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35.赤ビルへの入居

ー/ー



「盗聴アプリなんて、あるんですか?」

 改めて驚き顔の敬一クンが、白砂サンに問うた。

「ふむ、正規のアプリストアからリリースされている物から、非正規の個人作成アプリまで、様々な物があるね。スマホはBluetoothやWi-Fiを使って一度侵入されてしまうと、その後は情報をかなり好きに収集することが出来る。位置情報はもちろん、盗聴器や盗撮カメラとしても利用されるので、安易に他人に貸したり、人の多い場所に置きっぱなしなどしないように気をつけた(ほう)が良い」
「うっわ〜〜、やっべぇ〜〜、キっモ〜〜」

 エビセンがドン引きしたが、声には出さねど、俺だってその意味の空恐ろしさとキモさにドン引きだ。

「いりません! 捨てて下さい!」

 白砂サンが返そうとして差し出したスマホを、ホクトは受け取らなかった。

「この様子だと、オマエの部屋には、も〜っと大量のカメラやマイクが仕込まれてンじゃねェの〜?」

 もはやホクトを責めるより、シノさんみたいにケケケと笑ってしまってるエビセンのコメントに、ホクトは身の毛もよだつような顔になった。

「やめろ! 考えたくも無い! もうあの部屋には戻らない! 今すぐ引っ越す!」
「引っ越すったって、何処に?」
「小熊さん! 海老坂を追い出して、俺とシェアしてくれませんかっ!」
「なにメチャクチャなコト言ってんだ、ふざけんなっ!」
「それなら東雲さんのフロアにシェアを!」
「ん〜、そーゆー事情なら部屋貸すのもやぶさかじゃねェケド、俺はアマホクよりエビちゃん推しなんだよな〜」
「え、そーですか? そんなら、俺が中師の部屋に移るから、オマエはコグマとシェアしてろよ」
「どさくさに紛れて図々しいことを言うな!」
「どさくさ紛れに図々しいのはどっちだ!」
「私の推しはホクト君だが、この場合ホクト君がシェアを申し出るなら、多聞君の部屋が妥当だと思う」
「はいいっ?? 俺ぇぇ??」

 白砂サンの提案に、俺は狼狽えた。

「そーだな、多聞さんトコならギリギリセーフか。まぁ、階層が一段俺より上なのがチト気に障るが、天宮が中師と同居するよりはマシだ、妥協点だナ」
「そうだな、多聞さんの部屋ならカメラも全然付けられてなかったし、一人暮らしで、しかも東雲さんのペントハウスに入り浸りだから、部屋も空き放題に空いてるだろうし」
「空き放題とか、言われたしっ!」
「いや、多聞君の部屋は、空き放題に空いていないよ」
「はあ?? なんでそれを、白砂サンが言うのっ?」
「うむ。柊一に、コレクションの収納場所に困っていると相談したら、君の住まいの空き部屋を使えと言われて、合鍵を貰っている」
「うええっ!? それっていつからっ!?」
「カフェの営業を始めて間も無い頃だ。時々伺って、部屋を借りているお礼代わりに、掃除をしている」
「どーりで最近、部屋がキレイっ! てか、シノさんっ! 勝手に合鍵渡さないでよっ!」
「いーじゃん。どーせオマエ、寝室とシャワー以外使ってねェだろ? それがイイ証拠に、オマエの使ってない部屋全部セイちゃんが使ってるけど、今まで気付いてなかったじゃん」
「多聞君がシェアを了承するなら、部屋を空けよう」

