表示設定
表示設定
目次 目次




第二百二十四話

ー/ー



 告げられた真実は、まさかのものであった。今まで千葉支部の支部長として、そして合同演習会内で信之と結託し英雄学園を襲っていた存在は、英雄学園サイド以上の『原初の英雄』の一人、その男の実の息子であった。以上、簡潔な衝撃内容の発露終了。
「――しかしよ、話を聞かねえと思ったら、正明……お前さん『教会』に属していたのかよ。不良か?」
「いや不良とかの話じゃあねえだろ。俺には俺の目的があんのよ」
 今にも、派手な親子喧嘩が始まりそうなほど、当人らの間に激しい電流が流れている中、礼安はあわあわと何もできずにいた。そんな礼安に助け舟を出すべく、信一郎が当人らの間に割って入る。
「……これについては、私から語らせてもらおうかな? じゃあないと事が複雑化しそうだ」


 事の発端は、徐々に『教会』による被害が表面化し始めたころの話。礼安が入学する、ほんの二年前。当時圧倒的に三年次のエースであった正明は、学園長である信一郎にある提案を持ちかけられる。
「――よく来てくれたね、正明くん」
 その頃の正明は、学園指定の制服を多少着崩した不良(ヤンキー)然とした見た目であった。髪型もキマったリーゼントであり、見る者によっては前時代的な存在と揶揄するだろう。しかし実際は、当時の学園内でも指折りの実力者であり、三年次トップクラスの学力かつ孤高の実力者であった。いわゆる、英雄科の優等生であった。
「……毎度思ってたんスけど、何で俺だけ名前呼びなんスか」
「――ごめんね、清志郎の実子であることをあまり認識したくなくって……」
「随分個人的な理由じゃあないッスか!?」
 へらへらと笑う信一郎であったが、そんなパートはほんの一瞬のこと。その胸中に何かしらの考えを抱えた、微笑と思惑入り混じった意味深長な顔つきとなる。
「……今回呼んだのは他でもないさ、昨今話題の『教会』に……潜入調査をしてもらいたい」
「――そんな敵中に俺突っ込むとか、アンタはイカレてんスか? いくら他より優れているとはいえ、俺はまだ三年次。最高学年でもねえ上に面倒臭ェから仮免許(カリメン)すら持ってねえんスよ?」
「まあまあ、それほどに君を買ってる、って訳よ。それに、イカレてなきゃあ英雄もその親も務まらないさ」
 一切表情を変えることなく、作戦をその場で口頭にて伝え始める。それは、あまりにも無謀でありながら、どこか非情とも思える作戦群であった。
「――ちょっと待て、俺以外に作戦人員が居ねえんスか!?」
「? そりゃあそうでしょ、大勢で「スパイです! 仲間に入れてください!」とか言っても絶対に通してくれはしないだろうし、少数精鋭で動いたとしても何かしらの裏があると思われかねない。そして少なくとも二年は潜伏期間が欲しいと考えてね……その間、他のことを何も考えずに『わざと本当の敵側に回り続けてほしい』んだ」
 情報を何も流すことの無い、単純な裏切り行為。ちゃんとそれも作戦の内だとはいえ、英雄の卵である正明が簡単に了承するとは思っていなかった。
 だからこそ、ある餌を彼の前に提示したのだ。
