8.ヘンクツ王子・天宮南
ー/ー
そんなワケで今日もホクトがやってきた。
以前に「竹橋から日参して夜まで居続けなのは大変じゃない?」と訊ねたら、「竹橋と神楽坂なんて、名古屋と鎌倉に比べたら隣近所も同然ですよ」と爽やかな笑顔で返されたことがある。
よく解らないがスゴイ熱意だ。
でも今日のホクトは仏頂面で店の中を覗き込み、俺のことをチラッと見ただけで、無視してそのまま出て行こうとした。
「天宮クン、どうしたの?」
声を掛けたら立ち止まり、不愉快そうに俺を見て、ボソッと言った。
「ヘタレうるさい」
なにそれと思ってビックリしてたら、キッチンから出てきたシノさんが言った。
「あー! アマミーやっと来たのかよー! 取り置きのキッシュ、カッチカチになっちゃったぞー!」
えっコレ、ホクトじゃないの!?
ってガン見してしまうくらい、ミナミの顔はホクトの顔とソックリだった。
従兄弟というより双子みたいで、言われれば確かにコッチの方が年上のようだが、しかしそれは服装がそんな感じだからで、並べて見たって騙されそうなくらい似ている。
別々に見たら、絶対区別なんかつかないだろう。
しかし顔はクリソツでも、態度はまったく似てなくて、ホクトは敬一クンに対してはちょっと変だけど、基本は明るく爽やかなイケメン王子だ。
対するミナミは、イケメンだけどなんかヤな感じの、根性の曲がった偏屈王子って感じだ。
ミナミはシノさんが出てきた途端に、チャッと花束とケーキの箱を取り出した。
デッカイ花束とケーキの箱をそれまでどこに隠し持ってたのか、俺には全然ワカラナイ。
そしてミナミはまるで猫好きが猫を撫でるように、シノさんの頭をナデナデしながら、
「キッシュでランチさせて」
と言って、俺の姿なんか見えてないみたいに、そこのテーブルを陣取ってしまった。
テーブルの上には、コンビニで買ってきたらしい苺牛乳。
そして、シノさんが出してきた真っ黄色なアマミー・スペシャルを食べ始める。
──なんなんだコイツわ!
…と思いつつ、俺は横目でミナミのことを睨みつけ、胸の中で「早く帰れ!」と唱えていた。
我ながら情けない抗議行動だケド、得体が知れないミナミは不気味で、他にどうしようもなかったのだ。
俺の念はサッパリ通じず、一時間経ってもミナミはそこにいて、シノさんと喋っていた。
喋ってたとゆーか、喋ってるのはシノさんばっかりで、ミナミはほとんど何も言わずにシノさんの話を聞いていて、時々シノさんの頭をナデナデしている。
その様子は、シノさんの浮気どうこうを疑う以上に、ミナミの変さが尋常じゃない。
聞き慣れたカブのエンジン音が聞こえてきて、しばらくすると、敬一クンが通路から店に入ってきた。
そしてそこにいるミナミを見て、俺と同じように騙された。
「天宮、今日は随分早いじゃないか」
俺の時と同じように仏頂面で敬一クンを見上げて、ミナミがボソッと言った。
「ひっどいブス」
自分がヘタレ呼ばわりされたのにも、突然の失礼さにビックリしたケド、どっからどー見ても男らしい容姿の敬一クンを "ブス" と形容したのには、別の意味でビックリした。
「なんだよアマミー、ブスはねェだろ! ケイちゃんはモッテモテで可愛い俺の弟だぞ!」
「そう」
敬一クンはブスと呼ばれても気にしなかったのか、または自分がブスと言われたことに気付かなかったのか、パタパタと瞬きをしつつ首を傾げた。
「どうしたんだ天宮?」
するとミナミは思いっ切りイヤそうな顔をして、敬一クンを睨みつけた。
「似てないよ」
「え?」
「似てないから」
「何が似てないんだ?」
「ケイちゃん、これアマホクじゃなくてアマミーだよ」
「あまみい? じゃあこの人が、天宮の従兄弟で出資者の南さんですか」
「どうもこんにちはー」
言ってる傍から爽やかな挨拶とともにホクトが店に入ってきて、最初は敬一クンに向かって何か言おうとしたようだケド、言う前にそこにいるミナミに気付いた。
「南! おまえ、今までどこに雲隠れしてたんだ!」
「別に…」
「なんだよ別にって! おまえの所為でこっちはえらい迷惑被ってるんだぞ!」
