一歩
ー/ー
「曽祖父は、水切りが得意でした。大会で賞をもらったこともあったようです。俺も、直接習ったわけではないけど、子どもの頃からずっとやっていて、けっこう投げられるんです。それを見てほしくて」
「褒められたいのですね。ひいおじいさんに、自分の存在価値や、才能を受け継いでいることを認められたいのですね。大丈夫です、仁霊様は分かってくださります」
真戸部さんは、酔っているわけでもないのに据わった目で俺を見つめて言った。
「では、この魔法陣に手を置いてください」
テーブルの上に、怪しい図形が印刷された紙が広げられる。手描きではなく、パソコンとプリンターで作ったものらしかった。薄暗い部屋で、俺は彼に言われるまま、図形の中央に手を載せた。
「アロヨカ、アロヨカ。仁霊様、聞こえますか。我が友比奈橋さんの願いをどうか叶えてあげてください。リャクナロ、リャクナロ。ひいおじいさんに会えますように。ひいおじいさんに会えますように」
ブレスレットを俺の手の上に置き、その上で円を描くように指二本で輪郭をなぞる。最後にくっと中心を突いて、そこに目薬のような小さいボトルから、液体を数滴垂らした。
「これできっと、ひいおじいさんに会えますよ。どうだったか、僕にも教えてくださいね」
店いっぱいに薬草めいた匂いが充満する中、真戸部さんが微笑んだ。
俺はまだすべてを信じられないまま、自分の手の上の謎の液体を見ていた。
「あ、これですか。これは水です。ただし、パワースポットの滝や清流など、不思議な力のある水なんです。この目薬瓶一本五ミリリットル分を、三千七百円税別で販売します。エネルギー往来ブレスは、使うストーンにもよりますが、これは八千円くらい。ネーミングがいまいちですが、どうしても、他社の商品とかぶっちゃうんですよね。もっとよさそうなの思いついたら言ってください」
真戸部さんは急に、ビジネスマンモードになった。オカルトっぽいが、一応商売として、課金を促すノウハウや顧客満足感を引き出す工夫などをしているらしい。
「比奈橋さんにも今日からご自宅でやっていただきますが、本来、オンラインで魔術師が指示を出して、呪文の詠唱や儀式はお客様自身がやるんですよ。初回は詠唱だけなのですが、やはり、アイテムを使ったほうがご実感いただけるかと思うので、通販でご購入いただきます」
俺には、先ほど使った魔法陣などの一式をくれるという。
「このブレスレット、比奈橋さんが来る直前に姉が作ったんですが、ちょうど、死者や先祖とのつながりをイメージしたものだったんですよね。ぜひ毎日、使ってください」
自信満々の真戸部さんの後ろで、お姉さんも、陰影の目立つ顔にうっすら微笑を浮かべている。
「ありがとうございます」
俺はとりあえず、仁霊様との交流を、その日から始めてみることにした。真戸部さんのサイドビジネスについては、まだ試行段階ということで、当面の間給与は出ないものの、資料を読んだり魔術師としての心得を少しずつ教わっていくことになった。
「僕も本業があるので、夜や休日になりますが、オンラインやここで手取り足取り伝えますので、頑張ってみてください」
に、と口角を上げた真戸部さんに送り出され、俺は、何かに向けて一歩踏み出したような心地で家路についた。
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「褒められたいのですね。ひいおじいさんに、自分の存在価値や、才能を受け継いでいることを認められたいのですね。大丈夫です、仁霊様は分かってくださります」
真戸部さんは、酔っているわけでもないのに据わった目で俺を見つめて言った。
「では、この魔法陣に手を置いてください」
テーブルの上に、怪しい図形が印刷された紙が広げられる。手描きではなく、パソコンとプリンターで作ったものらしかった。薄暗い部屋で、俺は彼に言われるまま、図形の中央に手を載せた。
「アロヨカ、アロヨカ。仁霊様、聞こえますか。我が友比奈橋さんの願いをどうか叶えてあげてください。リャクナロ、リャクナロ。ひいおじいさんに会えますように。ひいおじいさんに会えますように」
ブレスレットを俺の手の上に置き、その上で円を描くように指二本で輪郭をなぞる。最後にくっと中心を突いて、そこに目薬のような小さいボトルから、液体を数滴垂らした。
「これできっと、ひいおじいさんに会えますよ。どうだったか、僕にも教えてくださいね」
店いっぱいに薬草めいた匂いが充満する中、真戸部さんが微笑んだ。
俺はまだすべてを信じられないまま、自分の手の上の謎の液体を見ていた。
「あ、これですか。これは水です。ただし、パワースポットの滝や清流など、不思議な力のある水なんです。この目薬瓶一本五ミリリットル分を、三千七百円税別で販売します。エネルギー往来ブレスは、使うストーンにもよりますが、これは八千円くらい。ネーミングがいまいちですが、どうしても、他社の商品とかぶっちゃうんですよね。もっとよさそうなの思いついたら言ってください」
真戸部さんは急に、ビジネスマンモードになった。オカルトっぽいが、一応商売として、課金を促すノウハウや顧客満足感を引き出す工夫などをしているらしい。
「比奈橋さんにも今日からご自宅でやっていただきますが、本来、オンラインで魔術師が指示を出して、呪文の詠唱や儀式はお客様自身がやるんですよ。初回は詠唱だけなのですが、やはり、アイテムを使ったほうがご実感いただけるかと思うので、通販でご購入いただきます」
俺には、先ほど使った魔法陣などの一式をくれるという。
「このブレスレット、比奈橋さんが来る直前に姉が作ったんですが、ちょうど、死者や先祖とのつながりをイメージしたものだったんですよね。ぜひ毎日、使ってください」
自信満々の真戸部さんの後ろで、お姉さんも、陰影の目立つ顔にうっすら微笑を浮かべている。
「ありがとうございます」
俺はとりあえず、仁霊様との交流を、その日から始めてみることにした。真戸部さんのサイドビジネスについては、まだ試行段階ということで、当面の間給与は出ないものの、資料を読んだり魔術師としての心得を少しずつ教わっていくことになった。
「僕も本業があるので、夜や休日になりますが、オンラインやここで手取り足取り伝えますので、頑張ってみてください」
に、と口角を上げた真戸部さんに送り出され、俺は、何かに向けて一歩踏み出したような心地で家路についた。