「確か……君は以前、『血沸き肉躍る闘争がしたい』といっていたね。何なら、それが欲の根源だとか」
「ま、まあそうッスけど……金銭だの、そういったのに執着無いんで、それが戦いに向いているだけッスよ。日頃財布の中身もすっからかんですし……何スか、今更英雄らしくねえとか語るんじゃあねえッスよね」
「いや? 力が発露するための欲望というものは壮大であればいいほど、そして明確なビジョンがあればあるほど素晴らしい力を発揮してくれる。そこに異論はないし、否定する気はないよ」
 彼の前に置かれた写真は幼い頃、笑顔の状態で映る一人の少女。他でもない、瀧本礼安であったのだ。ただ、そこにわざわざぶら下げられるほどの餌としての効力を持っているとは思わず、悪態を吐いてしまう。
「――何スか、幸せ自慢ッスか」
「まあそれもあるよ」
「否定しないんスね」
「ただ、本題はそこじゃあない、この子の『真価』についてだよ」
 その言葉で、正明はそこに秘められた意図を感じ取った。ただ、それは同時に眼前の存在に対して、並外れたほどの狂気を感じさせるものであったのだ。
「――この子、私の愛娘なんだけどね? 恐らくだけど……君の因子に呼応できる存在なんだ。これまでのやり取りで何となく確証を得ているから、信じてもらっていいよ」
「……アンタ、自分の子供を……俺を動かすために前にぶら下げる餌にしてんスよ」
「大丈夫、私はこの子を信じているんだ」
 その瞳に、嘘偽りはない。まだ因子すら真の意味で覚醒していない子供の将来を、輝かしいものであると確証していたのだ。
 正明は、その異次元と言える先見の明に、何とも気味悪さを感じていた。
「――俺、女をいたぶる趣味は無いッスよ」
「大丈夫、いたぶるなんて言葉は杞憂に終わる。そう遠くない未来、君は……好敵手として私の愛娘を選ぶ」
 現状、学園内にこれと言ったライバル的存在がいない正明は、はっきり言うならば伸び悩んでいた。三年次から四年次に進級するうえで、自分自身でも思い描いていた悩みはそこにあった。半端な状態で進級できるほど、四年次進級は甘くない。現時点で、進級出来た存在はたった一人とされている。
「その間、君の席はしっかり保持しておく。君が望むなら、やり直しもできる。少なくとも除名処分は有り得ないとだけ言っておくよ」
 確実なメリットは存在する。これまであまり触れたことの無い分野で自分の力を伸ばせる。さらに、遠くない未来に、自分の心を動かすような存在が現れる、未来予知という名の確定事象。
 信一郎が立案した、緻密に練られた作戦も考慮し、正明は一つの結論を提示する。
「――分かったッスよ。そのアンタの作戦の一人……たった一人に立候補してやろうじゃあねえッスか」
「……OK。受けてくれて感謝するよ、正明くん。それでは準備を整え数日後に『教会』に特攻(ブッコミ)と行こうか」
「そのスタイル、嫌いじゃあねえッスよ」
 そこから、二年と数か月の間に千葉支部の頂点に立ち、強固な地位を築き上げたのだ。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第二百二十五話


