24.ソックリ一族
ー/ー
俺達は、場所をホクトの部屋に移した。
家主のミナミを見つけられず、家の中が猫だらけで、落ち着いて話が出来なかったからだ。
「その子、きっと南の子供ですよ」
ホクトは俺達にコーヒーを、子供にはオレンジジュースを出してから、ソファに座った。
「君はこの子を知っているのかね?」
「いいえ。でも南に顔がソックリじゃないですか」
自分はミナミにソックリと言われると、見事なユニゾンをしてまで否定するのに、客観的に相似を見て取ることは出来るのかと、俺は変な感心をする。
「似てないよ!」
怒ったように、子供が言った。
「何言ってるんだ、ソックリだぞ」
キミもソックリ仲間じゃないの……というセリフが喉元まで出掛かるのを、なんとか飲み込んでおく。
「君の名前はなんと言うのかね? 私は聖一だ」
白砂サンはソファに座らせた子供の隣に陣取っていて、顔を覗き込むようにしている。
子供は反抗的な目でチラチラと白砂サンを見ていたが、やがてため息混じりに言った。
「…………南斗」
「ミナトか。では、どうしてあの部屋に居たのか、教えてくれまいか?」
「……おばあちゃんが、僕を置いてった」
「おばあちゃん?」
「ああっ!」
急にホクトが大声を出したので、俺はソファの上で飛んだ。
「ど、どうしたの?」
「一週間くらい前に、商店街で伯母さんによく似た人を見掛けて、でもまさか東京に居るわけ無いって思ってスルーしたんだけど、アレ、本人だったんだ!」
「えっ、伯母さんって、ホクト君にマエストロを見てこいって言った、あの?」
「そうです」
「この子の言うおばあちゃんがその伯母さんなら、やっぱりこの子はミナミの子?」
「ミナミに連絡が取れないことには、どうにも判らんことばかりだな」
「全く、あいつはいつもフラフラしていて。俺がこの部屋で暮らしはじめてからも、ほとんど顔を合わせたことがないんです! こっちも会いたくて探してるんじゃないのに……」
なんとなくなんだが、ミナミはホクトをイライラさせるために、わざと連絡がつかないようにしているような気がする。
というのも、俺はミナミがシノさんを見初めた……というか、ミナミがシノさんと出会うきっかけが、ホクトなんじゃないかと思っているからだ。
どうもミナミの言動を見ていると、ホクトに対して並ならぬ敵愾心のようなものを持っていて、そのためにミナミはホクトの周りを調べていると思う。
ホクトが部屋を探していることを知っていて、それが敬一クンの近くで暮らしたいからって理由を、ホクトと仲が良いわけでもないのに知っていたのは、調べたからだろう。
ホクトの想い人の素性を調べたら、自分の好みなシノさんを見つけた……というのが、俺の予想なのだ。
「ミナミと連絡がつかないので、ホクト君、伝言を頼めるかね?」
「構いませんけど、何を伝えれば?」
「この子は空腹のようだし、ずいぶんと汚れてもいる。私の部屋で食事をさせて、風呂に入れ、様子によっては泊まらせたい。突然連れて来られたのだとしたら、ミナミの部屋にこの子が休む場所があるとは思えない。だが子供が急に居なくなって、私が誘拐したと思われても困る。ミナミと連絡がつかないので、やむなく無断で連れて行ったと伝えて欲しい」
「白砂サンがその子を連れて行くんですか?」
「何か問題が?」
「いえ、問題って言うか、なぜ白砂サンが?」
「伯母上がどういう理由で、この子をミナミの元に置いていったのかは知らんが、この子の状態はネグレクトだ。見過ごすことは出来ない」
「そうですか。じゃあ南が戻り次第、そう伝えます。アイツが気にしているとも思えないけど……」
「うむ、頼む。さぁミナト、行こう」
白砂サンは、なにがなんだか解らないって顔のミナトを連れて玄関に向かう。
「ええっと、じゃあ、俺も帰るね」
「あ、多聞さん。ちょっと聞きたいんですが、ペントハウスに顔を出そうとしたら、屋内が真っ暗だったんですけど。なんかご存知ですか? ケイに電話をしても留守電だし、メッセージも未読っぽくて、返事が来ないんです」
シノさんがペントハウスに施錠をしない主義を貫き通しているので、メゾンの住人にはメゾンの出入り口の鍵が配布されているのだが、実はメゾンの住人でも無いのにホクトにも鍵が渡されている。
と言うのも、既にメゾンの住人になっているエビセンに焦りを抱いているホクトが、シノさんに直談判をして合鍵をゲットしたからだ。
「ああ、きっと実家で手が離せないことしてるんじゃないかな? シノさんと敬一クン、今日は二人で鎌倉に帰省してるんだよ。今夜はアッチに泊まってくるって」
「ケイはお父さんと、仲違いしてるのでは?」
「椿サン……いや、シノさんのお母さんから連絡があって、顔見せに来て欲しいって言われたんだって。シノさんからのメールだと、敬一クンのお父さんは、敬一クンの進路に真っ向反対してたワケでもないらしいよ」
「ああ、やっぱりそうだったんだ。ケイのお父さん、頭ごなしに怒るような人じゃないのに、変だと思ってたんです。誤解が解けたなら良かった」
「詳しいコトは、敬一クンから聞いたらいいよ。明日には戻る予定だから」
「解りました、ありがとうございます」
ホクトが引き止めた理由が子供とは無関係だったので、白砂サンは先に部屋から出ていたけど、廊下で待っていてくれた。
そして俺達は、そのまま赤ビルに戻った。
