@ 35話 出会い
ー/ー
「バイトのあんちゃん、このおでん舐めただろ? な?」
「部長、止めてくださいよ。あ、これも買って良いですか?」
「田中、好きなの買って良いぞ、戻って飲み直しだ」
「部長、田中はいませんよ、今日は不参加です」
「昔は飲むのも仕事っつってな? 毎日二日酔いで出勤当たり前! ガハハハ」
まだ20時だって言うのにもう酔っ払いかよ……夏陽は部活の居残り自主練の帰りに寄ったコンビニでこれに出会った。
「それ、さっさと会計して」
「袋はご利用されますか?」
「これはすぐ飲むんだよ、そんぐらい分かんだろ?」
「部長、ここは自分が……こっちのは袋ちょうだい」
「いいよ、ほら、これで払え……あ、そうだポイントカード、はこれ」
「レジ、変わるよ」
見かねた同僚バイトが絡まれてた店員とチェンジする。それにしても一体何時から飲んでるんだろうか? 用が済んだらさっさと退けばいいのに、うだうだ酔っぱらいは……。
「酔っぱらっちゃったから、ちょっと頭冷やそうっかなー。なーんちって」
「あ、お客さん、お止めください」
酔っぱらいに1人がアイスのショーケースに頭を入れる素振りをする。それを制したおかげで絡まれる店員。絡んだ方は一度絡んだ相手を忘れないようだ。
「あんちゃんらバイトの学生連中がバズり目的のノリでやってることだろが?! 18でもう成人なんだろ? ガキがやって良いことと悪いことの区別もつけらんねーで」
もう1人の酔っぱらいが声を大きくする。見ていた夏陽が一歩足を踏み出したその時だった。
「僕は未成年ですけどね……」
大人しくレジを打っていたバイトの男の子が、前置きを一つ入れて、酔っぱらいどもの意識を集める。夏陽も歩を止めた。
(どこかで見たことある顔だな……)
夏陽の彼への印象はそれだった。
「回転寿司等のコンディメントに直接口をつけたりする『バイトテロ』なるものがニュースも見ましたが、確かに意味の分からない『愚行』ですよね。でも部長さん、年齢は50代。すでにこれだけ飲んでいて『戻って飲み直す』との言葉から会社はここから遠くない。部長職についていることからそれなりに在籍年数は長い。そしてあなたはここから更に下りの山田町の方にお住まいのようですから……」
ここまで一気に話し切った妙な圧力がある。彼はこの後何を話すのだろうか? 酔っぱらいも夏陽も思わず引き込まれて、言葉の続きを待つ。
「飲酒運転の規制が最初に強化された2002年には、もうあなたはここで働いていた。そしてこの町に都市電が開通して駅ができたのも同じ年。当時公共交通手段のない山田町にお住いの部長さん……あなたは少なくとも飲酒運転の規制が厳しくなる前まで、酒を飲んで車で帰宅していた『いい歳の大人』だったのではありませんか?」
恐らく部長は図星を突かれたのであろう。この場でなければ普段武勇伝のように話していた『昔ヤンチャしてた』自慢話。話しを否定してしまうわけもいかず、この場で認めるわけにもいかない。
「同じような事案ですが、ここに居る皆さんからしたら、どちらのノリがいいか聞いてみたいと思いますが?」
彼が言いきった後の時間が長い。これは『酔いを醒ますほどの一撃』が決まった沈黙であろうか? それともやはり『酔っぱらいに理屈は通用しない』パターンであろうか? 夏陽は、忘れていた短距離スタート前を彷彿させる緊張味の唾を飲み込む。
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「部長、止めてくださいよ。あ、これも買って良いですか?」
「田中、好きなの買って良いぞ、戻って飲み直しだ」
「部長、田中はいませんよ、今日は不参加です」
「昔は飲むのも仕事っつってな? 毎日二日酔いで出勤当たり前! ガハハハ」
まだ20時だって言うのにもう酔っ払いかよ……夏陽は部活の居残り自主練の帰りに寄ったコンビニでこれに出会った。
「それ、さっさと会計して」
「袋はご利用されますか?」
「これはすぐ飲むんだよ、そんぐらい分かんだろ?」
「部長、ここは自分が……こっちのは袋ちょうだい」
「いいよ、ほら、これで払え……あ、そうだポイントカード、はこれ」
「レジ、変わるよ」
見かねた同僚バイトが絡まれてた店員とチェンジする。それにしても一体何時から飲んでるんだろうか? 用が済んだらさっさと退けばいいのに、うだうだ酔っぱらいは……。
「酔っぱらっちゃったから、ちょっと頭冷やそうっかなー。なーんちって」
「あ、お客さん、お止めください」
酔っぱらいに1人がアイスのショーケースに頭を入れる素振りをする。それを制したおかげで絡まれる店員。絡んだ方は一度絡んだ相手を忘れないようだ。
「あんちゃんらバイトの学生連中がバズり目的のノリでやってることだろが?! 18でもう成人なんだろ? ガキがやって良いことと悪いことの区別もつけらんねーで」
もう1人の酔っぱらいが声を大きくする。見ていた夏陽が一歩足を踏み出したその時だった。
「僕は未成年ですけどね……」
大人しくレジを打っていたバイトの男の子が、前置きを一つ入れて、酔っぱらいどもの意識を集める。夏陽も歩を止めた。
(どこかで見たことある顔だな……)
夏陽の彼への印象はそれだった。
「回転寿司等のコンディメントに直接口をつけたりする『バイトテロ』なるものがニュースも見ましたが、確かに意味の分からない『愚行』ですよね。でも部長さん、年齢は50代。すでにこれだけ飲んでいて『戻って飲み直す』との言葉から会社はここから遠くない。部長職についていることからそれなりに在籍年数は長い。そしてあなたはここから更に下りの山田町の方にお住まいのようですから……」
ここまで一気に話し切った妙な圧力がある。彼はこの後何を話すのだろうか? 酔っぱらいも夏陽も思わず引き込まれて、言葉の続きを待つ。
「飲酒運転の規制が最初に強化された2002年には、もうあなたはここで働いていた。そしてこの町に都市電が開通して駅ができたのも同じ年。当時公共交通手段のない山田町にお住いの部長さん……あなたは少なくとも飲酒運転の規制が厳しくなる前まで、酒を飲んで車で帰宅していた『いい歳の大人』だったのではありませんか?」
恐らく部長は図星を突かれたのであろう。この場でなければ普段武勇伝のように話していた『昔ヤンチャしてた』|自慢《マウント》話。話しを否定してしまうわけもいかず、この場で認めるわけにもいかない。
「同じような事案ですが、ここに居る皆さんからしたら、どちらのノリがいいか聞いてみたいと思いますが?」
彼が言いきった後の時間が長い。これは『酔いを醒ますほどの一撃』が決まった沈黙であろうか? それともやはり『酔っぱらいに理屈は通用しない』パターンであろうか? 夏陽は、忘れていた短距離スタート前を彷彿させる緊張味の唾を飲み込む。