次の日からストゥルテの日常はわずかに変わった。
家に一人健康なものがいるだけでこうも違うものかとストゥルテ自身驚いた。そらくらい、女の仕事は早かった。
炊事はいつもの半分の時間でできるようになったし、木を伐る仕事も林の手入れもかなり時間が短くなった。
体調の優れない日は休めるようになったから風邪が長引くこともなくなった。
ストゥルテは増えた余裕でさらに本を読んだ。
じいさまの残した本は、これまで寝る前のほんの10分読み進めるのが限界だったのに、30分は読めるようになった。
「なぁ、お前さんのこと、何て呼べばいいんだ?」
ストゥルテは女にも何かしたいと考えた。
いつまでも名がないのは不便だとも。
「巫女に名はありませぬ。どうぞ好きに呼べばよろしい」
考えて考えて、ストゥルテは「アルツ」と女を呼ぶことにした。
高い空を意味する言葉だった。
1年、ストゥルテとアルツは共に暮らした。
よく晴れた春の日、かすむ眼下にエルー大湖を臨んだ。
雪を割って現れたほんのわずかなフキノトウを湯がいてカラシバを練ったものとあえて食べた。
雨の続く夏の宵、隣り合って本を読んだ。ストゥルテが読み聞かせて、互いの体温を分け合って眠った。
秋には崖下の森を一緒に歩いた。木の実や食べられる茸を狩って、鍋にした。
冬が来たら、じぃさまの墓に参った。冬が来る前に仕込んでおいた干し肉や灰に根菜を詰めたものを分け合った。