「天宮、おまえと南さんの顔、ソックリだなあ」
敬一クンが言った途端に、二人天宮がソックリな動作で振り返って同時に叫んだ。
「似てないから!」
「区別がつかないほど似てるが」
「似てないの!」
何度やってもセリフも動作もまったく見事にユニゾンしていて、俺とシノさんは同時に吹き出してしまった。
ミナミはシノさんを恨みがましい目で見るし、ホクトは敬一クンの肩に両手を掛けて、よしてくれと懇願している。
それでもホクトは伯母さんに頼まれて来ているワケで、ミナミにあれこれと聞きただし始めたのだが、ミナミの返事は箸にも棒にも掛からなくて、ホクトの額に怒りマークがビシビシと増えた。
「どうして伯母さんからの電話に全く出ないんだ!」
「別に…」
「役職の人間が年がら年中早退してちゃ困るだろ!」
「別に…」
「社会人としてその態度はどうなんだ!」
「別に…」
「勝手にこっちへマンション借りて、大手町の部屋はどうする気なんだ!」
「別に…」
「そもそもオマエ、なんで東雲さんのストーカーなんかしてるんだよ!」
「別に…」
とうとうホクトがキレた。
「俺が伯母さんに現状を伝えたら、伯母さんオマエのことを名古屋へ連れ戻して、二度と東京なんかに来られなくされちゃうぞ!」
するとそれまではふてぶてしくそっぽを向いていたミナミの眉が、ピクっと上がった。
「ババアに告げ口する気?」
「告げ口なんかしたくないから、まだ何も伝えてないんじゃないか!」
「告げ口したら絶交」
「それ小学生の時からずっと同じ脅し文句じゃないか!」
ミナミはケータイを取り出してチラッと画面を見ると、スッと立ち上がった。
「じゃあまた来るから」
シノさんに向かってそれだけ言って、そのままスタスタと店から出て行く。
「おいこらー! いっそ本気で絶交しろー!」
ホクトがいくら叫んでも、振り返りもしなかった。
聞けば聞くほど謎が深まる…と思っていたミナミは、実物を見たらもう謎どころの話じゃなく、なんであんなのが出てきても、シノさんは平気なんだろうか……?
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そんなワケで今日もホクトがやってきた。
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よく解らないがスゴイ熱意だ。
でも今日のホクトは仏頂面で店の中を覗き込み、俺のことをチラッと見ただけで、無視してそのまま出て行こうとした。
「天宮クン、どうしたの?」
声を掛けたら立ち|止《ど》まり、不愉快そうに俺を見て、ボソッと言った。
「ヘタレうるさい」
なにそれと思ってビックリしてたら、キッチンから出てきたシノさんが言った。
「あー! アマミーやっと来たのかよー! 取り置きのキッシュ、カッチカチになっちゃったぞー!」
えっコレ、ホクトじゃないの!?
ってガン見してしまうくらい、ミナミの顔はホクトの顔とソックリだった。
従兄弟というより双子みたいで、言われれば確かにコッチの|方《ほう》が年上のようだが、しかしそれは服装がそんな感じだからで、並べて見たって騙されそうなくらい似ている。
別々に見たら、絶対区別なんかつかないだろう。
しかし顔はクリソツでも、態度はまったく似てなくて、ホクトは敬一クンに対してはちょっと変だけど、基本は明るく爽やかなイケメン王子だ。
対するミナミは、イケメンだけどなんかヤな感じの、根性の曲がった偏屈王子って感じだ。
ミナミはシノさんが出てきた途端に、チャッと花束とケーキの箱を取り出した。
デッカイ花束とケーキの箱をそれまでどこに隠し持ってたのか、俺には全然ワカラナイ。
そしてミナミはまるで猫好きが猫を撫でるように、シノさんの頭をナデナデしながら、
「キッシュでランチさせて」
と言って、俺の姿なんか見えてないみたいに、そこのテーブルを陣取ってしまった。
テーブルの上には、コンビニで買ってきたらしい苺牛乳。
そして、シノさんが出してきた真っ黄色なアマミー・スペシャルを食べ始める。
──なんなんだコイツわ!
