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9.キングオブロックンロール神楽坂自警団

ー/ー



 午後七時。
 シノさんが昨日言っていた時間になり、皆がペントハウスのリビングに集まった。
 壁には「第一回・キングオブロックンロール神楽坂自警団・幽霊対策巡回当番ミーティング」の横断幕が貼られている。

 三階の住人である神巫悠(かんなぎはるか)小仏満(こぼとけみつる)は、どちらも二十代後半で、二階のテナントに "ハルカとミツルのフライングV" という、ヨガとマッサージの店をやっている。
 ちなみにこのトンデモセンスの店名は、入居時に店の名前を考えていなかったハルカに対し、シノさんが勝手に付けたらしい。
 自警団のメンバーは、この二人に、シノさん、敬一クン、エビセン、ホクト、コグマ、それに俺という、総勢八名だ。

 エビセンに襟首を引き摺られるようにして来たコグマは、来た時からもう涙目になっていた。
 俺だって幽霊が出るというだけでもイヤなのに、わざわざ夜に幽霊を探して回るなんて、どうしてそんなことしなきゃならないのかと思っている。
 そこにエビセンまで加わったダブル恐怖じゃ、泣くなという(ほう)がムリだろう。

 全員が揃ったところで、敬一クンが説明を始めた。

「小熊さんと多聞さんがビル内で、幽霊のような不審者を目撃したということなので、当面の自警として夜間の見回りをしたいと思います。具体的には居住者でチームを作り、日替わりでビル内を巡回してもらうので、まずはチーム割りから。何か提案があればお願いします」
「ザックリと部屋割りにして、東雲さんは多聞さんと、ケイは俺と組めばいいんじゃないかな」

 ホクトがそう言った途端に、

「ふざけんな甘食!」
「あなた鬼ですか!」

 と、セリフはかなり違う反対意見が、エビセンとコグマの口から発せられた。
 ついでにエビセンは、

「イイ年齢した大男が半べそ掻いてて鬱陶しいわっ、このビビリぐまっ!」

 と、どやしつけてコグマをますます泣かせてから、

「オマエは此処の住人でもないクセに、でしゃばってくんな!」

 と、あのオソロシイ目でホクトを睨めつけた。
 するとホクトも、

「オマエこそ危険人物のクセに、ケイと二人きりになんかさせないぞ!」

 と、あんなコワイ目をしたエビセンと、いい勝負でやり合っている。
 ミナミとやり合ってた時は、一方的に振り回されてる感じだったケド、気迫が全然チガウのはナゼダロウ…。

「意見がまとまらないなら、あみだくじにするが」

 と、敬一クンが言うと、エビセンとホクトが同時に、

「そんなのはダメだ!!!!」

 とユニゾンした。

 結局シノさんがマエストロチームとフライングチームとキャンパスチームに分けて、コグマは好きなトコに(ハイ)れと言ったら、一も二もなくマエストロチームに(ハイ)ってきたので、チーム分けが決まった。
 あとはあみだくじで巡回する順番を決め、夕食後から寝るまでの間のそれぞれ都合のいい時間に、ビルの階段を五階から一階までチェックするということになった。

 マエストロの正社員になってからは収入も安定したし、三度の食事もシノさん兄弟と一緒に食べたり、賄いが出たりするので、俺は以前よりずっといい食生活をしている。
 シノさんの妙な倹約ポリシーの所為で敬一クンが一緒に寝起きしているから、そういう意味でシノさんとデートする機会が減っちゃってたりとか、店で毎日シノさんのワガママに付き合わされてたりとか、マイナス面もあるけど、俺的には此処に住むようになってからの生活は気に入ってる。

 でも幽霊が出るっていうのは、話が全然別だ。

 正直、ちょっと見栄を張ってあの晩は一人で部屋に帰ったが。
 あれ以来、部屋の電気が消せなくなったし、このまま騒動が続くならやっぱりリビングのソファに居候させてもらわなきゃならないかもしれない……とまで考えていた。

「ぎゃーーーーーーーっ!!」
「どわーーーーーーーっ!!」

 雑巾を裂くような男の悲鳴二重奏が聞こえてきて、俺はベッドから落ちるほど飛び上がった。
 エレベーターが格子で出来ているこのビルは、階段ががらんどうな所為で音がものすごく反響して響き渡る。

 男の悲鳴二重奏がハルカとミツルなことも即座に判った。
 コワイけど、見に行かないのもまたコワイので、クイックルワイパー【フロア用】を構えて廊下に出た。
 俺の部屋の(まえ)から、エレベーターのシャフト越しにフライングチームのハルカとミツルが蹲っているのが見えた。
 死んでるのかと思ってビビったが、踊り場まで()りて(そば)でよく見たらウンウン言いつつ動いてて、腰を抜かしているだけのようだ。
 そこで二人に声を掛けようとしたら、下から白っぽい顔が覗いたので、俺も悲鳴を上げそうになった。

