「おいナオ、テレビのリモコンどこやったんだよ」
タクマの言葉に恋人はおっとりと答えた。
「俺? 今日テレビ見てないし知らないよ」
「嘘つけ! この部屋にいるの俺とお前だけじゃん。俺は今日まだ触ってないんだ。消去法でお前しかいねえだろ!」
「なに探偵気取りの台詞はいてんの!? 俺だってほんとに触ってないもん!」
とにかくどうしてもリモコンはいるのだ。二人はとりあえず休戦して部屋の中を探し始める。
テーブルの上の新聞や雑誌の下からソファの隙間、床に敷いたラグまでめくってみた。
二人はまるで刑事ドラマの捜索シーンさながらに家中をひっくり返してリモコンを探す。
「ない……。なんでだよ、この部屋にはブラックホールでもあんのか!?」
「いつからこの部屋宇宙になったんだよ。……タクマ、ほんとに家の中にある? 外に持ってったんじゃないの?」
「リモコン散歩に連れ出すやついるか! テレビはここにしかないんだからこの部屋以外には持ってかねえんだよ!」
「散歩ってのがもう変だよ。だいたいさあ、なくしたとしたら絶対お前に決まってるだろ。だってお前の部屋だしお前のリモコンだもん!」
そう言いつつもタクマは少し心配になって一応バッグの中も探してみたがやはりなかった。ゴミ箱の中まで覗き込みんだがもちろん見当たらない。
カーテンを開けた時点で「いやいや、なんで外なんだよ」と、脳内にセルフツッコミが入ってしまう。
捜索にも疲れ果てた頃、ナオが「もう喉乾いた!」とキッチンへ向かった。
彼は無造作に冷蔵庫を開けたかと思うと、そのままなぜか硬直している。
「おい、何開けっ放しにしてん──」
慌てて駆けつけたタクマも冷蔵庫の中の光景に絶句する。
そこには冷やし中華の横に、なぜか鎮座するリモコン。
「……」
「……」
沈黙ののち、ナオが妙に爽やかに言った。
「な~んだ、タクマって結構ドジなんだな。冷蔵庫だよ? 何があったらリモコンをここに入れるの?」
「俺じゃねぇよ! ……ってかお前、さっきまで犯人扱いされてブチ切れてたのに、急に余裕ぶるなよ!」
「だって俺、こんなことしないもん。リモコン持って歩くことないしさ。だからこれはお前がやったんだよ」
俺じゃねえ! と返したかったが、冷静に考えてみればタクマはリモコンを持ったあとでなにか思いついて、そのまま部屋を歩くことはよくあるのだ。
──マジ俺かもしれねえ……。あれだけ「お前だろ!」って喚いときながら大恥じゃねえかよ。
それでも素直に謝れないのが自分の欠点だとタクマも理解はしているのだ。
「ま、いいじゃん。なんかもうこれから作るの面倒だし、ラーメンでも食べに行かない?」
やけにのんびりした彼の声。
ここで「やっぱりお前じゃんか! 人のせいにすんなよ!」などと蒸し返して追い討ちをかけないのがナオの良いところなのかもしれない。
──だから俺は、この子どもっぽいところもある男となんだかんだ長いこと付き合ってるんだ……。
「そ、そうだな。腹減ったしラーメンもいいな……」
都合よく差し出された提案に乗ろうとしたタクマに、何気ない調子のナオの言葉が掛かった。
「あ、リモコン冷蔵庫から出した?」
「は、はあ? 出したに決まってんじゃん! 俺を何だと思ってんだよ」
あまりのショックにそのまま扉を締めたのを思い出す。しかし良くもここまでスラスラと出任せが、と自分に引くほどだ。
帰ったらまっ先にナオにバレないうちに出さないと、と表面上は笑顔を作って答える。
こうしてとりあえず「リモコン消失事件」は幕を閉じた。
しかしこの二人なら、おそらくはまた近いうちに似たようなことが起こるのは間違いないだろう。
~END~