 俺はショックのあまり、目の(まえ)が真っ暗になった。

「あのう……」

 それまでずっと黙っていたコグマが、右手を上げる。

「なんじゃい?」
「その、部屋割りの件なんですけど」
「うむ、意見があるならゆーてみい」

 シノさんに促された(あと)も、コグマはなんだかチラチラと白砂サンの(ほう)を伺いながら、モジモジしている。

「うざってェなあ、ハッキリしろっ!」

 エビセンにどやされて、コグマは意を決したように口を開いた。

「聖一サン。僕、本当に浅はかでした」
「それが部屋割りとどう関係あんだよ?」
「僕、聖一サンには申しわけないコトしたって、すごく反省してました。ずっと謝りたかったんです。でも聖一サンが僕じゃなくて敬一クンとイベントに出掛けた時の(ほう)が、露出の多いコスチュームを着てたコトに引っ掛かって、謝れなかった。だけど考えを改めました。そんなつまらないコトに引っ掛かって、聖一サンとの関係をダメにするなんて愚かだって。だからもし聖一サンが許してくれるなら、聖一サンとのお付き合いをやり直したいです」
「ほほ〜う。殊勝な告白じゃの〜う。でもチョイとゴメンナサイしただけじゃ、俺は交際を許可出来ないぞよ〜」

 白砂サン本人より先に、シノさんが口を出す。

「判ってます。僕、聖一サンの趣味をもっと理解したいし、いちいちフィギュアに驚くのも克服したいと思うので、聖一サンと部屋をシェアしたいです。そうすれば僕が出た部屋に、ホクト君が入居出来るし。多聞サンには色々相談にも乗って貰ってるから、そのお礼もしたいし……」
「ふう〜ん。それって、全面降伏宣言なんじゃな?」
「はい」
「セイちゃんトコに、ミナトがいるのもオッケーなんじゃな?」
「子供でも、猫でも、エイリアンでも、克服します」
「セイちゃん、こう言ってるけど?」

 訊ねられた白砂サンは、隣のミナトの顔を見た。

「イタルを歓迎してくれるかね?」
「だって、あそこは聖一の家だもん。僕には何も言えないでしょ」
「いや、ミナトは私の同居人だ。ミナトの許可が無ければ、家には(だれ)も入れないよ」