「オマエまで叫んだら殴るぞヘタレ!」

 と、即座にエビセンが怒鳴る声がしたので、慌てて悲鳴を飲み込んだ。
 エビセンの後ろには、コグマがくっついてきている。

「コイツ、悲鳴が聞こえただけで部屋で叫びだしやがって、あったく、どんだけビビリぐまなんだか!」
「海老坂クンもコワイけど、一人で部屋にいるのもコワくて!」

 エビセンの背中にくっついてきたくらいだから、恐怖の大きさが容易に想像つく。
 俺だってどれほど目がコワくたって、こんな幽霊騒ぎに全然動じてないエビセンの後ろに隠れたくなる。
 というかエビセンがどっかのスポーツ部の主将みたいに、デッカイ声でどやしてきてる(ほう)が、ワケの解らぬ怖さが軽減される気がする。
 そんなこんなで、みんなでハルカとミツルを抱えて、シノさんの部屋へ()った。
 話を聞いたシノさんと敬一クンは、ビルの階段を上から下まで確かめに()ってくれたのだが、何も怪しいものは無かったと言う。

「皆さんの話だと、白っぽい幽霊のようなものがスウッと消えたというのが一致してる目撃状況ですが、そうするとその幽霊のようなものはただ消えてるだけで、今のところ実害は何も無いってことですよね?」

 敬一クンに言われて、俺達は顔を見合わせた。
 そう言われちゃうと身も蓋もなく、何ということも無いものを見て、ビビッて騒いでいる俺達の(ほう)が変みたいな感じになってしまう。
 俺は一所懸命に、そうじゃなくて! という説得を試みた。

「ケド、でも、ほら! ゴキブリだって、出るだけで刺したり噛んだりしなくても、駆除するじゃない?」

 するとハルカが右手を上げて
「幽霊が出るなんてウワサが立ったら、フーヒョー被害で客足が落ちる心配がありますが、ゴキブリは雑菌繁殖させて病原菌を媒介するから、下手すると一発で営業停止になりまッス。店舗経営者としては、ゴキブリと幽霊は比較にならないぐらい、ゴキブリの(ほう)が天敵ッス」

 と言い、続けてミツルも
「それに、家電に(ハイ)り込んで漏電火災を起こしたりするコトもあるッス」

 と、おまえらどっちの味方なんだよ! てな発言をしてくれて、俺の説得話は空中分解した。
 最後に敬一クンが、
「みなさん明日の仕事もあるでしょうから、とりあえず今夜はここまでに。明日以降も巡回を続けて不穏なことがあるようなら、俺が公的機関に相談に行きます」

