観光ではない。近場のアウトレットパークである四井アウトレットパーク木更津にて停車し、千葉県民の様子を探っていた。
「――すまない、今回の作戦、現場の総指揮は俺……百喰が務めさせてもらう。幸い、この千葉県は俺が支部長を務めて『いた』千葉支部のお膝元、ここのことなら大体わかる。今の支部長も俺が選んだ存在……身を寄せる先として非常に頼りになる」
 一行が真剣な表情で百喰の話に耳を傾けるも、その真剣な雰囲気を何とも壊しにかかってくるものが存在した。
 それは――千葉県民の雰囲気であった。
 異様とも呼べる、『皆が笑顔になった』状態。十人十色、それぞれにそれぞれの表情の色が存在するはずが、皆が喜怒哀楽のうち『怒』と『哀』を消し去ったかのような雰囲気でしかなかったのだ。
「――なんだか、楽しそうだね、千葉県の人たち」
「そうですね……非常に興味深いです! そうだよね、エヴァちゃん!」
 興味津々な女子二人とは裏腹に、心ここにあらずと言ったエヴァ。話半分にしか聞いていなかったようで、返事は実に空虚であった。
「――これについては、安心してもらいたい。俺たちの『支部の方針』、そのままだ」
 百喰の語る支部の方針が、何とも理解しきれなかったため、礼安は彼にそのことについて問おうとした矢先、そんな二人を割くように凶刃が振り下ろされる。
「え、誰……!?」
 唐突に振り下ろされた一撃は――その笑顔の一般人から齎されたものであったのだ。


「――おい、百喰とか言ったか。どういうことだよ、アンタらの方針とやらは俺らを殺すってことかよ」
「違う……何かがおかしい!」
「おかしいだ? 俺が言うのもなんだが……寝返る要因、タイミングとしては十分じゃあねえのかよ」
 元々敵対していた存在。それが特例措置として現在味方側にいるその事実は、少々受け入れがたいもの。未だ彼の多くを知らない一向にとって、ある程度の事情があろうとそう簡単に味方とは受け取れない。
 その相手が、よほどのお人よしでない限り。
 礼安は百喰の焦る表情を一瞥すると、困ったように目を伏せた。
「――いや、灰崎さん。私……正明さん嘘ついてないと思う」
「は……?」
 礼安の第六感。それによって瞬時に見抜くは百喰の心。嘘を吐いているのであれば、その心に多少なり揺らぎや色の変化が起こる。それが、どれほど嘘を吐きなれた存在であっても、ほんの少し色が変わる。入学前に敵対した、敵から嫌われることで能力を発揮できるフォルニカすら、結局のところ心の勝負で敗北した。
 ある程度この第六感とも長い付き合いになる中で、この力の精巧性は向上している、そう自分でも自負している。
 戦いの真っただ中でも活かせてきたそんな能力が、今更精彩を欠くだなんてことは有り得なかったのだ。
「……だからおかしいの。正明さんが嘘ついてないなら……この現状は正明さんの想定外そのもの。私たちを目の敵にしている存在が……この千葉県、あるいはその周辺にいるかもしれない」
「――そっか、礼安ちゃん……真犯人が『そう』であることを考えているんだ」
 あの合同演習会から、友愛な関係である加賀美と礼安。お互いの思考が一瞬にして理解できた。
 千葉県を混乱の渦に巻き込んでいる存在は、まごうことなき来栖善吉。百喰、ひいては現支部長代理すら飲み込もうと、全てを混乱させていた、そう考えていたのだ。
「……だがよ、悪いが俺は……と言うか、俺たち一般人に手出しできねェぞ。ご丁寧に、そこら中に監視カメラもありやがる」
 何とか笑顔のまま一向に攻撃する一般人をいなしながら、灰崎が指摘するは――英雄と一般人の関係性について。
 英雄とその相棒たる武器は、内包されている因子の力により、圧倒的な力を保有している。そんな中で、仮に一般人に被害があったとしたら、その英雄や武器の責任問題に発展する。ましてや、貰い事故でそうなるのだから、直接危害を加えたとなったら。その問いの答えは、どんな馬鹿でも理解できるだろう。
 圧倒的な力を保有する存在は、想像以上に弱点が多いのだ。
 ある種テロリズムを起こし、人々に事あるごとに被害や損害を与える『教会』。頂点に立つ存在やそれら支部の長は、基本無法の元に力を行使する。己が欲望を叶えるために、そして祖たる存在の願いを叶えるために。
 しかし、英雄らは基本的に大衆の平和のために活動している。期待に応えられなければ誹謗中傷、多数の被害を生んでしまったのなら誹謗中傷、一般人をまかり間違って死なせてしまったのなら――その先は言わずとも分かるだろう。いくら教会やそれに関わる存在を殺そうと何とも言われない、むしろ感謝されるが、それがもし『ただの人』なら。
 いつだって薄氷の上。最も立場が恵まれていながら、最も立場が危うい存在。
