@ 32話 年籠り
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雨の音は『1/f⦅えふぶんのいち⦆ゆらぎ』……天恵の名は、天の恵み=雨?1/fゆらぎは、規則性と突発性、予測性と逸脱性が適度に組み合わさったもので、居心地のよい空間と情報を与え人の心を落ち着かせる。
天気予報では日付が変わる頃から、との予想であったが、雨は早く降り出した。真一は蓮水に聞いた天恵と雨の知識を回想しながら、空を見上げる。暗闇から線となって向かってくる雨が顔を刺す。目を閉じて雨の音に耳を傾けてみる。
「大丈夫だったかな……天恵……」
雨の音は真一を不安にしかさせない。そんな真一をよそに月下の家族たちは揃って家路につく。
明が天恵に聞いた。
「卒業文集、天恵は将来の自分へ何を書いたんだ?」
そう言って持っていた文集を開く。
「え? ちょっと見なくていいよッ!」
恥ずかしがる天恵を揶揄うように開いた文集を覗き込んだ灯。2人の息が一瞬止まったのが分かる。
そこには『美味しい手作りガトーショコラを作る』とあった。
「なぁ……『ガトーショコラの伝説』ってなんだ?」
天恵は摩己が手作りガトーショコラに挑戦したことは知らない。
「摩己さんは……明さんのこと好きだったんだろうな……」
灯が呟いた。その言葉と伝説を知っている天恵は、父・明がバカなことを口に出したと危惧する。しかし灯は明に伝説をきちっと説明した。
ガトーショコラの伝説で摩己はひょっとしたら、『永遠の愛』を手に入れることで『まだやり直せる』と言い聞かせたかったのかもしれない、誰もがそう思った。
「あたしたちが高校3年の時さ、手作りガトーショコラが流行ったじゃない? あのときは明が受験だったし、あたしもお菓子作りなんて得意じゃないからやらなかったけど……じゃーん! ガトーショコラ作ってみました!」
明はそんな風に笑いかける摩己を夜空に想像した。そして滲んだ涙を悟られないように袖で拭う。
「俺はあのとき思い通りにならない運命からバイクに逃げた、それに摩己が死んだときも酒に逃げた……でも……俺もまだまだこれから……ピタゴラスイッチで頑張るよ」
明がそう言うと、灯は天恵へと振り向き言った。
「ボナペティはテリーヌショコラ。当時はインターネットなんて普及してなかったから知らなかったけど……お義母さん、小麦を使ったガトーショコラクラシックは得意なの。来年のバレンタインデーに間に合うよう、天恵ちゃんに教えてあげるわ」
「それって……?!」
「えぇ、離婚の話は撤回するわ」
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天気予報では日付が変わる頃から、との予想であったが、雨は早く降り出した。真一は蓮水に聞いた天恵と雨の知識を回想しながら、空を見上げる。暗闇から線となって向かってくる雨が顔を刺す。目を閉じて雨の音に耳を傾けてみる。
「大丈夫だったかな……天恵……」
雨の音は真一を不安にしかさせない。そんな真一をよそに月下の家族たちは揃って家路につく。
明が天恵に聞いた。
「卒業文集、天恵は将来の自分へ何を書いたんだ?」
そう言って持っていた文集を開く。
「え? ちょっと見なくていいよッ!」
恥ずかしがる天恵を揶揄うように開いた文集を覗き込んだ灯。2人の息が一瞬止まったのが分かる。
そこには『美味しい手作りガトーショコラを作る』とあった。
「なぁ……『ガトーショコラの伝説』ってなんだ?」
天恵は摩己が手作りガトーショコラに挑戦したことは知らない。
「摩己さんは……明さんのこと好きだったんだろうな……」
灯が呟いた。その言葉と伝説を知っている天恵は、父・明がバカなことを口に出したと危惧する。しかし灯は明に伝説をきちっと説明した。
ガトーショコラの伝説で摩己はひょっとしたら、『永遠の愛』を手に入れることで『まだやり直せる』と言い聞かせたかったのかもしれない、誰もがそう思った。
「あたしたちが高校3年の時さ、手作りガトーショコラが流行ったじゃない? あのときは明が受験だったし、あたしもお菓子作りなんて得意じゃないからやらなかったけど……じゃーん! ガトーショコラ作ってみました!」
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「俺はあのとき思い通りにならない運命からバイクに逃げた、それに摩己が死んだときも酒に逃げた……でも……俺もまだまだこれから……ピタゴラスイッチで頑張るよ」
明がそう言うと、灯は天恵へと振り向き言った。
「ボナペティはテリーヌショコラ。当時はインターネットなんて普及してなかったから知らなかったけど……お義母さん、小麦を使ったガトーショコラクラシックは得意なの。来年のバレンタインデーに間に合うよう、天恵ちゃんに教えてあげるわ」
「それって……?!」
「えぇ、離婚の話は撤回するわ」