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第二十四幕

ー/ー



「アレ…… ちょっと、意味わからないんだけど。なんで、窓に鍵なんて掛かってるのよ! 勝手に閉めて良いなんて言ってないはずよ。誰が……」


 ビアンカ…… 姫の脳裏に最悪の文字が過る。全ての窓を当たる姫。当然のように行手を塞ぐ透明の壁。姫の額に一滴の雫が走る。


 だから…… だから…… だから…… 何で、いつもいつもいつもいつもいつも……


「"邪魔しないでよッ!!"」


 机に備え付けられた椅子を軽々と持ち上げる。勢いのままに体が動く。


「姫様!? どうされましたか? 何か問題でも……」


 扉越しに聞こえる緊迫感のある肉声。鳴り響く扉を叩く音。その声に姫の動きが止まる。持ち上げた椅子をゆっくりと地に付ける。


 皇室典範第四十三条、緊急時を除き、皇族以外の者が許可なく皇族の寝室へ出入りすることを禁ずる…… ハァ…… 部屋の窓が割れたら流石にオルディボも走って来るわよね。


「大丈夫…… ちょっと気が立ってただけだから。大丈夫だから……」


「そうですか……      ああ…… 今日はもう駄目か……」


 男は聞こえてないとでも思ったのか、最後に本音を吐いた。多分、ワザとだと思う。


 姫は途端と冷静になる。ベッドに腰掛け、一冊の本を手に取る。マジマジと表紙を眺める姫。ふと、一つの考えが脳裏を過る。単純明白、この問題を解決する策。なんで私…… 隠すことばかり考えてたんだろ。わざわざ隠さなくても……


 姫の視線が、部屋の一角に佇む暖炉に向く。


「ごめんなさい、お父様…… でも、リアナは怖いです。だから…… そもそも、こんな本は最初から無かったことに……」


 姫は暖炉に詰め寄ると中の様子を伺う。現在、季節は初夏。当然、こんな時期に暖炉が使われているはずもない。あるのは、無造作に置かれた木材のみ。姫は頭を抱えた。


「これ、どうやって点けるの? まさか、自分で火を起こせってこと? 嘘でしょ? 皆んな、あんな簡単に点けてたじゃない。ライターの一つくらい、何処かに置いてあったり…… ああーーもーー! オルディッ……」


 途端に声が詰まる。馬鹿じゃないの私…… 姫は溜息の一つ付くと、本の表紙を捲る。いっそ、何の本か分からないくらいにビリビリに引き裂いて。後からまとめて暖炉にでも捨てれば…… 本の一頁をぐしゃりと握る。固唾を呑み、覚悟を決める。


「コレ……」


 一瞬、姫の手が止まった。


「六月二十六日、宮殿内にて、昼を告げる鐘の音と共に帝国陸軍隊員の暗殺を決行。作戦の遂行は秘密警察に委ねる。昼過ぎには、レナード中将の死体を確認。自殺と断定……」


 姫は、そっと本を閉じた。何、今の…… 暗殺? 秘密警察? いや、それより六月二十六日って今日じゃ…… どうしよう。どうしよう。どうしよう……って、どうしたいの私は? 別に兵士の一人が死のうと私には何も関係ないし、それほど珍しいことじゃない…… 私が悩むことじゃい。なのに…… 


 いや、そもそも……


 
「本当に死ぬの?」


 
 直近に見た、中将の顔が頭に浮かぶ。そうだ…… 姫は再び本を開くと、前後のつながりに目をやる。やっぱり……


「六月二十六日、早朝。隣国ルーベルム王国との領土問題解消のために最後の外交を行う。よって、宮殿内のあらゆる権限をイザベラに委ね、私は宮殿を後に……」


 そうだ…… 本来なら、今日お父様は宮殿には居ないはず。とっくに宮殿を離れていないとおかしい。なら、どうして…… 予定を変更したの? 違う。そうじゃない。予定が狂ったんだ。何で…… 姫は手に持った本をじっと見つめた。


