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第三十六幕

ー/ー



「それじゃ読むわよ? いい?」


 姫は、半信半疑ながらも、手渡された聖書の朗読を始める。読んでみると、それは以外に読みやすく、臣民達に愛されているだけはあるなと感心した。


 ただ、そろそろ何か手を打っておかないと…… 礼拝が終わればミーシャの安全を確保出来ない。どうにか、一緒にいられる口実を…… 姫は無意識にもまゆをひそめる。


「読んでおられる…………」


 ん? 隣から、そんな囁き声と共に熱い視線を感じた。


「読んでおられる………… リアナ皇女が読んでおられるぞ…………」


 司書は、見れば分かることを何故か不思議そうに連呼した。


「オ、オ、オルディボ殿ッ! リアナ皇女が本を読んでおられッ…………」


「"黙れ"」


 男は、牧師を代理しているとは思えない程の暴言を吐いた。


「し、しかし、オルディボ殿これは………… はっ! まさか、これが………… 神のご加護というやつか!」


 男は静かに、まぶたを閉じると優しく諭した。


「…………そうだ」


 
 ——
「では、これで終わります。皆様、お疲れ様でした」


 男は、そう言うと着ていたスーツを脱ぎシスターに受け渡す。随分と長くかかったものだ。多分、一時間くらいはやってたんじゃないかと思う。


「姫様。このあとはどうされますか? 散歩にはまだ早いようにも思えますが」


「そうね…………」


 さて、ミーシャがどう動くかだけど……


「さて、ミーシャ様。次は算術のお時間です。向かいましょう」


「そう言えば、そうでしたね! では、お姉様また後ほど」


 ご令嬢が、側にまできたのを確認すると、中将は大門のドアノブに手をかけた。


「待ちなさい!」


 突如、姫が声を上げる。


「どこに行くつもり? 下の階なら今はちょうど清掃作業をしている時間帯よ。皇族の寝室ともなれば時間は、それなりにかかる。図書館も開いてないわよ」


「問題ありません。空き部屋が一つありますので、そこを使用させていただきます」


「そう。でも、この宮廷に今現在家庭教師はいないはずですよ? まさか、貴方が教えるんじゃないでしょうね?」


 姫の一言に、中将は手を止めると眉をひそめる。


「失礼。お言葉ですが、戦うだけが国軍の役目ではありません。兵士とて一定の教養は備わっております。それも、将校ともなれば貴族同等、いやそれ以上の練度が求められる。何も、問題ないかと」


 中将は、帽子のツバを掴むと、僅かに見下す素振りを見せた。


「言うじゃない。そんなに自信があるなら私の部屋を使ってかまわないわよ。他の部屋に比べても綺麗なはずだしミーシャも落ち着けるでしょ? それに、算術ならミリアにだって出来るわ。貴方は護衛に集中すれば良いだけ」 


「申し訳ありませんが、すでに……」


「エッ! 本当に良いのですか? 一度お姉様の部屋に入ってみたかったんですよ。さあ、早く行きますよレナード!」


 ご令嬢は、想像以上の反応を見せた。その態度に、戸惑いを見せる中将。今まで一度としてミーシャを部屋に入れてなくて本当に良かった。ミーシャを私の部屋に入れるのは少し癪に触るけど、今はこれが最善の策だと思う。


