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第三十七幕

ー/ー



「何? 手短にお願い」


「あら、そう? では、手短に。コレ、リアナ皇女の部屋に隠してあったのですが分かりますか?」


 ビアンカは、一冊の本を堂々と胸元に掲げた。その本は姫にとってあまりにも身に覚えがあるモノだった。その場にいる者達の視線が一点に集中する。


「それが、どうかしたの?」


「もーー。分かるかを聞いてるんですよ? こんな気味の悪い本をワザワザ暖炉に隠すなんて…………」


「読んだの………… ビアンカ…………」


 姫は、ビアンカの眼をじっと見つめた。心臓の鼓動を抑えるべく呼吸を整える。


「もちろんよ。今から、この本について皇帝陛下にお伝えしようと思って持ち出したんですけどね…………」


 ビアンカは、そう言うと物珍しそうに本を見つめた。司書が覗き込むように本を眺めると、段々と顔色を悪くする。


「やっぱり、報告するのは辞めておきます。こんな本を第一皇女が読んでいると知ったら皇帝陛下がどう思われることやら。今回だけは、見なかったことにしてあげますから、ご自分でその本を返してきて下さい。……では、私はミーシャ姫のお部屋掃除がありますのでこの辺で、ご機嫌よう」


 ビアンカは、持っていた本を姫に手渡すと満面の笑みを浮かべご令嬢に向け手を振るようにして、その場を後にした。私には、しないのね。


「お姉様、その本は…………?」


「ああ、これね。昨日、アロッサに頼んで持ってきてもらった本よ。少し気になったから後で読もうと思って一冊だけ取っておいたのよ」


 そう、万が一。万が一の保険…………


「リアナ皇女! そ、そんな汚らわしい本を持つでない! 目が腐ってしまう………… ヒッ! お主か、こんな本をリアナ皇女に薦めたのわ! 言っておくが、金輪際お主の図書館への入室は認めんからな!」


 司書は、その大層な物言いとは裏腹に護衛の影からヤジを飛ばした。


「すみません、すみません。本当に申し訳ありませんでした」


 アロッサは、そう言うと必要以上に頭を下げて謝罪を試みた。万が一、お父様が私の部屋に強行突破してきた場合に備えて暖炉の本をすり替えておいた。


 あとは、オルディボが私の指示した通りに動いてさえいれば今頃、例の本は他の本と一緒に…………


 姫は、護衛から預かった鍵束をじっと見つめた。


「ねぇ、オルディボ。これ、図書館の鍵と………… あと二つは何の鍵?」


「そうですね。一つは、地下室の鍵でしょう。残り一つは………… さあ。私にも何か分かりません。直接、皇帝陛下に聞かれてはいかがでしょう」


 男は、僅かに考える素振りは見せたものの、軽く話を逸らした。


「さあさあ、お姉様! 早く、お部屋に案内して下さいよ! 時間が勿体無いじゃないですかっ!」


「っ!? リアナ様。ミーシャ様を、ご自身のお部屋に招かれるのですか?」


「そうよ。あまり気は乗らないけどね。それにミーシャを適当な部屋に置いておけないものね。ミリア。ミーシャを部屋に案内したら、ついでに算術の勉強も見てあげて。この男より、よっぽど信頼できる」


 姫は、そう言うとワザとらしく中将の様子を伺う。中将は、聞こえていなかったのか視線を外に漏らした。


「承知いたしました。では、ミーシャ様。これよりリアナ様の寝室へ案内致します。私に着いて来てください。アロッサ、先に行って部屋を片付けて来なさい! ビアンカのことです。何かと散らかっているはずですから」


 それを聞くや否や、一つ猛ダッシュを決め込むアロッサ。それを他所に優雅に歩みを進めるミリア。その後をご令嬢は満足気に着いて行った。


 流石に、この状況でレナードが動き出すことは出来ないと思う。後私がやるべきは、この隙を使って何としてでも、あの本を回収すること。そして、誰にも見つかること無く元の部屋に戻す。


 あの本が、お父様の手元に戻らない限り、この厳重態勢が解けることは無いと思う。そうなれば、私の行動は制限されやがて計画通りに、始末される…………


「なあ、リアナ皇女? こう言ってはなんだが、一つ頼みがあってな。今日だけ、その鍵を貸してはくれんかな? いきなり追い出されたもので、本の返却作業が終わっとらんのだよ。頼めんものか?」


「あら、別に私は構わないわよ? それに奇遇ね。私も今ちょうど図書館に用があったのよ。コレ、返したくてね。お願い出来るかしら?」


 姫は、高らかに本を見せつけると、不敵な笑みを浮かべた。二度だけ。過去に二度だけ、図書館が閉鎖された事がある。そのどちらの時も、必ず一人の兵士が扉の前で待機していた。図書館に入ろうとする者の行動を監視するためだ。もし、図書館内で本来の目的に反する行動をとれば、お父様に報告するよう指示されているはず。


 ただ、今日の私はついてる。監視、報告ならオルディボにも同様の役目が可能になってる。つまり、融通の効かない一般兵の代わりにオルディボを付けられる。後は、この男をどう巻くかだけど…………