 と締めくくり、一同は解散と相成った。


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 午後七時。
 シノさんが昨日言っていた時間になり、皆がペントハウスのリビングに集まった。
 壁には「第一回・キングオブロックンロール神楽坂自警団・幽霊対策巡回当番ミーティング」の横断幕が貼られている。
 三階の住人である|神巫悠《かんなぎはるか》と|小仏満《こぼとけみつる》は、どちらも二十代後半で、二階のテナントに "ハルカとミツルのフライングV" という、ヨガとマッサージの店をやっている。
 ちなみにこのトンデモセンスの店名は、入居時に店の名前を考えていなかったハルカに対し、シノさんが勝手に付けたらしい。
 自警団のメンバーは、この二人に、シノさん、敬一クン、エビセン、ホクト、コグマ、それに俺という、総勢八名だ。
 エビセンに襟首を引き摺られるようにして来たコグマは、来た時からもう涙目になっていた。
 俺だって幽霊が出るというだけでもイヤなのに、わざわざ夜に幽霊を探して回るなんて、どうしてそんなことしなきゃならないのかと思っている。
 そこにエビセンまで加わったダブル恐怖じゃ、泣くなという|方《ほう》がムリだろう。
 全員が揃ったところで、敬一クンが説明を始めた。
「小熊さんと多聞さんがビル内で、幽霊のような不審者を目撃したということなので、当面の自警として夜間の見回りをしたいと思います。具体的には居住者でチームを作り、日替わりでビル内を巡回してもらうので、まずはチーム割りから。何か提案があればお願いします」
「ザックリと部屋割りにして、東雲さんは多聞さんと、ケイは俺と組めばいいんじゃないかな」
 ホクトがそう言った途端に、
「ふざけんな甘食!」
「あなた鬼ですか!」
 と、セリフはかなり違う反対意見が、エビセンとコグマの口から発せられた。
 ついでにエビセンは、
「イイ年齢した大男が半べそ掻いてて鬱陶しいわっ、このビビリぐまっ!」
 と、どやしつけてコグマをますます泣かせてから、
「オマエは此処の住人でもないクセに、でしゃばってくんな!」
 と、あのオソロシイ目でホクトを睨めつけた。
 するとホクトも、
「オマエこそ危険人物のクセに、ケイと二人きりになんかさせないぞ!」
 と、あんなコワイ目をしたエビセンと、いい勝負でやり合っている。
 ミナミとやり合ってた時は、一方的に振り回されてる感じだったケド、気迫が全然チガウのはナゼダロウ…。
「意見がまとまらないなら、あみだくじにするが」
 と、敬一クンが言うと、エビセンとホクトが同時に、
「そんなのはダメだ!!!!」
 とユニゾンした。
 結局シノさんがマエストロチームとフライングチームとキャンパスチームに分けて、コグマは好きなトコに|入《ハイ》れと言ったら、一も二もなくマエストロチームに|入《ハイ》ってきたので、チーム分けが決まった。
 あとはあみだくじで巡回する順番を決め、夕食後から寝るまでの間のそれぞれ都合のいい時間に、ビルの階段を五階から一階までチェックするということになった。
 マエストロの正社員になってからは収入も安定したし、三度の食事もシノさん兄弟と一緒に食べたり、賄いが出たりするので、俺は以前よりずっといい食生活をしている。
 シノさんの妙な倹約ポリシーの所為で敬一クンが一緒に寝起きしているから、そういう意味でシノさんとデートする機会が減っちゃってたりとか、店で毎日シノさんのワガママに付き合わされてたりとか、マイナス面もあるけど、俺的には此処に住むようになってからの生活は気に入ってる。
 でも幽霊が出るっていうのは、話が全然別だ。
 正直、ちょっと見栄を張ってあの晩は一人で部屋に帰ったが。
 あれ以来、部屋の電気が消せなくなったし、このまま騒動が続くならやっぱりリビングのソファに居候させてもらわなきゃならないかもしれない……とまで考えていた。
「ぎゃーーーーーーーっ!!」
「どわーーーーーーーっ!!」
 雑巾を裂くような男の悲鳴二重奏が聞こえてきて、俺はベッドから落ちるほど飛び上がった。
 エレベーターが格子で出来ているこのビルは、階段ががらんどうな所為で音がものすごく反響して響き渡る。
 男の悲鳴二重奏がハルカとミツルなことも即座に判った。
 コワイけど、見に行かないのもまたコワイので、クイックルワイパー【フロア用】を構えて廊下に出た。
 俺の部屋の|前《まえ》から、エレベーターのシャフト越しにフライングチームのハルカとミツルが蹲っているのが見えた。
 死んでるのかと思ってビビったが、踊り場まで|降《お》りて|傍《そば》でよく見たらウンウン言いつつ動いてて、腰を抜かしているだけのようだ。
 そこで二人に声を掛けようとしたら、下から白っぽい顔が覗いたので、俺も悲鳴を上げそうになった。
「オマエまで叫んだら殴るぞヘタレ!」
 と、即座にエビセンが怒鳴る声がしたので、慌てて悲鳴を飲み込んだ。
 エビセンの後ろには、コグマがくっついてきている。
「コイツ、悲鳴が聞こえただけで部屋で叫びだしやがって、あったく、どんだけビビリぐまなんだか!」
「海老坂クンもコワイけど、一人で部屋にいるのもコワくて!」
 エビセンの背中にくっついてきたくらいだから、恐怖の大きさが容易に想像つく。
 俺だってどれほど目がコワくたって、こんな幽霊騒ぎに全然動じてないエビセンの後ろに隠れたくなる。
 というかエビセンがどっかのスポーツ部の主将みたいに、デッカイ声でどやしてきてる|方《ほう》が、ワケの解らぬ怖さが軽減される気がする。
 そんなこんなで、みんなでハルカとミツルを抱えて、シノさんの部屋へ|行《い》った。
 話を聞いたシノさんと敬一クンは、ビルの階段を上から下まで確かめに|行《い》ってくれたのだが、何も怪しいものは無かったと言う。
「皆さんの話だと、白っぽい幽霊のようなものがスウッと消えたというのが一致してる目撃状況ですが、そうするとその幽霊のようなものはただ消えてるだけで、今のところ実害は何も無いってことですよね?」
 敬一クンに言われて、俺達は顔を見合わせた。
 そう言われちゃうと身も蓋もなく、何ということも無いものを見て、ビビッて騒いでいる俺達の|方《ほう》が変みたいな感じになってしまう。
 俺は一所懸命に、そうじゃなくて! という説得を試みた。
「ケド、でも、ほら! ゴキブリだって、出るだけで刺したり噛んだりしなくても、駆除するじゃない?」
 するとハルカが右手を上げて
「幽霊が出るなんてウワサが立ったら、フーヒョー被害で客足が落ちる心配がありますが、ゴキブリは雑菌繁殖させて病原菌を媒介するから、下手すると一発で営業停止になりまッス。店舗経営者としては、ゴキブリと幽霊は比較にならないぐらい、ゴキブリの|方《ほう》が天敵ッス」
 と言い、続けてミツルも
「それに、家電に|入《ハイ》り込んで漏電火災を起こしたりするコトもあるッス」
 と、おまえらどっちの味方なんだよ! てな発言をしてくれて、俺の説得話は空中分解した。
 最後に敬一クンが、
「みなさん明日の仕事もあるでしょうから、とりあえず今夜はここまでに。明日以降も巡回を続けて不穏なことがあるようなら、俺が公的機関に相談に行きます」
 と締めくくり、一同は解散と相成った。