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7.変なものが出た

ー/ー



 あれ以来ホクトは、毎日店に来ている。
 ミナミのマンションも見に()ってるようだが、それは最初にチョイと立ち寄ってくるだけで、あとはずぅ〜と店にいて、カフェが忙しい時はチャチャっと如才なく手伝ってくれたりするが、暇だと例の調子でシノさんとお喋りしてるし、敬一クンがいればもう、ずぅ〜と取っ付いている。

「経営の細部を確認しておかないと、伯母に報告できませんから」

 とか、口では言ってるが、それはどう見ても取ってつけたタテマエで、経理担当の敬一クンに会いに来てるだけにしか見えない。

「毎日、毎日、うざってぇな!」

 とはエビセンの言だ。
 もっともこれは当然至極で、敬一クンを巡ってエビセンとホクトは恋のライヴァルなのである。
 だからホクトも負けじ劣らず。

「用事があって来ているんだ!」

 となって、そうなるともうバリバリな空気になるから、俺は一緒にいるだけでヘトヘトになる。

 だがシノさんはホクトとエビセンの両方と仲良くしてるし、両方が同時に居る時は更に楽しそうにしてるし、敬一クンは周囲がどんな空気になってても、それに全く気付かないようだ。

 そんなこんなで俺もすっかり忘れかけていたのだが。
 ホクトとエビセンがブッキングして、そのまま皆でシノさん宅で夕飯を食べたので、すっかり疲れた俺は自分の部屋へ戻ることにした。

 シノさんと敬一クンだけなら片付けまで手伝うケド、ホクトもエビセンも元々高スキルな上にライバル心で牽制し合ってて、俺が出来るような作業なんかさっさと片付いてしまうから、俺が抜けても平気だろう。
 そう思ってペントハウスを出たら、エレベーターのボックスが五階に無かった。

 俺の部屋は、ペントハウスの直ぐ下──四階にある。
 メゾンは、ここらのマンションによくあるフロアごとに入居戸数が変わるタイプの集合住宅だ。
 メゾンは三階は3LDKで三戸(さんこ)、四階は5LDKで二戸(にこ)
 俺は敬一クンから "シノさんのお世話係" を任命されたので、特権として広い方の四階のB室(ビーしつ)に入居させてもらった。
 あとになって、店から部屋に戻るときに、四階は失敗だった……とは思ったけども。

 というのも、このビルに付いているエレベーターは、なかなかの難物だからである。
 先日コグマも言っていたが、超が付くほど骨董品で、扉はなんと手動なのだ。
 シノさんは、リフォーム時に最新のものと取り替えようとしたが、業者のヒトに「無理」と断られたらしい。

 外枠と昇降ボックス本体は、どちらもアールデコっぽい鋼鉄製で、中身は丸見えだし、スマホの電波も楽々届く。
 一見するとおしゃれモダンだが、敬一クンがメンテナンスをちゃんとしてくれるようになる以前は、ボタンを押して即座に動くことのほうが稀だった。
 階段を下り始めた時から奇妙な違和感を覚えていた。

「……変……だな?」

 五階と四階の途中にある踊り場に行き着く(まえ)に、なんだか、奇妙な白っぽい影が、目の端に映ったような気が……して……。
 しかしきちんと目線をやっても、そちらにはなにもいない。

 エレベーターがシースルー構造なので、そこにボックスがなければ吹き抜けの螺旋階段とほぼ大差ない形になる。
 そこで改めて四階の階段や廊下を見直そうとして、俺はボックスが四階に止まっていることに気が付いた。

 最初に感じた違和感は、五階のホールから見た時に、エレベーターシャフトの中にボックスの天井が見えていたから感じたものだったのだ。

 四階は俺以外に乗降する人間はいないはずなのに、俺が五階で飯を食っている間にエレベーターが四階で止まっているなんて、アリエナイ。
 それら諸々の考えがバーッと脳裏をよぎり、半ばパニックを起こしたところでトドメにコグマの話を思い出し、俺は思いっ切り「ぎゃーーーーーーーー!!」と叫んでしまった。

