二人が洞窟/社の入口に立つと、ひどく冷たい風がビュウビュウと吹き付けた。
まるで山の女が、二人にも自身にも苛立ち、嘆いているようだった。
「ああ腹立たしい。もう思い出しよった。我が力、これほどに削がれていようとは、口惜しや。口惜しや」
アルツがストゥルテの頭を掴んで、凍りつつある地面すれすれで止める。
危ういところで、ストゥルテは山神様の姿を見なかった。
「ああ! だが! だがいいだろう! 我が問答えや! 答えや!」
荒れ狂う風が、山の女の怒りに呼応するかのように激しくうねり、逆巻く。
洞窟の奥から「おおぅ、おおぅ」とうなり声のようなものが聞こえる。
ストゥルテの頬を切った冷気が、血と合わさって赤く皮膚に張り付く。
不意に、地面をこする音が聞こえた。
ストゥルテの上に深更の闇がかかる。
ぽつり。
「汝の宝はなんぞ?」
氷柱から落ちる水滴のような声がした。
ストゥルテは、凍てついて震える肺から空気を吐き出した。
「それは記憶。誰にも踏み荒らされぬ、追憶の春」
はぁ、と生温かな吐息がストゥルテを包む。
わずかに甘い、酒のような酩酊。ぱし、とアルツがストゥルテの背をたたけば、それは遠ざかる。
毒だ、とストゥルテは汗をかいた。
「この山で揺らがぬものはなんぞ?」
アルツの手を背に感じる。
ぎゅっと目をつむり、唾を飲み込んだ。
ストゥルテは賢かったので、この次に来る質問が本命であると知っていた。
「それは誓い。精霊をも人をも縛るもの」
「では三つ目」
それは、ほとんどストゥルテの声にかぶせるように告げられた。
「汝が見る我はなんぞ?」