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家主のミナミを見つけられず、家の中が猫だらけで、落ち着いて話が出来なかったからだ。
「その子、きっと南の子供ですよ」
ホクトは俺達にコーヒーを、子供にはオレンジジュースを出してから、ソファに座った。
「君はこの子を知っているのかね?」
「いいえ。でも南に顔がソックリじゃないですか」
自分はミナミにソックリと言われると、見事なユニゾンをしてまで否定するのに、客観的に相似を見て取ることは出来るのかと、俺は変な感心をする。
「似てないよ!」
怒ったように、子供が言った。
「何言ってるんだ、ソックリだぞ」
キミもソックリ仲間じゃないの……というセリフが喉元まで出掛かるのを、なんとか飲み込んでおく。
「君の名前はなんと言うのかね? 私は聖一だ」
白砂サンはソファに座らせた子供の隣に陣取っていて、顔を覗き込むようにしている。
子供は反抗的な目でチラチラと白砂サンを見ていたが、やがてため息混じりに言った。
「…………|南斗《みなと》」
「ミナトか。では、どうしてあの部屋に居たのか、教えてくれまいか?」
「……おばあちゃんが、僕を置いてった」
「おばあちゃん?」
「ああっ!」
急にホクトが大声を出したので、俺はソファの上で飛んだ。
「ど、どうしたの?」
「一週間くらい|前《まえ》に、商店街で伯母さんによく似た人を見掛けて、でもまさか東京に居るわけ無いって思ってスルーしたんだけど、アレ、本人だったんだ!」
「えっ、伯母さんって、ホクト君にマエストロを見てこいって言った、あの?」
「そうです」
「この子の言うおばあちゃんがその伯母さんなら、やっぱりこの子はミナミの子?」
「ミナミに連絡が取れないことには、どうにも判らんことばかりだな」
「全く、あいつはいつもフラフラしていて。俺がこの部屋で暮らしはじめてからも、ほとんど顔を合わせたことがないんです! こっちも会いたくて探してるんじゃないのに……」
なんとなくなんだが、ミナミはホクトをイライラさせるために、わざと連絡がつかないようにしているような気がする。
というのも、俺はミナミがシノさんを見初めた……というか、ミナミがシノさんと出会うきっかけが、ホクトなんじゃないかと思っているからだ。
どうもミナミの言動を見ていると、ホクトに対して並ならぬ敵愾心のようなものを持っていて、そのためにミナミはホクトの周りを調べていると思う。
ホクトが部屋を探していることを知っていて、それが敬一クンの近くで暮らしたいからって理由を、ホクトと仲が良いわけでもないのに知っていたのは、調べたからだろう。
ホクトの想い人の素性を調べたら、自分の好みなシノさんを見つけた……というのが、俺の予想なのだ。
「ミナミと連絡がつかないので、ホクト君、伝言を頼めるかね?」
「構いませんけど、何を伝えれば?」
「この子は空腹のようだし、ずいぶんと汚れてもいる。私の部屋で食事をさせて、風呂に入れ、様子によっては泊まらせたい。突然連れて来られたのだとしたら、ミナミの部屋にこの子が休む場所があるとは思えない。だが子供が急に居なくなって、私が誘拐したと思われても困る。ミナミと連絡がつかないので、やむなく無断で連れて|行《い》ったと伝えて欲しい」
「白砂サンがその子を連れて行くんですか?」
「何か問題が?」
「いえ、問題って言うか、なぜ白砂サンが?」
「伯母上がどういう理由で、この子をミナミの元に置いていったのかは知らんが、この子の状態はネグレクトだ。見過ごすことは出来ない」
「そうですか。じゃあ南が戻り次第、そう伝えます。アイツが気にしているとも思えないけど……」
「うむ、頼む。さぁミナト、行こう」
白砂サンは、なにがなんだか解らないって顔のミナトを連れて玄関に向かう。
「ええっと、じゃあ、俺も帰るね」
「あ、多聞さん。ちょっと聞きたいんですが、ペントハウスに顔を出そうとしたら、屋内が真っ暗だったんですけど。なんかご存知ですか? ケイに電話をしても留守電だし、メッセージも未読っぽくて、返事が来ないんです」
シノさんがペントハウスに施錠をしない主義を貫き通しているので、メゾンの住人にはメゾンの出入り口の鍵が配布されているのだが、実はメゾンの住人でも無いのにホクトにも鍵が渡されている。
と言うのも、既にメゾンの住人になっているエビセンに焦りを抱いているホクトが、シノさんに直談判をして合鍵をゲットしたからだ。
「ああ、きっと実家で手が離せないことしてるんじゃないかな? シノさんと敬一クン、今日は二人で鎌倉に帰省してるんだよ。今夜はアッチに泊まってくるって」
「ケイはお父さんと、仲違いしてるのでは?」
「椿サン……いや、シノさんのお母さんから連絡があって、顔見せに来て欲しいって言われたんだって。シノさんからのメールだと、敬一クンのお父さんは、敬一クンの進路に真っ向反対してたワケでもないらしいよ」
「ああ、やっぱりそうだったんだ。ケイのお父さん、頭ごなしに怒るような人じゃないのに、変だと思ってたんです。誤解が解けたなら良かった」
「詳しいコトは、敬一クンから聞いたらいいよ。明日には戻る予定だから」
「解りました、ありがとうございます」
ホクトが引き|止《と》めた理由が子供とは無関係だったので、白砂サンは先に部屋から出ていたけど、廊下で待っていてくれた。
そして俺達は、そのまま赤ビルに戻った。