「ハァ…… どうしたもんかな……」


 男が壁にもたれ弱音を吐いていると、静かに部屋の扉が開いた。


「ねぇ。ちょっと良い?」


 半開きの扉から僅かに顔を覗かせる姫。少し照れくさそうに話す。


「姫様…… ああ…… 良かった! もう、このまま出てこなかったらどうしようかと思いましたよ。さあ、教皇聖下が帰られる前に早く……」


「今何時……」


「えっ…… 別に時間は関係ないんですが……」


「だから、今何時か聞いてるんだけど。分かんないの?」


 護衛の男は、徐に懐から懐中時計を取り出す。


「十一時五十五分ですね。もうそろそろ昼の鐘が鳴る時間です。それがどうかしましたか?」


 後五分…… 姫は部屋の扉を開けると、何も言わぬまま一人足早に歩き始めた。男は、必死にその後を追う。


「姫様? 玄関でしたら、こちらの階段からの方が早いですよ? 姫様?」


 まるで何かにでも取り憑かれたかのように無心に足を動かす。そして、姫は足を止めた。


「……リアナ皇女?」


 一人の兵士が問う。しかし、姫は一言も声を発することなく、困惑する兵士の瞳をじっと見つめた。


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「アレ…… ちょっと、意味わからないんだけど。なんで、窓に鍵なんて掛かってるのよ! 勝手に閉めて良いなんて言ってないはずよ。誰が……」
 ビアンカ…… 姫の脳裏に最悪の文字が過る。全ての窓を当たる姫。当然のように行手を塞ぐ透明の壁。姫の額に一滴の雫が走る。
 だから…… だから…… だから…… 何で、いつもいつもいつもいつもいつも……
「"邪魔しないでよッ!!"」
 机に備え付けられた椅子を軽々と持ち上げる。勢いのままに体が動く。
「姫様!? どうされましたか? 何か問題でも……」
 扉越しに聞こえる緊迫感のある肉声。鳴り響く扉を叩く音。その声に姫の動きが止まる。持ち上げた椅子をゆっくりと地に付ける。
 皇室典範第四十三条、緊急時を除き、皇族以外の者が許可なく皇族の寝室へ出入りすることを禁ずる…… ハァ…… 部屋の窓が割れたら流石にオルディボも走って来るわよね。
「大丈夫…… ちょっと気が立ってただけだから。大丈夫だから……」
「そうですか……      ああ…… 今日はもう駄目か……」
 男は聞こえてないとでも思ったのか、最後に本音を吐いた。多分、ワザとだと思う。
 姫は途端と冷静になる。ベッドに腰掛け、一冊の本を手に取る。マジマジと表紙を眺める姫。ふと、一つの考えが脳裏を過る。単純明白、この問題を解決する策。なんで私…… 隠すことばかり考えてたんだろ。わざわざ隠さなくても……
 姫の視線が、部屋の一角に佇む暖炉に向く。
「ごめんなさい、お父様…… でも、リアナは怖いです。だから…… そもそも、こんな本は最初から無かったことに……」
 姫は暖炉に詰め寄ると中の様子を伺う。現在、季節は初夏。当然、こんな時期に暖炉が使われているはずもない。あるのは、無造作に置かれた木材のみ。姫は頭を抱えた。
「これ、どうやって点けるの? まさか、自分で火を起こせってこと? 嘘でしょ? 皆んな、あんな簡単に点けてたじゃない。ライターの一つくらい、何処かに置いてあったり…… ああーーもーー! オルディッ……」
 途端に声が詰まる。馬鹿じゃないの私…… 姫は溜息の一つ付くと、本の表紙を捲る。いっそ、何の本か分からないくらいにビリビリに引き裂いて。後からまとめて暖炉にでも捨てれば…… 本の一頁をぐしゃりと握る。固唾を呑み、覚悟を決める。
「コレ……」
 一瞬、姫の手が止まった。
「六月二十六日、宮殿内にて、昼を告げる鐘の音と共に帝国陸軍隊員の暗殺を決行。作戦の遂行は秘密警察に委ねる。昼過ぎには、レナード中将の死体を確認。自殺と断定……」
 姫は、そっと本を閉じた。何、今の…… 暗殺? 秘密警察? いや、それより六月二十六日って今日じゃ…… どうしよう。どうしよう。どうしよう……って、どうしたいの私は? 別に兵士の一人が死のうと私には何も関係ないし、それほど珍しいことじゃない…… 私が悩むことじゃい。なのに…… 
 いや、そもそも……
「本当に死ぬの?」
 直近に見た、中将の顔が頭に浮かぶ。そうだ…… 姫は再び本を開くと、前後のつながりに目をやる。やっぱり……
「六月二十六日、早朝。隣国ルーベルム王国との領土問題解消のために最後の外交を行う。よって、宮殿内のあらゆる権限をイザベラに委ね、私は宮殿を後に……」
 そうだ…… 本来なら、今日お父様は宮殿には居ないはず。とっくに宮殿を離れていないとおかしい。なら、どうして…… 予定を変更したの? 違う。そうじゃない。予定が狂ったんだ。何で…… 姫は手に持った本をじっと見つめた。
「ハァ…… どうしたもんかな……」
 男が壁にもたれ弱音を吐いていると、静かに部屋の扉が開いた。
「ねぇ。ちょっと良い?」
 半開きの扉から僅かに顔を覗かせる姫。少し照れくさそうに話す。
「姫様…… ああ…… 良かった! もう、このまま出てこなかったらどうしようかと思いましたよ。さあ、教皇聖下が帰られる前に早く……」
「今何時……」
「えっ…… 別に時間は関係ないんですが……」
「だから、今何時か聞いてるんだけど。分かんないの?」
 護衛の男は、徐に懐から懐中時計を取り出す。
「十一時五十五分ですね。もうそろそろ昼の鐘が鳴る時間です。それがどうかしましたか?」
 後五分…… 姫は部屋の扉を開けると、何も言わぬまま一人足早に歩き始めた。男は、必死にその後を追う。
「姫様? 玄関でしたら、こちらの階段からの方が早いですよ? 姫様?」
 まるで何かにでも取り憑かれたかのように無心に足を動かす。そして、姫は足を止めた。
「……リアナ皇女?」
 一人の兵士が問う。しかし、姫は一言も声を発することなく、困惑する兵士の瞳をじっと見つめた。