 ミナトは白砂サンの顔を見て、それから場に居る大人の顔をグルッと見回し、最後にコグマの顔を見た。

「いいよ。……ダサいけど」
「では、イタル。引っ越してきたまえ」

 コグマは深々と頭を下げたが、ほんの一瞬、チラッとミナトを睨んでいた。


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 改めて驚き顔の敬一クンが、白砂サンに問うた。
「ふむ、正規のアプリストアからリリースされている物から、非正規の個人作成アプリまで、様々な物があるね。スマホはBluetoothやWi-Fiを使って一度侵入されてしまうと、その後は情報をかなり好きに収集することが出来る。位置情報はもちろん、盗聴器や盗撮カメラとしても利用されるので、安易に他人に貸したり、人の多い場所に置きっぱなしなどしないように気をつけた|方《ほう》が良い」
「うっわ〜〜、やっべぇ〜〜、キっモ〜〜」
 エビセンがドン引きしたが、声には出さねど、俺だってその意味の空恐ろしさとキモさにドン引きだ。
「いりません! 捨てて下さい!」
 白砂サンが返そうとして差し出したスマホを、ホクトは受け取らなかった。
「この様子だと、オマエの部屋には、も〜っと大量のカメラやマイクが仕込まれてンじゃねェの〜?」
 もはやホクトを責めるより、シノさんみたいにケケケと笑ってしまってるエビセンのコメントに、ホクトは身の毛もよだつような顔になった。
「やめろ! 考えたくも無い! もうあの部屋には戻らない! 今すぐ引っ越す!」
「引っ越すったって、何処に?」
「小熊さん! 海老坂を追い出して、俺とシェアしてくれませんかっ!」
「なにメチャクチャなコト言ってんだ、ふざけんなっ!」
「それなら東雲さんのフロアにシェアを!」
「ん〜、そーゆー事情なら部屋貸すのもやぶさかじゃねェケド、俺はアマホクよりエビちゃん推しなんだよな〜」
「え、そーですか? そんなら、俺が中師の部屋に移るから、オマエはコグマとシェアしてろよ」
「どさくさに紛れて図々しいことを言うな!」
「どさくさ紛れに図々しいのはどっちだ!」
「私の推しはホクト君だが、この場合ホクト君がシェアを申し出るなら、多聞君の部屋が妥当だと思う」
「はいいっ?? 俺ぇぇ??」
 白砂サンの提案に、俺は狼狽えた。
「そーだな、多聞さんトコならギリギリセーフか。まぁ、階層が一段俺より上なのがチト気に障るが、天宮が中師と同居するよりはマシだ、妥協点だナ」
「そうだな、多聞さんの部屋ならカメラも全然付けられてなかったし、一人暮らしで、しかも東雲さんのペントハウスに入り浸りだから、部屋も空き放題に空いてるだろうし」
「空き放題とか、言われたしっ!」
「いや、多聞君の部屋は、空き放題に空いていないよ」
「はあ?? なんでそれを、白砂サンが言うのっ?」
「うむ。柊一に、コレクションの収納場所に困っていると相談したら、君の住まいの空き部屋を使えと言われて、合鍵を貰っている」
「うええっ!? それっていつからっ!?」
「カフェの営業を始めて間も無い頃だ。時々伺って、部屋を借りているお礼代わりに、掃除をしている」
「どーりで最近、部屋がキレイっ! てか、シノさんっ! 勝手に合鍵渡さないでよっ!」
「いーじゃん。どーせオマエ、寝室とシャワー以外使ってねェだろ? それがイイ証拠に、オマエの使ってない部屋全部セイちゃんが使ってるけど、今まで気付いてなかったじゃん」
「多聞君がシェアを了承するなら、部屋を空けよう」
 俺はショックのあまり、目の|前《まえ》が真っ暗になった。
「あのう……」
 それまでずっと黙っていたコグマが、右手を上げる。
「なんじゃい?」
「その、部屋割りの件なんですけど」
「うむ、意見があるならゆーてみい」
 シノさんに促された|後《あと》も、コグマはなんだかチラチラと白砂サンの|方《ほう》を伺いながら、モジモジしている。
「うざってェなあ、ハッキリしろっ!」
 エビセンにどやされて、コグマは意を決したように口を開いた。
「聖一サン。僕、本当に浅はかでした」
「それが部屋割りとどう関係あんだよ?」
「僕、聖一サンには申しわけないコトしたって、すごく反省してました。ずっと謝りたかったんです。でも聖一サンが僕じゃなくて敬一クンとイベントに出掛けた時の|方《ほう》が、露出の多いコスチュームを着てたコトに引っ掛かって、謝れなかった。だけど考えを改めました。そんなつまらないコトに引っ掛かって、聖一サンとの関係をダメにするなんて愚かだって。だからもし聖一サンが許してくれるなら、聖一サンとのお付き合いをやり直したいです」
「ほほ〜う。殊勝な告白じゃの〜う。でもチョイとゴメンナサイしただけじゃ、俺は交際を許可出来ないぞよ〜」
 白砂サン本人より先に、シノさんが口を出す。
「判ってます。僕、聖一サンの趣味をもっと理解したいし、いちいちフィギュアに驚くのも克服したいと思うので、聖一サンと部屋をシェアしたいです。そうすれば僕が出た部屋に、ホクト君が入居出来るし。多聞サンには色々相談にも乗って貰ってるから、そのお礼もしたいし……」
「ふう〜ん。それって、全面降伏宣言なんじゃな?」
「はい」
「セイちゃんトコに、ミナトがいるのもオッケーなんじゃな?」
「子供でも、猫でも、エイリアンでも、克服します」
「セイちゃん、こう言ってるけど?」
 訊ねられた白砂サンは、隣のミナトの顔を見た。
「イタルを歓迎してくれるかね?」
「だって、あそこは聖一の家だもん。僕には何も言えないでしょ」
「いや、ミナトは私の同居人だ。ミナトの許可が無ければ、家には|誰《だれ》も入れないよ」
 ミナトは白砂サンの顔を見て、それから場に居る大人の顔をグルッと見回し、最後にコグマの顔を見た。
「いいよ。……ダサいけど」
「では、イタル。引っ越してきたまえ」
 コグマは深々と頭を下げたが、ほんの一瞬、チラッとミナトを睨んでいた。