 英雄らは教会ら反社会的組織に強く、反社会的勢力は一般人に強く、そして一般人は英雄らに強い。最悪の三すくみこそ、この二千五十年より少し前から続く因習である。
「――野郎。こうなると分かっていて仕組みやがった、ってことかよ」
 何とか傷をつけないよう立ち回るも、灰崎が人海戦術によって容赦なく複数の拳を貰う。
 反抗しようにも、信一郎との誓いを想起する。ゆえに手出しができないまま、ただ唇を噛み締めるのみ。
「……灰崎さん」
 多くの事実上暴徒に囲まれながら、次なる策を講じるエヴァであったが、思い起こすはトラウマばかり。未だ戦える状況にない彼女は、前線に立ったところで礼安の足手まといになる可能性以外ありえないのだ。
 何より、今彼女の手にはデュアルムラマサは存在しない。善吉との戦いで完全に破損してから、修復すら手を付けていない。レイジーを喪った痛みが、彼女自身を現在進行形で蝕み続けている。
 様々な事情から手を出せない存在が四人、トラウマと何か大切なものを失う恐怖心に敗北した存在が一人。そんな状況で、この圧倒的不利を覆すことは叶わず。
 五人はただ、狂人化した一般人の攻撃を貰い続け、礼安以外はその場に倒れ伏し、気を失ってしまった。
(この人たちの攻撃は全く痛くないけど……でも何もできない……どうすれば)
 一切倒れる気配のない礼安に業を煮やしたのか、笑顔のままで礼安に強力な催眠ガスを、数人が一斉に噴射。気づいた時には遅く、一瞬でも吸い込んでしまったために、膝から崩れ落ちた。
 気を失う寸前、何とか何かしらの証拠を掴もうと感覚を鋭敏に研ぎ澄ませるも、大した成果は無かった。

(――――じい―――人――――いた――)
(なに……いってるんだろう……?)



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第二百三十話


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 車を走らせ、一時間弱。東京湾アクアラインこと国道四百九号、そして東京湾アクアブリッジを突っ走り辿り着くは、千葉県は木更津。
 千葉県を構成するは、中心業務地区の幕張新都心、アジア地域有数の国際見本市会場である幕張メッセ、国際線旅客数・就航都市数・貿易額で日本一の成田国際空港など、実に様々である。そして、今や日本を代表するテーマパーク、そして千葉県にあるはずなのに「東京」の名を冠することで有名な、「東京デスティニーアイランド」が存在する。こちらは集客施設来場者数で日本一を誇ることでも有名か。
 地域ごとに様々な特色を持っており、農工漁商、バランスの取れた産業構造である。
 しかし、それほどの観光名所であり、住みよい場所に辿り着いたのにも拘らず、一行の表情は浮かないままであった。それもそのはず、今回の目的は観光ではない。近場のアウトレットパークである四井アウトレットパーク木更津にて停車し、千葉県民の様子を探っていた。
「――すまない、今回の作戦、現場の総指揮は俺……百喰が務めさせてもらう。幸い、この千葉県は俺が支部長を務めて『いた』千葉支部のお膝元、ここのことなら大体わかる。今の支部長も俺が選んだ存在……身を寄せる先として非常に頼りになる」
 一行が真剣な表情で百喰の話に耳を傾けるも、その真剣な雰囲気を何とも壊しにかかってくるものが存在した。
 それは――千葉県民の雰囲気であった。
 異様とも呼べる、『皆が笑顔になった』状態。十人十色、それぞれにそれぞれの表情の色が存在するはずが、皆が喜怒哀楽のうち『怒』と『哀』を消し去ったかのような雰囲気でしかなかったのだ。
「――なんだか、楽しそうだね、千葉県の人たち」
「そうですね……非常に興味深いです! そうだよね、エヴァちゃん!」
 興味津々な女子二人とは裏腹に、心ここにあらずと言ったエヴァ。話半分にしか聞いていなかったようで、返事は実に空虚であった。
「――これについては、安心してもらいたい。俺たちの『支部の方針』、そのままだ」
 百喰の語る支部の方針が、何とも理解しきれなかったため、礼安は彼にそのことについて問おうとした矢先、そんな二人を割くように凶刃が振り下ろされる。
「え、誰……!?」
 唐突に振り下ろされた一撃は――その笑顔の一般人から齎されたものであったのだ。
「――おい、百喰とか言ったか。どういうことだよ、アンタらの方針とやらは俺らを殺すってことかよ」
「違う……何かがおかしい!」
「おかしいだ? 俺が言うのもなんだが……寝返る要因、タイミングとしては十分じゃあねえのかよ」
