的山高校はスマホの電波も届かない山奥の高校だ。
1時間に1本のバスで通うものもいるが、自転車での通学が大多数である。
特に『弁慶の七もどり(本来の意味とは違う)』と呼ばれる最後の上り坂によって女子の足が太い者が多い。
バス通いの来栖優香は当然の美脚……そして学校一の美少女だ。中学校の違う恭吾にも、当時からその美貌は轟いていた。
都会へ出るにも交通の便も悪く、故に近隣の中学(かなり離れているが)の人間ほぼ全員がこの的山高校へと進学する。
学区という高い高い壁があり、その壁を超えるとそこには巨人がいて、俺たちは壁の中でしか生きられないと小さい頃教わった気がしている。
現に学区を飛び出していった中学の恭吾と仲の良くない同級生一人は音信不通だ。
そんなこともあって学力もピンからキリまでで、1クラス40名、学年3クラス、全校生徒360名の小さな高校である。
勿論、照明がLEDでないことから分かるように歴史ある貧乏高校だ。
そして小さいコミュニティのあるある……噂はすぐに広まり、知らない者などいないし、知らないことなどないという事である。
当然のように『優香ちゃんの手』のことは恋実も知っていた。
個人情報保護なんて法は事実上、ここには存在していない。
恭吾は内ポケットから生徒手帳を慣れた手つきで取り出すと、栞が挟まれていたかのように目的のページを開くと、そのページを目で追う。
(華咲恋実……父和明、母真央の長女。妹(中三)と弟(中二)がいる。9月27日生まれのてんびん座でO型。足のサイズ23.5。
実は優香ちゃんに次ぐ美脚。左の鎖骨、首側から3cmのところに黒子有り。趣味はお菓子作り。今年の夏休み明けからシャンプーはナチュラル系の香り。
好きな男子は『俺』ではないはず。昨日の晩御飯はカレーライス……恐らく朝は残りでカレーうどん。
今女子で人気の『ニャンピース』のグッズに夢中、と)
それはベテラン刑事の警察手帳のように使い込まれた生徒手帳であった……。