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 告げられた真実は、まさかのものであった。今まで千葉支部の支部長として、そして合同演習会内で信之と結託し英雄学園を襲っていた存在は、英雄学園サイド以上の『原初の英雄』の一人、その男の実の息子であった。以上、簡潔な衝撃内容の発露終了。
「――しかしよ、話を聞かねえと思ったら、正明……お前さん『教会』に属していたのかよ。不良か?」
「いや不良とかの話じゃあねえだろ。俺には俺の目的があんのよ」
 今にも、派手な親子喧嘩が始まりそうなほど、当人らの間に激しい電流が流れている中、礼安はあわあわと何もできずにいた。そんな礼安に助け舟を出すべく、信一郎が当人らの間に割って入る。
「……これについては、私から語らせてもらおうかな? じゃあないと事が複雑化しそうだ」
 事の発端は、徐々に『教会』による被害が表面化し始めたころの話。礼安が入学する、ほんの二年前。当時圧倒的に三年次のエースであった正明は、学園長である信一郎にある提案を持ちかけられる。
「――よく来てくれたね、正明くん」
 その頃の正明は、学園指定の制服を多少着崩した|不良《ヤンキー》然とした見た目であった。髪型もキマったリーゼントであり、見る者によっては前時代的な存在と揶揄するだろう。しかし実際は、当時の学園内でも指折りの実力者であり、三年次トップクラスの学力かつ孤高の実力者であった。いわゆる、英雄科の優等生であった。
「……毎度思ってたんスけど、何で俺だけ名前呼びなんスか」
「――ごめんね、清志郎の実子であることをあまり認識したくなくって……」
「随分個人的な理由じゃあないッスか!?」
 へらへらと笑う信一郎であったが、そんなパートはほんの一瞬のこと。その胸中に何かしらの考えを抱えた、微笑と思惑入り混じった意味深長な顔つきとなる。
「……今回呼んだのは他でもないさ、昨今話題の『教会』に……潜入調査をしてもらいたい」
「――そんな敵中に俺突っ込むとか、アンタはイカレてんスか? いくら他より優れているとはいえ、俺はまだ三年次。最高学年でもねえ上に面倒臭ェから|仮免許《カリメン》すら持ってねえんスよ?」
「まあまあ、それほどに君を買ってる、って訳よ。それに、イカレてなきゃあ英雄もその親も務まらないさ」
 一切表情を変えることなく、作戦をその場で口頭にて伝え始める。それは、あまりにも無謀でありながら、どこか非情とも思える作戦群であった。
「――ちょっと待て、俺以外に作戦人員が居ねえんスか!?」
「? そりゃあそうでしょ、大勢で「スパイです! 仲間に入れてください!」とか言っても絶対に通してくれはしないだろうし、少数精鋭で動いたとしても何かしらの裏があると思われかねない。そして少なくとも二年は潜伏期間が欲しいと考えてね……その間、他のことを何も考えずに『わざと本当の敵側に回り続けてほしい』んだ」
 情報を何も流すことの無い、単純な裏切り行為。ちゃんとそれも作戦の内だとはいえ、英雄の卵である正明が簡単に了承するとは思っていなかった。
 だからこそ、ある餌を彼の前に提示したのだ。
「確か……君は以前、『血沸き肉躍る闘争がしたい』といっていたね。何なら、それが欲の根源だとか」
「ま、まあそうッスけど……金銭だの、そういったのに執着無いんで、それが戦いに向いているだけッスよ。日頃財布の中身もすっからかんですし……何スか、今更英雄らしくねえとか語るんじゃあねえッスよね」
「いや? 力が発露するための欲望というものは壮大であればいいほど、そして明確なビジョンがあればあるほど素晴らしい力を発揮してくれる。そこに異論はないし、否定する気はないよ」
 彼の前に置かれた写真は幼い頃、笑顔の状態で映る一人の少女。他でもない、瀧本礼安であったのだ。ただ、そこにわざわざぶら下げられるほどの餌としての効力を持っているとは思わず、悪態を吐いてしまう。
「――何スか、幸せ自慢ッスか」
「まあそれもあるよ」
「否定しないんスね」
「ただ、本題はそこじゃあない、この子の『真価』についてだよ」
 その言葉で、正明はそこに秘められた意図を感じ取った。ただ、それは同時に眼前の存在に対して、並外れたほどの狂気を感じさせるものであったのだ。
「――この子、私の愛娘なんだけどね? 恐らくだけど……君の因子に呼応できる存在なんだ。これまでのやり取りで何となく確証を得ているから、信じてもらっていいよ」
「……アンタ、自分の子供を……俺を動かすために前にぶら下げる餌にしてんスよ」
「大丈夫、私はこの子を信じているんだ」
 その瞳に、嘘偽りはない。まだ因子すら真の意味で覚醒していない子供の将来を、輝かしいものであると確証していたのだ。
 正明は、その異次元と言える先見の明に、何とも気味悪さを感じていた。
「――俺、女をいたぶる趣味は無いッスよ」
「大丈夫、いたぶるなんて言葉は杞憂に終わる。そう遠くない未来、君は……好敵手として私の愛娘を選ぶ」
 現状、学園内にこれと言ったライバル的存在がいない正明は、はっきり言うならば伸び悩んでいた。三年次から四年次に進級するうえで、自分自身でも思い描いていた悩みはそこにあった。半端な状態で進級できるほど、四年次進級は甘くない。現時点で、進級出来た存在はたった一人とされている。
「その間、君の席はしっかり保持しておく。君が望むなら、やり直しもできる。少なくとも除名処分は有り得ないとだけ言っておくよ」
 確実なメリットは存在する。これまであまり触れたことの無い分野で自分の力を伸ばせる。さらに、遠くない未来に、自分の心を動かすような存在が現れる、未来予知という名の確定事象。
 信一郎が立案した、緻密に練られた作戦も考慮し、正明は一つの結論を提示する。
「――分かったッスよ。そのアンタの作戦の一人……たった一人に立候補してやろうじゃあねえッスか」
「……OK。受けてくれて感謝するよ、正明くん。それでは準備を整え数日後に『教会』に|特攻《ブッコミ》と行こうか」
「そのスタイル、嫌いじゃあねえッスよ」
 そこから、二年と数か月の間に千葉支部の頂点に立ち、強固な地位を築き上げたのだ。