憤怒
ー/ー
目が覚めたときストゥルテは一人きりだった。
なんだか心がモヤモヤとして嫌な気分だった。
「ああ、俺はどうして気高い熊なんて呼ばれているんだ。口減らしのいけにえをおちょくっているのか」
ブツブツと文句を言いながら、ストゥルテはよっこらと立ち上がる。
体が独活の大木のようで、動くたびに関節がギシギシ鳴った。
「……木を、伐りに行かないと」
重い体を無理やり動かして外へ出ると、丘の下がよく見えた。
きれいで華やかな服を着た子どもたちが通りをはしゃいで回っている。
行く先行く先で紙の飾りのついた丸く小さな餅をもらい幸福そうに笑っている。
小さな頬は囲炉裏の火のようで、指先も同じ色をして、子どもたちはあちらの家からこちらの家へと駆けて回っているようだった。
通りには見事な人形が立てられて、村を鮮やかに彩っている。
ストゥルテの心に、ムクムクと黒い靄が沸き上がった。
今までの人生で、どうして平気でいられたのか分からないくらい強い――それは憎悪だった。
「俺が一度でも優しくされたか。一度でも飾り付きの餅をもらったか?」
頭がひどく痛んで、衝動のままストゥルテは近くにあった石を拾った。
何かが袖を掴んで止めた気がしたが、腹の底のムカムカには勝てなかった。
「何故笑われないといけない。馬鹿にされながら生きなくちゃならんのだ。俺はそんなに悪いことをしたのか」
ニエっ子、と笑って脇を通っていった子どもを思い出した。
たった一人で過ごす夜の冷たさが怒りを加熱した。
「何が面白い!」
叫んで投げた石は、しかし丘の中腹にポテリと落ちただけだった。
いらだちとも自分への怒りともつかない腹の沸騰にあてられるがまま、ストゥルテは大声で叫んだ。
視線がこちらに刺さっているような気がして、それがまた腹立たしくてストゥルテはズンズン家の中へ入った。
斧で人形をへし折ってやろうと考えてのことだった。
真っ赤になった頭で家の中を滅茶苦茶に荒らし、外へ出ようとした時のことだ。
ストゥルテは入口近くの行燈に、血の付いた布が結ばれているのを見つけた。薄汚れてほつれたその布を見ていると、不思議と怒りがしぼんでいった。
「おいストゥルテ」
「やいストゥルテ」
丘のほうから声が聞こえてきたが、ストゥルテは動けなかった。
血で汚れた手ぬぐいを思わずひっつかんで、胸元でじっくり眺める。
「お前何を考えて祭りを騒がせやがった」
「ニエのくせに、妙な雄たけびあげやがって」
声はどんどん近づいてくる。
ストゥルテは手ぬぐいだけを見つめる。
「おかげで子どもたちが怖がっちまったじゃないか」
「どう落とし前付けてくれるんだ、ええ!?」
とうとう戸口に立ったゴスたちは、ストゥルテの髪を引っ張って地面に引きずり倒した。
頬を殴り口汚くののしってから腹を蹴った。
背をつま先でこずいてから頭を踏みつけた。
殴られ、蹴られ、ひどい目にあわされながら、ストゥルテは手ぬぐいだけを握りしめて見つめていた。
薄い黄緑色のきれいに染まった手ぬぐいだった
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なんだか心がモヤモヤとして嫌な気分だった。
「ああ、俺はどうして気高い熊なんて呼ばれているんだ。口減らしのいけにえをおちょくっているのか」
ブツブツと文句を言いながら、ストゥルテはよっこらと立ち上がる。
体が|独活《うど》の大木のようで、動くたびに関節がギシギシ鳴った。
「……木を、伐りに行かないと」
重い体を無理やり動かして外へ出ると、丘の下がよく見えた。
きれいで華やかな服を着た子どもたちが通りをはしゃいで回っている。
行く先行く先で紙の飾りのついた丸く小さな餅をもらい幸福そうに笑っている。
小さな頬は囲炉裏の火のようで、指先も同じ色をして、子どもたちはあちらの家からこちらの家へと駆けて回っているようだった。
通りには見事な人形が立てられて、村を鮮やかに彩っている。
ストゥルテの心に、ムクムクと黒い靄が沸き上がった。
今までの人生で、どうして平気でいられたのか分からないくらい強い――それは憎悪だった。
「俺が一度でも優しくされたか。一度でも飾り付きの餅をもらったか?」
頭がひどく痛んで、衝動のままストゥルテは近くにあった石を拾った。
何かが袖を掴んで止めた気がしたが、腹の底のムカムカには勝てなかった。
「何故笑われないといけない。馬鹿にされながら生きなくちゃならんのだ。俺はそんなに悪いことをしたのか」
ニエっ子、と笑って脇を通っていった子どもを思い出した。
たった一人で過ごす夜の冷たさが怒りを加熱した。
「何が面白い!」
叫んで投げた石は、しかし丘の中腹にポテリと落ちただけだった。
いらだちとも自分への怒りともつかない腹の沸騰にあてられるがまま、ストゥルテは大声で叫んだ。
視線がこちらに刺さっているような気がして、それがまた腹立たしくてストゥルテはズンズン家の中へ入った。
斧で人形をへし折ってやろうと考えてのことだった。
真っ赤になった頭で家の中を滅茶苦茶に荒らし、外へ出ようとした時のことだ。
ストゥルテは入口近くの行燈に、血の付いた布が結ばれているのを見つけた。薄汚れてほつれたその布を見ていると、不思議と怒りがしぼんでいった。
「おいストゥルテ」
「やいストゥルテ」
丘のほうから声が聞こえてきたが、ストゥルテは動けなかった。
血で汚れた手ぬぐいを思わずひっつかんで、胸元でじっくり眺める。
「お前何を考えて祭りを騒がせやがった」
「ニエのくせに、妙な雄たけびあげやがって」
声はどんどん近づいてくる。
ストゥルテは手ぬぐいだけを見つめる。
「おかげで子どもたちが怖がっちまったじゃないか」
「どう落とし前付けてくれるんだ、ええ!?」
とうとう戸口に立ったゴスたちは、ストゥルテの髪を引っ張って地面に引きずり倒した。
頬を殴り口汚くののしってから腹を蹴った。
背をつま先でこずいてから頭を踏みつけた。
殴られ、蹴られ、ひどい目にあわされながら、ストゥルテは手ぬぐいだけを握りしめて見つめていた。
薄い黄緑色のきれいに染まった手ぬぐいだった