すでに16時を回った冬のこの時期はすでに暗さが上回っている。生徒会委員は恋実以外誰もいない。なんだか早く帰りたくなってきた。
因みに恭吾は帰宅部だ。
「いいか、恋実も分かっているようにここはスマホの電波も届かない。その上、正月からの積雪によりただでさえ少ない外部からの往来は途絶えている、つまり陸の孤島だ。
誰もが学校と家しか立ち寄っていない。近親相姦でないなら校内の人間による犯行、ある意味考えようによっては大きな密室事件とも言える」
放課後、恋実の待つ生徒会室へ来るやいなや話し出す恭吾。まるで恭吾が来るのを待ちわびていたかのような恋実の想いは、一瞬のうちに消し飛んだ。それにより恋実は悟った……。
(これは母性……大いなる愛を試されている……どんなに愚者を目の前にしても慈愛の心を忘れてはいけない……私は今、菩薩になった)
「密室とか言いたいだけでしょ。雪だって全然積もらなかったし」
菩薩の境地に立った恋実は優しく微笑みで返す。
「その方が事件っぽいだろ」
やはり愚者だ、と恋実は思った。
「ま、どっちにしろ人の行き来も少なければ、みんな学校と家との往復だけだろうけど……」
恋実のテキトーな返答を他所に、恭吾の勢いは増してくる。
「だろ?! 寄り道するところだって何もない……観光地でもないのに自動販売機のジュースは一本200円もするし、テレビだって一週間遅れだ」
「テレビはタイムリーでしょ」
会話が弾んできた。
恋という経験値の少ない二人の男女にとって、放課後は他に誰もいない教室という状況をドラマチックに演出させる。
この他愛もない言葉のやり取りは、やがて時間と空間によって二人を魔法にかける……恋実は確かにそう思った。