「しかし、ミーシャ様。すでに準備が…………」


「"ハァ?" 何か問題でもあるの?」


 ご令嬢は、先程とは打って変わり態度を一変させた。


「…………いえ。では、リアナ皇女の部屋をお借りしましょう」


 中将は、こちらに背を向けるとワザとらしくため息を吐いた。


「あれ? なぜ私の名前が出てこないのだ? 算術なら誰よりも私の方が出来ると思うのだがな?」


「ああ、そうだった。ララサ、一つ朗報があるぞ」


 護衛の男は、そう言うと徐にポケットに手を入れると鍵束を取り出した。よく見れば、それには三つの鍵が付いている。


「先程、皇帝陛下から預かったんだがな、この中の一つにお前も見覚えのある鍵があってな…………」


 男は、見せびらかすかのように一つの鍵を掲げる。


「な、なぜ貴殿が図書館の鍵を持っているのだ…… よこせッ!」


「残念。これは皇帝陛下が姫様に渡すようにと預かったものだ。使いたければ姫様に頼むんだな」


 男は、そう言うと姫に鍵束を手渡す。図書館の鍵…………


「行きましょう」


 中将は、おもむろに大門を開く。


「あら、リアナ皇女? まさか、本当にここにいるとは………… それに、ミーシャ姫もご一緒とは珍しいこともあったものね」


 戸が開くと、メイド服の女が尽かさず口を開く。
「ビアンカ…………」


「あっ、ビアンカさん! おはようございます。どうかされましたか?」


「まぁ、ミーシャ姫は今日も変わらず、お美しい。ただ少し、リアナ皇女に用がありましてね。少し良いですかリアナ皇女?」


 ビアンカは、何故か僅かに笑みを浮かべた。


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「それじゃ読むわよ? いい?」
 姫は、半信半疑ながらも、手渡された聖書の朗読を始める。読んでみると、それは以外に読みやすく、臣民達に愛されているだけはあるなと感心した。
 ただ、そろそろ何か手を打っておかないと…… 礼拝が終わればミーシャの安全を確保出来ない。どうにか、一緒にいられる口実を…… 姫は無意識にもまゆをひそめる。
「読んでおられる…………」
 ん? 隣から、そんな囁き声と共に熱い視線を感じた。
「読んでおられる………… リアナ皇女が読んでおられるぞ…………」
 司書は、見れば分かることを何故か不思議そうに連呼した。
「オ、オ、オルディボ殿ッ! リアナ皇女が本を読んでおられッ…………」
「"黙れ"」
 男は、牧師を代理しているとは思えない程の暴言を吐いた。
「し、しかし、オルディボ殿これは………… はっ! まさか、これが………… 神のご加護というやつか!」
 男は静かに、まぶたを閉じると優しく諭した。
「…………そうだ」
 ——
「では、これで終わります。皆様、お疲れ様でした」
 男は、そう言うと着ていたスーツを脱ぎシスターに受け渡す。随分と長くかかったものだ。多分、一時間くらいはやってたんじゃないかと思う。
「姫様。このあとはどうされますか? 散歩にはまだ早いようにも思えますが」
「そうね…………」
 さて、ミーシャがどう動くかだけど……
「さて、ミーシャ様。次は算術のお時間です。向かいましょう」
「そう言えば、そうでしたね! では、お姉様また後ほど」
 ご令嬢が、側にまできたのを確認すると、中将は大門のドアノブに手をかけた。
「待ちなさい!」
 突如、姫が声を上げる。
「どこに行くつもり? 下の階なら今はちょうど清掃作業をしている時間帯よ。皇族の寝室ともなれば時間は、それなりにかかる。図書館も開いてないわよ」
「問題ありません。空き部屋が一つありますので、そこを使用させていただきます」
「そう。でも、この宮廷に今現在家庭教師はいないはずですよ? まさか、貴方が教えるんじゃないでしょうね?」
 姫の一言に、中将は手を止めると眉をひそめる。
「失礼。お言葉ですが、戦うだけが国軍の役目ではありません。兵士とて一定の教養は備わっております。それも、将校ともなれば貴族同等、いやそれ以上の練度が求められる。何も、問題ないかと」
 中将は、帽子のツバを掴むと、僅かに見下す素振りを見せた。
「言うじゃない。そんなに自信があるなら私の部屋を使ってかまわないわよ。他の部屋に比べても綺麗なはずだしミーシャも落ち着けるでしょ? それに、算術ならミリアにだって出来るわ。貴方は護衛に集中すれば良いだけ」 
「申し訳ありませんが、すでに……」
「エッ! 本当に良いのですか? 一度お姉様の部屋に入ってみたかったんですよ。さあ、早く行きますよレナード!」
 ご令嬢は、想像以上の反応を見せた。その態度に、戸惑いを見せる中将。今まで一度としてミーシャを部屋に入れてなくて本当に良かった。ミーシャを私の部屋に入れるのは少し癪に触るけど、今はこれが最善の策だと思う。
「しかし、ミーシャ様。すでに準備が…………」
「"ハァ?" 何か問題でもあるの?」
 ご令嬢は、先程とは打って変わり態度を一変させた。
「…………いえ。では、リアナ皇女の部屋をお借りしましょう」
 中将は、こちらに背を向けるとワザとらしくため息を吐いた。
「あれ? なぜ私の名前が出てこないのだ? 算術なら誰よりも私の方が出来ると思うのだがな?」
「ああ、そうだった。ララサ、一つ朗報があるぞ」
 護衛の男は、そう言うと徐にポケットに手を入れると鍵束を取り出した。よく見れば、それには三つの鍵が付いている。
「先程、皇帝陛下から預かったんだがな、この中の一つにお前も見覚えのある鍵があってな…………」
 男は、見せびらかすかのように一つの鍵を掲げる。
「な、なぜ貴殿が図書館の鍵を持っているのだ…… よこせッ!」
「残念。これは皇帝陛下が姫様に渡すようにと預かったものだ。使いたければ姫様に頼むんだな」
 男は、そう言うと姫に鍵束を手渡す。図書館の鍵…………
「行きましょう」
 中将は、おもむろに大門を開く。
「あら、リアナ皇女? まさか、本当にここにいるとは………… それに、ミーシャ姫もご一緒とは珍しいこともあったものね」
 戸が開くと、メイド服の女が尽かさず口を開く。
「ビアンカ…………」
「あっ、ビアンカさん! おはようございます。どうかされましたか?」
「まぁ、ミーシャ姫は今日も変わらず、お美しい。ただ少し、リアナ皇女に用がありましてね。少し良いですかリアナ皇女?」
 ビアンカは、何故か僅かに笑みを浮かべた。