§

「なんじゃあ、どうしたぁ?」

 ペントハウスから、シノさんと敬一クン、それにホクトとエビセンが出てきた。

「どうしたんすかぁ?」

 三階の住人である、ハルカとミツルもやってきた。

「幽霊が出た!」

 俺の叫びに、エビセンは吹いた。
 ハルカとミツルは、幽霊の話そのものを知らないので、きょとんとしている。

「あったく、しょーがねぇなぁ」

 シノさんが手を貸してくれたので、俺はようやく立ち上がった。

「ケイちゃん、今何時?」
「そろそろ10時回ります」
「え、もうそんな時間?」

 竹橋のマンションに帰らなければならないホクトは、名残惜しそうに敬一クンの顔を見る。

「さっさと帰れ」
「おまえに言われるまでもない」

 こんなところでまでバリバリの空気を出して欲しくないが、彼らにとっては俺の肝が縮み上がっていることよりも、自分の恋路のほうが優先だろう。

「じゃあ、明日改めて対策みーちんぐを開こうぜ。集合は午後七時。ハルカとミツルも来るように」
「わっかりました!」
「了解しました」

 二人は返事をすると、それぞれの部屋に戻っていった。

「じゃあ、ケイ。また明日」
「おまえが来る必要ねぇだろう」

 ホクトをしっしっと追い払いながら、エビセンも「じゃあな、中師」と言って、自分の部屋に戻っていく。

「うーん」
「どうしました、兄さん?」
「いや、ビルを守るんじゃから、これって自警団じゃろ? やっぱり団結を深めるためには、名前をつけんとなぁ」
「名前、ですか?」
「うむ……そーだな、キングオブロックンロール神楽坂自警団! とかだな」
「ええ〜」

 思わず声を出した俺に、シノさんがギロッと睨んでくる。

「もっと短いほうが、覚えやすいんじゃない?」
「そんなんKoR自警団に決まっとろう」
「さいですか……」
「ところでレン、おまえ部屋帰れるのか?」
「か……帰れますよ!」

