ある冬の日に2
ー/ー
血だまりと骨を、ストゥルテは一晩かけて集めて清めた。葬儀をしたいと文を丘の上から転がすと、三日していくつかの道具が丘の下にまとめられていた。
ストゥルテが道具を一人で運んでいると、村の子どもたちがからかいに来た。
「やぃや、ニエっ子」
「丘捨てのニエっ子」
「じぃさんと血のつながりがないんだってな!」
「可哀そうなニエっ子」
「家族の真似は楽しいか!」
ストゥルテは戸惑った。
自分を守り育ててくれたのは老人で、血のつながりを気にしたこともなかったからだ。ストゥルテは老人を家族と呼ぶ。老人もストゥルテを家族と呼ぶ。それで十分、自分たちは家族である。
何も言わないストゥルテを甲高く笑い、子どもたちは次の”遊び”に走っていった。
ストゥルテの喉はつまって、鼻の奥がひどく痛んだ。それでもストゥルテは自分をからかった子どもたちが、道中獣に襲われないよう、一度だけ祈りを捧げた。
「真似ではないからなぁ」
ストゥルテは粛々と丘の上へ歩いた。
一人で深く穴を掘っていると「もし」と声がかかった。
朔月の宵に雪片を散らしたような薄衣をかぶり、女が一人立っていた。
風に浮かんだ薄衣の下には、半分をひどいやけどに覆われた色白の肌がある。姿こそ違えどストゥルテを覗き込む氷河の瞳は、間違いなく先日のうさぎと同じだった。
ストゥルテは賢く、色々な話を知っていた。だから、女がうさぎだと気が付かないほうが、きっと互いのためになるだろうとも察することができた。
『まあお礼をすると言ったのはわたしなのだし』
ストゥルテは呑気だった。何より老人が儚くなって傷ついていたので、女に食われるのも仕方がないかと特に気にすることもなく考えた。
「もし、聞いておられるのか」
「ああ、すまない。弔いをしているんだ。話なら少し待ってもらえないだろうか」
「そのことで来たのです」
「わたしもじぃさまもニエ役だ。弔いを手伝ったり見守ったりすればあなたの不利になる」
「この村の文化は知りませぬ。お前さま、どうか話を聞いてはくれないでしょうか」
ストゥルテはとうとう手を止めて女に向き直った。
雪の降りそそいで吹き乱れる風の中、女はシャッキリ背を伸ばして立っている。もう薄衣はめくれなかった。
「この薄衣を奪わずに返しましたね」
「ひとさまのものを盗ってはだめだろう。ちゃんと届いたようで安心した」
「けれどそのため、お前さまは左手を怪我なされた。目をつけられてもしまいました」
ストゥルテは目を丸くしましたが、そういう理不尽もあるだろうと、目を伏せる。女は手を前にそろえて淡々と言葉を連ねた。
「ここから東へずっと向かった先に、大きな山があるでしょう」
「知っているよ。カルム族の山だ。山神さまがよく治めておられるとも聞いている」
「ああ」
女はとてもつらそうに息を吐きだした。
水交じりの雪より重たげに、吐息は落ちて行った。
「おまけに知識があって素直だ」
女がストゥルテを見る目は、期待と苦しみが半分ずつ混ざって見えた。
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ストゥルテが道具を一人で運んでいると、村の子どもたちがからかいに来た。
「やぃや、ニエっ子」
「丘捨てのニエっ子」
「じぃさんと血のつながりがないんだってな!」
「可哀そうなニエっ子」
「家族の真似は楽しいか!」
ストゥルテは戸惑った。
自分を守り育ててくれたのは老人で、血のつながりを気にしたこともなかったからだ。ストゥルテは老人を家族と呼ぶ。老人もストゥルテを家族と呼ぶ。それで十分、自分たちは家族である。
何も言わないストゥルテを甲高く笑い、子どもたちは次の”遊び”に走っていった。
ストゥルテの喉はつまって、鼻の奥がひどく痛んだ。それでもストゥルテは自分をからかった子どもたちが、道中獣に襲われないよう、一度だけ祈りを捧げた。
「真似ではないからなぁ」
ストゥルテは粛々と丘の上へ歩いた。
一人で深く穴を掘っていると「もし」と声がかかった。
朔月の宵に雪片を散らしたような薄衣をかぶり、女が一人立っていた。
風に浮かんだ薄衣の下には、半分をひどいやけどに覆われた色白の肌がある。姿こそ違えどストゥルテを覗き込む氷河の瞳は、間違いなく先日のうさぎと同じだった。
ストゥルテは賢く、色々な話を知っていた。だから、女がうさぎだと気が付かないほうが、きっと互いのためになるだろうとも察することができた。
『まあお礼をすると言ったのはわたしなのだし』
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「もし、聞いておられるのか」
「ああ、すまない。弔いをしているんだ。話なら少し待ってもらえないだろうか」
「そのことで来たのです」
「わたしもじぃさまもニエ役だ。弔いを手伝ったり見守ったりすればあなたの不利になる」
「この村の文化は知りませぬ。お前さま、どうか話を聞いてはくれないでしょうか」
ストゥルテはとうとう手を止めて女に向き直った。
雪の降りそそいで吹き乱れる風の中、女はシャッキリ背を伸ばして立っている。もう薄衣はめくれなかった。
「この薄衣を奪わずに返しましたね」
「ひとさまのものを盗ってはだめだろう。ちゃんと届いたようで安心した」
「けれどそのため、お前さまは左手を怪我なされた。目をつけられてもしまいました」
ストゥルテは目を丸くしましたが、そういう|理不尽《こと》もあるだろうと、目を伏せる。女は手を前にそろえて淡々と言葉を連ねた。
「ここから東へずっと向かった先に、大きな山があるでしょう」
「知っているよ。カルム族の山だ。山神さまがよく治めておられるとも聞いている」
「ああ」
女はとてもつらそうに息を吐きだした。
水交じりの雪より重たげに、吐息は落ちて行った。
「おまけに知識があって素直だ」
女がストゥルテを見る目は、期待と苦しみが半分ずつ混ざって見えた。