表示設定
表示設定
目次 目次




第二百二十五話

ー/ー



「――って訳。清志郎も分かってくれたかな?」
「ああ、分かった……ってなるかよ!? まず親である俺に一言入れろよ信一郎!!」
 しかし、そうしなかった理由が一つ存在する。清志郎の曲がったことが嫌いな性格に由来するのだが、約三十年間関わってきただけあって、清志郎の弱点を知り尽くしているのだ。
「――だって清志郎、嘘吐くの馬鹿みたいに下手くそじゃん」
「は、はあぁぁっ?? そそそそそんなこと無いぞ!?」
 強情な清志郎を前に、信一郎はあくどい笑みを浮かべた状態で質問を提示する。
「じゃあ今から提示する質問に全て『いいえ』で答えてね? 『元部下である奥さんが心の底から大好きだ』」
「いっ………!!」
 たった一言紡ぐのに、多量出血したかのような脂汗が滲み出ており、拒否反応なのかは知らないが怒りが顔全体に表れていた。
 まるで蚊帳の外、と言わんばかりの子供たちは、片方の子供は溌溂な笑顔を向けていたが、もう片方の子供は実の親が今この場にいない母親に対しての嘘を吐くだけなのに、ラブコールと言わんばかりのあからさまな態度を見るのがとても辛かった。少し前までシリアスな空気が張り詰めていたはずなのに。
「ハイ時間切れー! 熱烈ラブコールありがとうございまーす、まるで膨らませ過ぎた風船みたいなおバカフェイスかつ、二分間無言は放送事故なのでこれ以上は待てませーん」
「待て馬鹿野郎!! まだ質問回答は終わってねえだろ!?」
「事実上の回答とみなして何が悪いのさ? 今の映像の一部始終も睦実ちゃんに送ったからねえ」
「おいコラ馬鹿野郎今すぐ取り消せ!! ならせめて違うビデオを送らせろ!!」
 お互い五十歳のおじさんが繰り広げていいような絵面ではない。その為これ以上何かを取り立てて表現することは無いのだが、二人の子供たちは互いに見合っていた。
「――まあ、学園長から説明されたことが全てだ。合同演習会の時に敵対しなかったのも、ここにこうしてやってきたのも……何もかも全部が学園長の計画の上だ」
「……そうなんだね、正明――……??」
 これまで明確に名前を呼称することが無かったため、呼び方に困っていた礼安。そんな彼女に対して助け舟を出す。
「――俺のことを呼ぶなら正明でいい。仮にも、一度敵対しているからそのくらいでいいだろ。いくら先輩とはいえ……申し訳ないことをしたわけだからな」
「分かった、正明ちゃん!」
「それだけは絶対に辞めろ!?」
 騒々しい学園長室であったが、事は風雲急を告げる。学園長室にドアを破るように入ってきたのは明石。マナーの欠片もない様子であったが、その彼女の顔色から重大さを察するのは容易であった。
「――大変です学園長!! 二名の何者かが学園内に侵入しました!!」


 準備を整え、その場に駆けつける礼安と正明。連絡橋中央部、その場に漆黒のロングコートを着込んだ状態の謎の人物が、二名。お互い表情は知れなかったが、片方の存在から漏れ出す殺気が、辺りを重苦しく満たしていた。
「貴方たち……ん、あれ……??」
 徐々に、礼安の鼓動が早くなる。その先にある真実を知りたくない、無意識的な自己防衛本能が、その先に「行ってはならない」と警鐘を鳴らす。
 それは正明も同じであり、感じられる魔力が『それ』とほぼ同一であったのだ。
「……どうした、英雄(ヒーロー)。侵入者だぞ、止めなくていいのかよ」
「――邪魔立てするなら、今の内だよ」
 最悪の未来を見たくない、それでも戦わねばならない。礼安が半ば自棄になりながら同色二枚、アーサー王とトリスタンによる変身をするのだった。
 エクスカリバーを手に、跳躍し斬りかかる。しかしそれを防ぐのは……彼女がよく見知った武器。
「――――ぇ?」
 声にならないほど、実にか細い声。容赦なくその武器に弾かれ、後退する礼安。その表情は、絶望に満ちていたのだ。
「な、何で――――」
「何でも何も……分かった話だろ」
 男が肩に置く武器は――『念銃・長谷部』。贋作だとかそういった可能性は有り得ない。まごうことなき、あの時傍にいた人物が扱っていた武器そのまま。
 しかし、その存在の胸元には、『教会』所属を表すバッジが光っている。支部長のものではなく、あくまで幹部。しかし幹部の中でも飛び切りの実力者である『大幹部』を示すものであった。
「――『信之』は、もう帰ってこない。それもこれも……英雄学園の存在に殺されたからだ」
 フードを取り去る二人。その顔には、お互い見覚えしかなかった。片方は、信頼できる先輩として。片方は、合同演習会以外にも、『教会』側の手配書(ビンゴ・ブック)に載った著名な顔として。
 この場に立つ存在として、とてもではないが有り得なかったのだ。

「瀧本礼安、信之を殺したお前に……宣戦布告だ」

 その場に立つのは、憤怒の心を滲ませる『織田信長』の因子を持った英雄の卵――森信玄、そして『ヘラクレス』の因子を持った英雄の卵――丙良慎介。
英雄の卵であったはずの存在が、支部の大幹部としてそこに君臨していたのだ。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第二百二十六話