 ニヒヒと笑ったらシノさんは、俺の背中をバンッと叩く。

「別に、ウチのソファ貸してやってもえーんだぞ?」
「ダイジョーブだよ!」

 俺は、まだちょっと膝が笑っていたが、見栄を張って部屋に戻った。


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 あれ以来ホクトは、毎日店に来ている。
 ミナミのマンションも見に|行《い》ってるようだが、それは最初にチョイと立ち寄ってくるだけで、あとはずぅ〜と店にいて、カフェが忙しい時はチャチャっと如才なく手伝ってくれたりするが、暇だと例の調子でシノさんとお喋りしてるし、敬一クンがいればもう、ずぅ〜と取っ付いている。
「経営の細部を確認しておかないと、伯母に報告できませんから」
 とか、口では言ってるが、それはどう見ても取ってつけたタテマエで、経理担当の敬一クンに会いに来てるだけにしか見えない。
「毎日、毎日、うざってぇな!」
 とはエビセンの言だ。
 もっともこれは当然至極で、敬一クンを巡ってエビセンとホクトは恋のライヴァルなのである。
 だからホクトも負けじ劣らず。
「用事があって来ているんだ!」
 となって、そうなるともうバリバリな空気になるから、俺は一緒にいるだけでヘトヘトになる。
 だがシノさんはホクトとエビセンの両方と仲良くしてるし、両方が同時に居る時は更に楽しそうにしてるし、敬一クンは周囲がどんな空気になってても、それに全く気付かないようだ。
 そんなこんなで俺もすっかり忘れかけていたのだが。
 ホクトとエビセンがブッキングして、そのまま皆でシノさん宅で夕飯を食べたので、すっかり疲れた俺は自分の部屋へ戻ることにした。
 シノさんと敬一クンだけなら片付けまで手伝うケド、ホクトもエビセンも元々高スキルな上にライバル心で牽制し合ってて、俺が出来るような作業なんかさっさと片付いてしまうから、俺が抜けても平気だろう。
 そう思ってペントハウスを出たら、エレベーターのボックスが五階に無かった。
 俺の部屋は、ペントハウスの直ぐ下──四階にある。
 メゾンは、ここらのマンションによくあるフロアごとに入居戸数が変わるタイプの集合住宅だ。
 メゾンは三階は3LDKで|三戸《さんこ》、四階は5LDKで|二戸《にこ》。
 俺は敬一クンから "シノさんのお世話係" を任命されたので、特権として広い方の四階の|B室《ビーしつ》に入居させてもらった。
 あとになって、店から部屋に戻るときに、四階は失敗だった……とは思ったけども。
 というのも、このビルに付いているエレベーターは、なかなかの難物だからである。
 先日コグマも言っていたが、超が付くほど骨董品で、扉はなんと手動なのだ。
 シノさんは、リフォーム時に最新のものと取り替えようとしたが、業者のヒトに「無理」と断られたらしい。
 外枠と昇降ボックス本体は、どちらもアールデコっぽい鋼鉄製で、中身は丸見えだし、スマホの電波も楽々届く。
 一見するとおしゃれモダンだが、敬一クンがメンテナンスをちゃんとしてくれるようになる以前は、ボタンを押して即座に動くことのほうが稀だった。
 階段を下り始めた時から奇妙な違和感を覚えていた。
「……変……だな?」
 五階と四階の途中にある踊り場に行き着く|前《まえ》に、なんだか、奇妙な白っぽい影が、目の端に映ったような気が……して……。
 しかしきちんと目線をやっても、そちらにはなにもいない。
 エレベーターがシースルー構造なので、そこにボックスがなければ吹き抜けの螺旋階段とほぼ大差ない形になる。
 そこで改めて四階の階段や廊下を見直そうとして、俺はボックスが四階に止まっていることに気が付いた。
 最初に感じた違和感は、五階のホールから見た時に、エレベーターシャフトの中にボックスの天井が見えていたから感じたものだったのだ。
 四階は俺以外に乗降する人間はいないはずなのに、俺が五階で飯を食っている間にエレベーターが四階で止まっているなんて、アリエナイ。
 それら諸々の考えがバーッと脳裏をよぎり、半ばパニックを起こしたところでトドメにコグマの話を思い出し、俺は思いっ切り「ぎゃーーーーーーーー!!」と叫んでしまった。
§
「なんじゃあ、どうしたぁ?」
 ペントハウスから、シノさんと敬一クン、それにホクトとエビセンが出てきた。
「どうしたんすかぁ?」
 三階の住人である、ハルカとミツルもやってきた。
「幽霊が出た!」
 俺の叫びに、エビセンは吹いた。
 ハルカとミツルは、幽霊の話そのものを知らないので、きょとんとしている。
「あったく、しょーがねぇなぁ」
 シノさんが手を貸してくれたので、俺はようやく立ち上がった。
「ケイちゃん、今何時?」
「そろそろ10時回ります」
「え、もうそんな時間?」
 竹橋のマンションに帰らなければならないホクトは、名残惜しそうに敬一クンの顔を見る。
「さっさと帰れ」
「おまえに言われるまでもない」
 こんなところでまでバリバリの空気を出して欲しくないが、彼らにとっては俺の肝が縮み上がっていることよりも、自分の恋路のほうが優先だろう。
「じゃあ、明日改めて対策みーちんぐを開こうぜ。集合は午後七時。ハルカとミツルも来るように」
「わっかりました!」
「了解しました」
 二人は返事をすると、それぞれの部屋に戻っていった。
「じゃあ、ケイ。また明日」
「おまえが来る必要ねぇだろう」
 ホクトをしっしっと追い払いながら、エビセンも「じゃあな、中師」と言って、自分の部屋に戻っていく。
「うーん」
「どうしました、兄さん?」
「いや、ビルを守るんじゃから、これって自警団じゃろ? やっぱり団結を深めるためには、名前をつけんとなぁ」
「名前、ですか?」
「うむ……そーだな、キングオブロックンロール神楽坂自警団! とかだな」
「ええ〜」
 思わず声を出した俺に、シノさんがギロッと睨んでくる。
「もっと短いほうが、覚えやすいんじゃない?」
「そんなんKoR自警団に決まっとろう」
「さいですか……」
「ところでレン、おまえ部屋帰れるのか?」
「か……帰れますよ!」
 ニヒヒと笑ったらシノさんは、俺の背中をバンッと叩く。
「別に、ウチのソファ貸してやってもえーんだぞ?」
「ダイジョーブだよ!」
 俺は、まだちょっと膝が笑っていたが、見栄を張って部屋に戻った。