「姫様。ララサに鍵を貸すのは構いませんが用が済んだのちには必ず返すよう催促して下さい。この女は、簡単に約束を破りますかなね」


「失敬なッ! オルディボ殿。私が、一度でも約束を破った事があると?」


「早朝に頼んだ本の返却は済んだのか?」


「"キキィィッッッッーーーー"」


 司書は、顔を真っ赤に甲高い声を漏らした。


「ねぇ。分かったから早く行くわよオルディボ。ミーシャの勉強が終わる前に様子も見に戻りたいからね…………」


「なりませんッ!」


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「何? 手短にお願い」
「あら、そう? では、手短に。コレ、リアナ皇女の部屋に隠してあったのですが分かりますか?」
 ビアンカは、一冊の本を堂々と胸元に掲げた。その本は姫にとってあまりにも身に覚えがあるモノだった。その場にいる者達の視線が一点に集中する。
「それが、どうかしたの?」
「もーー。分かるかを聞いてるんですよ? こんな気味の悪い本をワザワザ暖炉に隠すなんて…………」
「読んだの………… ビアンカ…………」
 姫は、ビアンカの眼をじっと見つめた。心臓の鼓動を抑えるべく呼吸を整える。
「もちろんよ。今から、この本について皇帝陛下にお伝えしようと思って持ち出したんですけどね…………」
 ビアンカは、そう言うと物珍しそうに本を見つめた。司書が覗き込むように本を眺めると、段々と顔色を悪くする。
「やっぱり、報告するのは辞めておきます。こんな本を第一皇女が読んでいると知ったら皇帝陛下がどう思われることやら。今回だけは、見なかったことにしてあげますから、ご自分でその本を返してきて下さい。……では、私はミーシャ姫のお部屋掃除がありますのでこの辺で、ご機嫌よう」
 ビアンカは、持っていた本を姫に手渡すと満面の笑みを浮かべご令嬢に向け手を振るようにして、その場を後にした。私には、しないのね。
「お姉様、その本は…………?」
「ああ、これね。昨日、アロッサに頼んで持ってきてもらった本よ。少し気になったから後で読もうと思って一冊だけ取っておいたのよ」
 そう、万が一。万が一の保険…………
「リアナ皇女! そ、そんな汚らわしい本を持つでない! 目が腐ってしまう………… ヒッ! お主か、こんな本をリアナ皇女に薦めたのわ! 言っておくが、金輪際お主の図書館への入室は認めんからな!」
 司書は、その大層な物言いとは裏腹に護衛の影からヤジを飛ばした。
「すみません、すみません。本当に申し訳ありませんでした」
 アロッサは、そう言うと必要以上に頭を下げて謝罪を試みた。万が一、お父様が私の部屋に強行突破してきた場合に備えて暖炉の本をすり替えておいた。
 あとは、オルディボが私の指示した通りに動いてさえいれば今頃、例の本は他の本と一緒に…………
 姫は、護衛から預かった鍵束をじっと見つめた。
「ねぇ、オルディボ。これ、図書館の鍵と………… あと二つは何の鍵?」
「そうですね。一つは、地下室の鍵でしょう。残り一つは………… さあ。私にも何か分かりません。直接、皇帝陛下に聞かれてはいかがでしょう」
 男は、僅かに考える素振りは見せたものの、軽く話を逸らした。
「さあさあ、お姉様! 早く、お部屋に案内して下さいよ! 時間が勿体無いじゃないですかっ!」
「っ!? リアナ様。ミーシャ様を、ご自身のお部屋に招かれるのですか?」
「そうよ。あまり気は乗らないけどね。それにミーシャを適当な部屋に置いておけないものね。ミリア。ミーシャを部屋に案内したら、ついでに算術の勉強も見てあげて。この男より、よっぽど信頼できる」
 姫は、そう言うとワザとらしく中将の様子を伺う。中将は、聞こえていなかったのか視線を外に漏らした。
「承知いたしました。では、ミーシャ様。これよりリアナ様の寝室へ案内致します。私に着いて来てください。アロッサ、先に行って部屋を片付けて来なさい! ビアンカのことです。何かと散らかっているはずですから」
 それを聞くや否や、一つ猛ダッシュを決め込むアロッサ。それを他所に優雅に歩みを進めるミリア。その後をご令嬢は満足気に着いて行った。
 流石に、この状況でレナードが動き出すことは出来ないと思う。後私がやるべきは、この隙を使って何としてでも、あの本を回収すること。そして、誰にも見つかること無く元の部屋に戻す。
 あの本が、お父様の手元に戻らない限り、この厳重態勢が解けることは無いと思う。そうなれば、私の行動は制限されやがて計画通りに、始末される…………
「なあ、リアナ皇女? こう言ってはなんだが、一つ頼みがあってな。今日だけ、その鍵を貸してはくれんかな? いきなり追い出されたもので、本の返却作業が終わっとらんのだよ。頼めんものか?」
「あら、別に私は構わないわよ? それに奇遇ね。私も今ちょうど図書館に用があったのよ。コレ、返したくてね。お願い出来るかしら?」
 姫は、高らかに本を見せつけると、不敵な笑みを浮かべた。二度だけ。過去に二度だけ、図書館が閉鎖された事がある。そのどちらの時も、必ず一人の兵士が扉の前で待機していた。図書館に入ろうとする者の行動を監視するためだ。もし、図書館内で本来の目的に反する行動をとれば、お父様に報告するよう指示されているはず。
 ただ、今日の私はついてる。監視、報告ならオルディボにも同様の役目が可能になってる。つまり、融通の効かない一般兵の代わりにオルディボを付けられる。後は、この男をどう巻くかだけど…………
「姫様。ララサに鍵を貸すのは構いませんが用が済んだのちには必ず返すよう催促して下さい。この女は、簡単に約束を破りますかなね」
「失敬なッ! オルディボ殿。私が、一度でも約束を破った事があると?」
「早朝に頼んだ本の返却は済んだのか?」
「"キキィィッッッッーーーー"」
 司書は、顔を真っ赤に甲高い声を漏らした。
「ねぇ。分かったから早く行くわよオルディボ。ミーシャの勉強が終わる前に様子も見に戻りたいからね…………」
「なりませんッ!」