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「――って訳。清志郎も分かってくれたかな?」
「ああ、分かった……ってなるかよ!? まず親である俺に一言入れろよ信一郎!!」
 しかし、そうしなかった理由が一つ存在する。清志郎の曲がったことが嫌いな性格に由来するのだが、約三十年間関わってきただけあって、清志郎の弱点を知り尽くしているのだ。
「――だって清志郎、嘘吐くの馬鹿みたいに下手くそじゃん」
「は、はあぁぁっ?? そそそそそんなこと無いぞ!?」
 強情な清志郎を前に、信一郎はあくどい笑みを浮かべた状態で質問を提示する。
「じゃあ今から提示する質問に全て『いいえ』で答えてね? 『元部下である奥さんが心の底から大好きだ』」
「いっ………!!」
 たった一言紡ぐのに、多量出血したかのような脂汗が滲み出ており、拒否反応なのかは知らないが怒りが顔全体に表れていた。
 まるで蚊帳の外、と言わんばかりの子供たちは、片方の子供は溌溂な笑顔を向けていたが、もう片方の子供は実の親が今この場にいない母親に対しての嘘を吐くだけなのに、ラブコールと言わんばかりのあからさまな態度を見るのがとても辛かった。少し前までシリアスな空気が張り詰めていたはずなのに。
「ハイ時間切れー! 熱烈ラブコールありがとうございまーす、まるで膨らませ過ぎた風船みたいなおバカフェイスかつ、二分間無言は放送事故なのでこれ以上は待てませーん」
「待て馬鹿野郎!! まだ質問回答は終わってねえだろ!?」
「事実上の回答とみなして何が悪いのさ? 今の映像の一部始終も睦実ちゃんに送ったからねえ」
「おいコラ馬鹿野郎今すぐ取り消せ!! ならせめて違うビデオを送らせろ!!」
 お互い五十歳のおじさんが繰り広げていいような絵面ではない。その為これ以上何かを取り立てて表現することは無いのだが、二人の子供たちは互いに見合っていた。
「――まあ、学園長から説明されたことが全てだ。合同演習会の時に敵対しなかったのも、ここにこうしてやってきたのも……何もかも全部が学園長の計画の上だ」
「……そうなんだね、正明――……??」
 これまで明確に名前を呼称することが無かったため、呼び方に困っていた礼安。そんな彼女に対して助け舟を出す。
「――俺のことを呼ぶなら正明でいい。仮にも、一度敵対しているからそのくらいでいいだろ。いくら先輩とはいえ……申し訳ないことをしたわけだからな」
「分かった、正明ちゃん!」
「それだけは絶対に辞めろ!?」
 騒々しい学園長室であったが、事は風雲急を告げる。学園長室にドアを破るように入ってきたのは明石。マナーの欠片もない様子であったが、その彼女の顔色から重大さを察するのは容易であった。
「――大変です学園長!! 二名の何者かが学園内に侵入しました!!」
 準備を整え、その場に駆けつける礼安と正明。連絡橋中央部、その場に漆黒のロングコートを着込んだ状態の謎の人物が、二名。お互い表情は知れなかったが、片方の存在から漏れ出す殺気が、辺りを重苦しく満たしていた。
「貴方たち……ん、あれ……??」
 徐々に、礼安の鼓動が早くなる。その先にある真実を知りたくない、無意識的な自己防衛本能が、その先に「行ってはならない」と警鐘を鳴らす。
 それは正明も同じであり、感じられる魔力が『それ』とほぼ同一であったのだ。
「……どうした、|英雄《ヒーロー》。侵入者だぞ、止めなくていいのかよ」
「――邪魔立てするなら、今の内だよ」
 最悪の未来を見たくない、それでも戦わねばならない。礼安が半ば自棄になりながら同色二枚、アーサー王とトリスタンによる変身をするのだった。
 エクスカリバーを手に、跳躍し斬りかかる。しかしそれを防ぐのは……彼女がよく見知った武器。
「――――ぇ?」
 声にならないほど、実にか細い声。容赦なくその武器に弾かれ、後退する礼安。その表情は、絶望に満ちていたのだ。
「な、何で――――」
「何でも何も……分かった話だろ」
 男が肩に置く武器は――『念銃・長谷部』。贋作だとかそういった可能性は有り得ない。まごうことなき、あの時傍にいた人物が扱っていた武器そのまま。
 しかし、その存在の胸元には、『教会』所属を表すバッジが光っている。支部長のものではなく、あくまで幹部。しかし幹部の中でも飛び切りの実力者である『大幹部』を示すものであった。
「――『信之』は、もう帰ってこない。それもこれも……英雄学園の存在に殺されたからだ」
 フードを取り去る二人。その顔には、お互い見覚えしかなかった。片方は、信頼できる先輩として。片方は、合同演習会以外にも、『教会』側の|手配書《ビンゴ・ブック》に載った著名な顔として。
 この場に立つ存在として、とてもではないが有り得なかったのだ。
「瀧本礼安、信之を殺したお前に……宣戦布告だ」
 その場に立つのは、憤怒の心を滲ませる『織田信長』の因子を持った英雄の卵――森信玄、そして『ヘラクレス』の因子を持った英雄の卵――丙良慎介。
英雄の卵であったはずの存在が、支部の大幹部としてそこに君臨していたのだ。