…と思いつつ、俺は横目でミナミのことを睨みつけ、胸の中で「早く帰れ!」と唱えていた。
我ながら情けない抗議行動だケド、得体が知れないミナミは不気味で、他にどうしようもなかったのだ。
俺の念はサッパリ通じず、一時間経ってもミナミはそこにいて、シノさんと喋っていた。
喋ってたとゆーか、喋ってるのはシノさんばっかりで、ミナミはほとんど何も言わずにシノさんの話を聞いていて、時々シノさんの頭をナデナデしている。
その様子は、シノさんの浮気どうこうを疑う以上に、ミナミの変さが尋常じゃない。
聞き慣れたカブのエンジン音が聞こえてきて、しばらくすると、敬一クンが通路から店に|入《ハイ》ってきた。
そしてそこにいるミナミを見て、俺と同じように騙された。
「天宮、今日は随分早いじゃないか」
俺の時と同じように仏頂面で敬一クンを見上げて、ミナミがボソッと言った。
「ひっどいブス」
自分がヘタレ呼ばわりされたのにも、突然の失礼さにビックリしたケド、どっからどー見ても男らしい容姿の敬一クンを "ブス" と形容したのには、別の意味でビックリした。
「なんだよアマミー、ブスはねェだろ! ケイちゃんはモッテモテで可愛い俺の弟だぞ!」
「そう」
敬一クンはブスと呼ばれても気にしなかったのか、または自分がブスと言われたことに気付かなかったのか、パタパタと瞬きをしつつ首を傾げた。
「どうしたんだ天宮?」
するとミナミは思いっ切りイヤそうな顔をして、敬一クンを睨みつけた。
「似てないよ」
「え?」
「似てないから」
「何が似てないんだ?」
「ケイちゃん、これアマホクじゃなくてアマミーだよ」
「あまみい? じゃあこの人が、天宮の従兄弟で出資者の南さんですか」
「どうもこんにちはー」
言ってる|傍《そば》から爽やかな挨拶とともにホクトが店に|入《ハイ》ってきて、最初は敬一クンに向かって何か言おうとしたようだケド、言う|前《まえ》にそこにいるミナミに気付いた。
「南! おまえ、今までどこに雲隠れしてたんだ!」
「別に…」
「なんだよ別にって! おまえの所為でこっちはえらい迷惑|被《かぶ》ってるんだぞ!」
「天宮、おまえと南さんの顔、ソックリだなあ」
敬一クンが言った途端に、二人天宮がソックリな動作で振り返って同時に叫んだ。
「似てないから!」
「区別がつかないほど似てるが」
「似てないの!」
何度やってもセリフも動作もまったく見事にユニゾンしていて、俺とシノさんは同時に吹き出してしまった。
ミナミはシノさんを恨みがましい目で見るし、ホクトは敬一クンの肩に両手を掛けて、よしてくれと懇願している。
それでもホクトは伯母さんに頼まれて来ているワケで、ミナミにあれこれと聞きただし始めたのだが、ミナミの返事は箸にも棒にも掛からなくて、ホクトの|額《ひたい》に怒りマークがビシビシと増えた。
「どうして伯母さんからの電話に全く出ないんだ!」
「別に…」
「役職の人間が年がら年中早退してちゃ困るだろ!」
「別に…」
「社会人としてその態度はどうなんだ!」
「別に…」
「勝手にこっちへマンション借りて、大手町の部屋はどうする気なんだ!」
「別に…」
「そもそもオマエ、なんで東雲さんのストーカーなんかしてるんだよ!」
「別に…」
とうとうホクトがキレた。
「俺が伯母さんに現状を伝えたら、伯母さんオマエのことを名古屋へ連れ戻して、二度と東京なんかに来られなくされちゃうぞ!」
するとそれまではふてぶてしくそっぽを向いていたミナミの眉が、ピクっと上がった。
「ババアに告げ口する気?」
「告げ口なんかしたくないから、まだ何も伝えてないんじゃないか!」
「告げ口したら絶交」
「それ小学生の時からずっと同じ脅し文句じゃないか!」
ミナミはケータイを取り出してチラッと画面を見ると、スッと立ち上がった。
「じゃあまた|来《く》るから」
シノさんに向かってそれだけ言って、そのままスタスタと店から出て行く。
「おいこらー! いっそ本気で絶交しろー!」
ホクトがいくら叫んでも、振り返りもしなかった。
聞けば聞くほど謎が深まる…と思っていたミナミは、実物を見たらもう謎どころの話じゃなく、なんであんなのが出てきても、シノさんは平気なんだろうか……?