9.嵐の後にまた嵐
ー/ー
俺はてっきりホクトが帰ってきたのかと思ったが、現れたのは初めて見る人物だった。
キャンパスチームと同年代のおとなしそうな青年で、なにやら思い詰めたような顔をしていたが、敬一クンを見つけた途端、見た目の印象から掛け離れた怒鳴り声を発した。
「この泥棒猫ーっ!」
怒鳴りながら一直線に敬一クンに向かって突進する。
だが青年は敬一クンほどの体格ではなく、敬一クンは相手の拳を難なく避けて、その手を取ってクルンっと相手の身体を回して羽交い締めにした。
「何するんだ葵、危ないじゃないか」
「このおにーちゃん、誰だれ?」
「ゴリラの例のアレですよ」
シノさんに説明を求められたエビセンは、暗に彼がウワサの "キープ君" だと含ませる。
「へぇ〜、ゴリラにはもったいないカワイイおにーちゃんじゃないの」
「クソッ、放せよっ、この淫乱泥棒猫っ! ゴウには俺が居るんだ、二度と近づくなー!」
「顔はカワイイけど、口は悪いのぅ。ゴウってゴリラ?」
「確かゴウだかゴローだかって名前だったから、ゴリラのことですね」
「うわっ!」
敬一クンにホールドされた葵クンは、窮鼠猫を噛むの見本のように、自分を押さえ込んでいる敬一クンの腕にガブリと噛み付いていた。
「あーもー、葵も落ち着けって」
エビセンは敬一クンから葵クンを引き受けると、まだ敬一クンを罵り続けている葵クンを店の外に連れ出す。
窓越しに見ていたら、丁度そこにホクトも戻ってきたようだ。
相手方の人数が増えて、ますます分が悪いと気付いたのか、葵クンはエビセンの手を振り払うと、服装を整えて去って行いった。
エビセンとホクトは葵クンが帰るのを見届けているのか、二人一緒にやや身を傾けて、坂の下を眺めている。
「わぁお! ケイちゃんの腕、歯型クッキリ! ゴリラのキープ君はワンちゃんみたいじゃの。血は出てないケド、消毒しとこうか」
「ビックリした……。男に噛み付かれるなんて、思ってもみなかった……」
「うむうむ、これでケイちゃんも学習しただろ。鍵が外せないヤツには、ソレの話をしてはイケナイのじゃ。ちょっとお試しなんて軽い気持ちでエッチをすると、そのよーに歯型を付けられるコトもある。当面、エッチするのはエビちゃんとアマホクだけにしとき。一人に決めるなら、俺はエビちゃん推しじゃ」
「解りました……。本当は、変な物を勝手に取り付けられて腹が立ってますが、今は兄さんとおかあさんのアドバイス通りにします。誰かに噛まれるのはもう懲り懲りだ」
この一件で敬一クンが、お付き合いのセオリーを正しく学習してくれてればイイけど、シノさんと椿サンへの信仰が根深くなったダケみたいな気がするのは、俺の気の所為だろうか?
「何か、騒ぎが聞こえたが、どうかしたのかね?」
厨房から、白砂サンが顔を出す。
「ちょっと三面記事的な修羅場が展開してたんじゃよ。なかなかスゴかった〜」
事件を目撃出来た事に満足げなシノさんが、歯型クッキリの敬一クンの腕にマキロンを吹き付けている様子を見て、白砂サンは不愉快そうに眉をひそめる。
「君達、そんなふしだらな現場を、ミナトに見聞きさせないでくれないか」
「あ〜、ごめんなぁ。でも、レンが耳だけはカバーしてくれてたよ」
「あの、"ふしだら" とは、誰だれの事ですか?」
「三面記事的な修羅場を演じたのは、誰だれなのかね?」
「すみません、その言葉の意味が解りません」
「では、トラブルの中心人物は、誰だれだったのかね?」
「ええ……っと、それはたぶん、俺です」
「では、ふしだらなのは君だ」
「あの、俺のどこがそんなに、規律に欠いているんでしょう?」
「この場合ばあいのふしだらは、規律に欠いている意味ではなく、性的関係にけじめを欠いているという意味だ」
「そうなんですか……なるほど」
相変わらず敬一クンは、俺の予測の斜め上を行くやりとりをしている。
「ミナト、此処には悪い大人の不道徳が横行しているようだ。今日の勉強は、一人でやった方がいい。部屋に行きなさい」
ミナトが俺の顔を振り仰いだので、俺は引き攣った笑いで頷いてやった。
「わかった」
ノートと教科書をまとめると、ミナトはランドセルを持って階段に向かう。
ミナトが去ると、白砂サンはキッと敬一クンに振り返った。
「君がどのような交際をしようと、それは君の自由だが、子供に詳細を見聞きさせないでくれたまえ」
「申し訳わけありません、以後気を付けます」
敬一クンが素直に頭を下げたので、とりあえず騒動は一段落かとホッとしてたら、白砂サンのブリザードの視線がビシッと俺に向けられる。
「多聞君。耳を塞げるなら、すぐに部屋から連れ出すくらいの配慮もしてくれたまえ」
「ぅえええと……、えと、えとえと……はい……、以後気を付けます」
そもそも騒動が大きくなったのは、ヤバげなリングを斡旋購入してきた白砂サンの所為でもあるんじゃ……?
