精霊の誓い
ー/ー
「いいですか。ここのところ翼人たちが勢力を拡げています。御山もその一つでした。カルム族と山神さまは話し合って、有翼人と協力し、彼らの文化と共存しようとしました。けれど結果はさんざんでカルム族は技術を吸われ、文化を壊され、地に落とされました。山神さまへの信仰も同じように消えつつあります」
「信仰が歪んだのか?」
「いいえ、もっと悪い」
信仰が歪めば、山神さまはタタリに変わって災厄を振りまく存在になる。それよりも恐ろしい状況とはなんだろうとストゥルテは考えた。
答えはすぐに、女の口から語られた。
「奴ら、本気で山神さまを侮り力を吸ってしまおうとしました。山神さまは狂ってしまわれた……」
「ニエなら今でも変わらないが、流石に今すぐはとても困る。せめて葬儀が終わるまで待ってほしい」
「急いて結論を出さないでくださいませ。お前さまのじぃさまが嘆かれますぞ」
まさか、と彫像のようになるストゥルテに、女は消え入りそうな声を出しました。
「お前さまのじぃさまは山神さまに食われてしまった。お前を見逃すならと、生かしてくれるならばと歪んだ山神さまに身を捧げられた。狂ってはいても山神さまとの契約だ。わたしは、お前さまを守る義務がある。山神さまをお諫めする義務がある」
ストゥルテは「なるほどなぁ」と頷いたが、それなりに困ってもいた。
「まずはじぃさまを弔わなければ。わたしが何をするべきなのかも、あなたがどうしたいのかも、それから聞きたい」
「ではなおさら、私は手伝わなくてはなりませぬ」
ストゥルテは目を丸くした。
女はとても情けなく、消えてしまいたいほどの罪深さに震える声で「私は、お前さまとともに暮らさなくてはならない」と絞り出した。
女の目から大きな雫が氷ながら落ちて、雪の上で砕け散る。
それが女の心に見えて、あんまり申し訳なさそうにするものだから、ストゥルテの怒りはしぼんでしまった。
女は見たところ精霊に近しい者だ。
それが生物と共に暮らすとは、耐えがたいことも多いのだろう。
理が違うのだから。
「分かった。それなら火を焚いて雪水でじぃさまを清めてほしい」
女は義務ゆえに逃げられない。ひどく屈辱的なことでも、そうするしかない。
できるだけ誠実につきあうべきだとストゥルテは判断した。
「左手が使えないと、細かい作業が困るんだ。血の付いた雪は骨と一緒に埋めるから、そのままで頼むよ」
女は無言で頷いた。
狂ってしまった山神様は、タタリとは違って力を失っていないのだろう。
ストゥルテは予測する。
『ストゥルテを守るため』に来たこの女は山神様の神官で、ストゥルテを守るために”一緒”にならなければならないのだとも予測した。
「あなたの言い分は、できるだけなら飲むことにするよ。できるだけ、な」
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「いいですか。ここのところ翼人たちが勢力を拡げています。御山もその一つでした。カルム族と山神さまは話し合って、|有翼人《フラクロウ》と協力し、彼らの文化と共存しようとしました。けれど結果はさんざんでカルム族は技術を吸われ、文化を壊され、地に落とされました。山神さまへの信仰も同じように消えつつあります」
「信仰が歪んだのか?」
「いいえ、もっと悪い」
信仰が歪めば、山神さまはタタリに変わって災厄を振りまく存在になる。それよりも恐ろしい状況とはなんだろうとストゥルテは考えた。
答えはすぐに、女の口から語られた。
「奴ら、本気で山神さまを侮り力を吸ってしまおうとしました。山神さまは狂ってしまわれた……」
「ニエなら今でも変わらないが、流石に今すぐはとても困る。せめて葬儀が終わるまで待ってほしい」
「急いて結論を出さないでくださいませ。お前さまのじぃさまが嘆かれますぞ」
まさか、と彫像のようになるストゥルテに、女は消え入りそうな声を出しました。
「お前さまのじぃさまは山神さまに食われてしまった。お前を見逃すならと、生かしてくれるならばと歪んだ山神さまに身を捧げられた。狂ってはいても山神さまとの契約だ。わたしは、お前さまを守る義務がある。山神さまをお諫めする義務がある」
ストゥルテは「なるほどなぁ」と頷いたが、それなりに困ってもいた。
「まずはじぃさまを弔わなければ。わたしが何をするべきなのかも、あなたがどうしたいのかも、それから聞きたい」
「ではなおさら、私は手伝わなくてはなりませぬ」
ストゥルテは目を丸くした。
女はとても情けなく、消えてしまいたいほどの罪深さに震える声で「私は、お前さまとともに暮らさなくてはならない」と絞り出した。
女の目から大きな雫が氷ながら落ちて、雪の上で砕け散る。
それが女の心に見えて、あんまり申し訳なさそうにするものだから、ストゥルテの怒りはしぼんでしまった。
女は見たところ精霊に近しい者だ。
それが生物と共に暮らすとは、耐えがたいことも多いのだろう。
理が違うのだから。
「分かった。それなら火を焚いて雪水でじぃさまを清めてほしい」
女は義務ゆえに逃げられない。ひどく屈辱的なことでも、そうするしかない。
できるだけ誠実につきあうべきだとストゥルテは判断した。
「左手が使えないと、細かい作業が困るんだ。血の付いた雪は骨と一緒に埋めるから、そのままで頼むよ」
女は無言で頷いた。
狂ってしまった山神様は、タタリとは違って力を失っていないのだろう。
ストゥルテは予測する。
『ストゥルテを守るため』に来たこの女は山神様の神官で、ストゥルテを守るために”一緒”にならなければならないのだとも予測した。
「あなたの言い分は、できるだけなら飲むことにするよ。できるだけ、な」