 元々敵対していた存在。それが特例措置として現在味方側にいるその事実は、少々受け入れがたいもの。未だ彼の多くを知らない一向にとって、ある程度の事情があろうとそう簡単に味方とは受け取れない。
 その相手が、よほどのお人よしでない限り。
 礼安は百喰の焦る表情を一瞥すると、困ったように目を伏せた。
「――いや、灰崎さん。私……正明さん嘘ついてないと思う」
「は……?」
 礼安の第六感。それによって瞬時に見抜くは百喰の心。嘘を吐いているのであれば、その心に多少なり揺らぎや色の変化が起こる。それが、どれほど嘘を吐きなれた存在であっても、ほんの少し色が変わる。入学前に敵対した、敵から嫌われることで能力を発揮できるフォルニカすら、結局のところ心の勝負で敗北した。
 ある程度この第六感とも長い付き合いになる中で、この力の精巧性は向上している、そう自分でも自負している。
 戦いの真っただ中でも活かせてきたそんな能力が、今更精彩を欠くだなんてことは有り得なかったのだ。
「……だからおかしいの。正明さんが嘘ついてないなら……この現状は正明さんの想定外そのもの。私たちを目の敵にしている存在が……この千葉県、あるいはその周辺にいるかもしれない」
「――そっか、礼安ちゃん……真犯人が『そう』であることを考えているんだ」
 あの合同演習会から、友愛な関係である加賀美と礼安。お互いの思考が一瞬にして理解できた。
 千葉県を混乱の渦に巻き込んでいる存在は、まごうことなき来栖善吉。百喰、ひいては現支部長代理すら飲み込もうと、全てを混乱させていた、そう考えていたのだ。
「……だがよ、悪いが俺は……と言うか、俺たち一般人に手出しできねェぞ。ご丁寧に、そこら中に監視カメラもありやがる」
 何とか笑顔のまま一向に攻撃する一般人をいなしながら、灰崎が指摘するは――英雄と一般人の関係性について。
 英雄とその相棒たる武器は、内包されている因子の力により、圧倒的な力を保有している。そんな中で、仮に一般人に被害があったとしたら、その英雄や武器の責任問題に発展する。ましてや、貰い事故でそうなるのだから、直接危害を加えたとなったら。その問いの答えは、どんな馬鹿でも理解できるだろう。
 圧倒的な力を保有する存在は、想像以上に弱点が多いのだ。
 ある種テロリズムを起こし、人々に事あるごとに被害や損害を与える『教会』。頂点に立つ存在やそれら支部の長は、基本無法の元に力を行使する。己が欲望を叶えるために、そして祖たる存在の願いを叶えるために。
 しかし、英雄らは基本的に大衆の平和のために活動している。期待に応えられなければ誹謗中傷、多数の被害を生んでしまったのなら誹謗中傷、一般人をまかり間違って死なせてしまったのなら――その先は言わずとも分かるだろう。いくら教会やそれに関わる存在を殺そうと何とも言われない、むしろ感謝されるが、それがもし『ただの人』なら。
 いつだって薄氷の上。最も立場が恵まれていながら、最も立場が危うい存在。
 英雄らは教会ら反社会的組織に強く、反社会的勢力は一般人に強く、そして一般人は英雄らに強い。最悪の三すくみこそ、この二千五十年より少し前から続く因習である。
「――野郎。こうなると分かっていて仕組みやがった、ってことかよ」
 何とか傷をつけないよう立ち回るも、灰崎が人海戦術によって容赦なく複数の拳を貰う。
 反抗しようにも、信一郎との誓いを想起する。ゆえに手出しができないまま、ただ唇を噛み締めるのみ。
「……灰崎さん」
 多くの事実上暴徒に囲まれながら、次なる策を講じるエヴァであったが、思い起こすはトラウマばかり。未だ戦える状況にない彼女は、前線に立ったところで礼安の足手まといになる可能性以外ありえないのだ。
 何より、今彼女の手にはデュアルムラマサは存在しない。善吉との戦いで完全に破損してから、修復すら手を付けていない。レイジーを喪った痛みが、彼女自身を現在進行形で蝕み続けている。
 様々な事情から手を出せない存在が四人、トラウマと何か大切なものを失う恐怖心に敗北した存在が一人。そんな状況で、この圧倒的不利を覆すことは叶わず。
 五人はただ、狂人化した一般人の攻撃を貰い続け、礼安以外はその場に倒れ伏し、気を失ってしまった。
(この人たちの攻撃は全く痛くないけど……でも何もできない……どうすれば)
 一切倒れる気配のない礼安に業を煮やしたのか、笑顔のままで礼安に強力な催眠ガスを、数人が一斉に噴射。気づいた時には遅く、一瞬でも吸い込んでしまったために、膝から崩れ落ちた。
 気を失う寸前、何とか何かしらの証拠を掴もうと感覚を鋭敏に研ぎ澄ませるも、大した成果は無かった。
(――――じい―――人――――いた――)
(なに……いってるんだろう……?)