なんて俺に言えるワケも無い。
ペコペコと頭を下げると、白砂サンは厨房に戻っていく。
「う〜む、子育てとは、ムツカシイのう」
俺に振り返ったシノさんは、相変わらずのチシャ猫みたいな顔で、楽しそうにニシシと笑っていた。
*冷めた子供とプラチナリング:おわり*
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キャンパスチームと同年代のおとなしそうな青年で、なにやら思い詰めたような顔をしていたが、敬一クンを見つけた途端、見た目の印象から掛け離れた怒鳴り声を発した。
「この泥棒猫ーっ!」
怒鳴りながら一直線に敬一クンに向かって突進する。
だが青年は敬一クンほどの体格ではなく、敬一クンは相手の拳を難なく避けて、その手を取ってクルンっと相手の身体を回して羽交い締めにした。
「何するんだ葵、危ないじゃないか」
「このおにーちゃん、誰だれ?」
「ゴリラの例のアレですよ」
シノさんに説明を求められたエビセンは、暗に彼がウワサの "キープ君" だと含ませる。
「へぇ〜、ゴリラにはもったいないカワイイおにーちゃんじゃないの」
「クソッ、放せよっ、この淫乱泥棒猫っ! ゴウには俺が居るんだ、二度と近づくなー!」
「顔はカワイイけど、口は悪いのぅ。ゴウってゴリラ?」
「確かゴウだかゴローだかって名前だったから、ゴリラのことですね」
「うわっ!」
敬一クンにホールドされた葵クンは、窮鼠猫を噛むの見本のように、自分を押さえ込んでいる敬一クンの腕にガブリと噛み付いていた。
「あーもー、葵も落ち着けって」
エビセンは敬一クンから葵クンを引き受けると、まだ敬一クンを罵り続けている葵クンを店の外に連れ出す。
窓越しに見ていたら、丁度そこにホクトも戻ってきたようだ。
相手方の人数が増えて、ますます分が悪いと気付いたのか、葵クンはエビセンの手を振り払うと、服装を整えて去って行いった。
エビセンとホクトは葵クンが帰るのを見届けているのか、二人一緒にやや身を傾けて、坂の下を眺めている。
「わぁお! ケイちゃんの腕、歯型クッキリ! ゴリラのキープ君はワンちゃんみたいじゃの。血は出てないケド、消毒しとこうか」
「ビックリした……。男に噛み付かれるなんて、思ってもみなかった……」
「うむうむ、これでケイちゃんも学習しただろ。鍵が外せないヤツには、ソレの話をしてはイケナイのじゃ。ちょっとお試しなんて軽い気持ちでエッチをすると、そのよーに歯型を付けられるコトもある。当面、エッチするのはエビちゃんとアマホクだけにしとき。一人に決めるなら、俺はエビちゃん推しじゃ」
「解りました……。本当は、変な物を勝手に取り付けられて腹が立ってますが、今は兄さんとおかあさんのアドバイス通りにします。|誰《だれ》かに噛まれるのはもう懲り懲りだ」
この一件で敬一クンが、お付き合いのセオリーを正しく学習してくれてればイイけど、シノさんと椿サンへの信仰が根深くなったダケみたいな気がするのは、俺の気の所為だろうか?
「何か、騒ぎが聞こえたが、どうかしたのかね?」
厨房から、白砂サンが顔を出す。
「ちょっと三面記事的な修羅場が展開してたんじゃよ。なかなかスゴかった〜」
事件を目撃出来た事に満足げなシノさんが、歯型クッキリの敬一クンの腕にマキロンを吹き付けている様子を見て、白砂サンは不愉快そうに眉をひそめる。
「君達、そんなふしだらな現場を、ミナトに見聞きさせないでくれないか」
「あ〜、ごめんなぁ。でも、レンが耳だけはカバーしてくれてたよ」
「あの、"ふしだら" とは、誰だれの事ですか?」
「三面記事的な修羅場を演じたのは、誰だれなのかね?」
「すみません、その言葉の意味が解りません」
「では、トラブルの中心人物は、誰だれだったのかね?」
「ええ……っと、それはたぶん、俺です」
「では、ふしだらなのは君だ」
「あの、俺のどこがそんなに、規律に欠いているんでしょう?」
「この場合ばあいのふしだらは、規律に欠いている意味ではなく、性的関係にけじめを欠いているという意味だ」
「そうなんですか……なるほど」
相変わらず敬一クンは、俺の予測の斜め上を行くやりとりをしている。
「ミナト、此処には悪い大人の不道徳が横行しているようだ。今日の勉強は、一人でやった方がいい。部屋に行きなさい」
ミナトが俺の顔を振り仰いだので、俺は引き攣った笑いで頷いてやった。
「わかった」
ノートと教科書をまとめると、ミナトはランドセルを持って階段に向かう。
ミナトが去ると、白砂サンはキッと敬一クンに振り返った。
「君がどのような交際をしようと、それは君の自由だが、子供に詳細を見聞きさせないでくれたまえ」
「申し訳わけありません、以後気を付けます」
敬一クンが素直に頭を下げたので、とりあえず騒動は一段落かとホッとしてたら、白砂サンのブリザードの視線がビシッと俺に向けられる。
「多聞君。耳を塞げるなら、すぐに部屋から連れ出すくらいの配慮もしてくれたまえ」
「ぅえええと……、えと、えとえと……はい……、以後気を付けます」
そもそも騒動が大きくなったのは、ヤバげなリングを斡旋購入してきた白砂サンの所為でもあるんじゃ……?
なんて俺に言えるワケも無い。
ペコペコと頭を下げると、白砂サンは厨房に戻っていく。
「う〜む、子育てとは、ムツカシイのう」
俺に振り返ったシノさんは、相変わらずのチシャ猫みたいな顔で、楽しそうにニシシと笑っていた。
*冷めた子供とプラチナリング:おわり*