表示設定
表示設定
目次 目次




ひぃまご

ー/ー





「見事じゃ、見事じゃ」


 曽祖父が、大きく口を開けてかっかと笑っている。


「もっと投げ、もっと」


 おおきいじいちゃんの声が降ってきて、その近くできらきらと光が瞬いているのが見えた。


 あれが仁霊様か。


 一言も発さない仁霊様は、姿もよく分からないが、先のくるんとした長い睫毛を持っていて、温かいまなざしが感じられた。


「アロヨカ、アロヨカ。リャクナロ、リャクナロ」


 俺は夢中で呪文を唱え、手当たり次第に石を拾って、空に浮かぶ川へ向けて投げた。思いきり振りかぶらなくても、軽く放れば小石は彗星になって遠くへ飛んでいく。


「それがおまえの力じゃ。誰にも認められなかった、おまえの真の力じゃ。誇りを持って生きていけよ。曾孫、ひぃまご、自慢のひぃまご」


 歌うように言って、曽祖父は空へ溶けていく。わんわんわんわん、元気な子犬だったときのチイの声も聞こえた。


 放り投げた彗星が無数のきらめきに変わって、俺を讃えるように降り注いだ。


 


 


「ほな。事件じゃないようですので、これで帰っていいですよ。気をつけてくださいね」


 若い警官は、呆れをうまく押し隠しながら、交番から出ていく俺を見送ってくれた。ゆっくり歩く老いた母に連れられて帰る酔っ払いの中年の後ろ姿に、内心、「ああなっちゃおしまいだな」と思っていたことだろう。


「こうちゃん、あんなとこでお酒飲んで、子どもに石投げられたんとちゃうの。恥ずかしいからやめてよ」


 帰り道、母は何度も、恥ずかしい恥ずかしいと繰り返していた。


 酔っ払って川原で倒れていた俺は石に埋もれ、額から血を流していたため、犬を散歩させていた人が警察に通報したらしい。酔いがさめてからいろいろ尋ねられ、朝早く、連絡を受けた母親が迎えに来た。


 家に電話があったとき、父は何も言わず、一人で朝の散歩に出かけたという。俺のことはもう、考えたくないのだろう。


 俺は部屋に戻って、パソコンを立ち上げた。


 酔って一度深く眠ったからか、妙に頭がすっきりしていた。仁霊様とおおきいじいちゃんに会えたことが、不思議な自信になっていた。


「エモーショナルゾーン」のサイトにアクセスする。俺と真戸部さんが、捏造の経歴とともに、「魔術師」として紹介されている。ピンクと紫の混ざった色のホームページは怪しげだが、高揚した気持ちで眺めると、目に見えぬパワーのようなものが感じられた。


「ひぃまご、ひいまご、自慢のひぃまご」


 曽祖父の声を真似て己を鼓舞し、メールが来ていないことを確認して、もう一度眠ることにした。


 




スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 終章:水切り


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「見事じゃ、見事じゃ」
 曽祖父が、大きく口を開けてかっかと笑っている。
「もっと投げ、もっと」
 おおきいじいちゃんの声が降ってきて、その近くできらきらと光が瞬いているのが見えた。
 あれが仁霊様か。
 一言も発さない仁霊様は、姿もよく分からないが、先のくるんとした長い睫毛を持っていて、温かいまなざしが感じられた。
「アロヨカ、アロヨカ。リャクナロ、リャクナロ」
 俺は夢中で呪文を唱え、手当たり次第に石を拾って、空に浮かぶ川へ向けて投げた。思いきり振りかぶらなくても、軽く放れば小石は彗星になって遠くへ飛んでいく。
「それがおまえの力じゃ。誰にも認められなかった、おまえの真の力じゃ。誇りを持って生きていけよ。曾孫、ひぃまご、自慢のひぃまご」
 歌うように言って、曽祖父は空へ溶けていく。わんわんわんわん、元気な子犬だったときのチイの声も聞こえた。
 放り投げた彗星が無数のきらめきに変わって、俺を讃えるように降り注いだ。
「ほな。事件じゃないようですので、これで帰っていいですよ。気をつけてくださいね」
 若い警官は、呆れをうまく押し隠しながら、交番から出ていく俺を見送ってくれた。ゆっくり歩く老いた母に連れられて帰る酔っ払いの中年の後ろ姿に、内心、「ああなっちゃおしまいだな」と思っていたことだろう。
「こうちゃん、あんなとこでお酒飲んで、子どもに石投げられたんとちゃうの。恥ずかしいからやめてよ」
 帰り道、母は何度も、恥ずかしい恥ずかしいと繰り返していた。
 酔っ払って川原で倒れていた俺は石に埋もれ、額から血を流していたため、犬を散歩させていた人が警察に通報したらしい。酔いがさめてからいろいろ尋ねられ、朝早く、連絡を受けた母親が迎えに来た。
 家に電話があったとき、父は何も言わず、一人で朝の散歩に出かけたという。俺のことはもう、考えたくないのだろう。
 俺は部屋に戻って、パソコンを立ち上げた。
 酔って一度深く眠ったからか、妙に頭がすっきりしていた。仁霊様とおおきいじいちゃんに会えたことが、不思議な自信になっていた。
「エモーショナルゾーン」のサイトにアクセスする。俺と真戸部さんが、捏造の経歴とともに、「魔術師」として紹介されている。ピンクと紫の混ざった色のホームページは怪しげだが、高揚した気持ちで眺めると、目に見えぬパワーのようなものが感じられた。
「ひぃまご、ひいまご、自慢のひぃまご」
 曽祖父の声を真似て己を鼓舞し、メールが来ていないことを確認して、もう一度眠ることにした。