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第147話 彼の感情論

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「分かっていると思うが、議題は山路が辞めることについて、だ。あの時は急なことでみんなそれぞれ思うところがあっても言葉に出来なかったと思う。あれから一週間それぞれ言葉を用意してきたことだろうからそれをまずは話し合おう。その上で結論を出す時間を設けるつもりだ」

 議題を説明して、流れを決める。
 まるでいつもの話し合いのように樫田が進行していく。

「ああ、そうだ。この話し合い、で頼むな」

 樫田が念押しするようにそう言ったが、みんなはそんなん当然だろうと言わんばかりだった。
 たぶん、俺と山路だけがその言葉の意図を理解している。

「改めて。山路、お前の意志をちゃんと説明してくれ」

 樫田の言葉によって山路へ注目が集まる。
 山路は委縮する様子もなく、淡々と答える。

「一週間前と変わらないよ。僕は春大会が終わったら部活を辞める」

「……ああ。でもそれじゃあ説明責任を果たしていないだろ」

 一瞬、山路と樫田が睨みあう。だがすぐに山路は笑顔になった。
 分が悪いと思ったからか、それとも何かを誤魔化したのか。
 山路の肩から少し力が抜ける。

「そうだねー。あの時最後に約束したもんねー。言葉を考えておくってー」

「山路」

「大丈夫だよ樫田。時間稼ぎをするつもりはないよ」

 そう前置きする。
 全員と目を合わせるように教室内を見渡した後、山路は少し下を向きながら語りだした。

「さて、説明責任って言っても、ここから話すのはきっと僕の感情論だ。思いの丈ってやつだ。だから、ハナからみんな納得させる気はない」

「…………」

 落ち着いた声。まるで役に入ったからのような冷静さを感じる。
 誰もが、山路を見守り言葉を待った。

「僕が演劇部を辞めるのは、ここに青春を感じなくなったから。そして、これからのみんなの青春に共感できないから」

 それはある程度予想の出来た理由だった。
 フードコートで集まった時に出た結論の一つ。
 動揺することのない雰囲気を山路は読み取る。

「みんながこの一週間でどんな話し合いをしたか知らない。けどその様子からして、ここまでは知っているんだね」

 山路にとっても想定内だったのか、そんなことを言う。
 異様な雰囲気の中で山路は続ける。

「椎名と杉野には聞いたね。全国を目指すんでしょ? って。はっきり言って僕にはその熱量はない」

 面と向かって言われると、堪えるものがあった。
 そして、山路はそこでは終わらない。

「かといって、増倉が目指すような楽しい部活がいいってわけじゃないんだ……おかしいのは分かっているよ。端役(はやく)の僕が部活に何かを望むなんてね。バイト優先で部活をサボっていたような奴がさ」

 自虐的に笑う山路を、誰が責められるものだろうか。
 静かな教室で山路は再度みんなを見渡した。

「女子たちが知っているか分からないけど、今回の劇、僕も主役を狙ったんだ。杉野に負けたけどね。今更後悔している。ちゃんと部活してればなぁって。ちゃんとみんなと向き合っていればなぁって。でもね。それをする度胸も熱量も僕にないことを僕が一番よく知っているんだ」

 あくまでも冷めたまま、山路は感情を吐露する。
 それは諦観のように脱力していて、達観するように遠くに在った。

「僕はね。椎名のような立派な志もないし、増倉のように献身的な情け深さもない。夏村のように演劇に一途にあろうとはできないし、大槻のように自分を弁えてない。樫田のように自分の立場に徹することもできないし、杉野のように人を動かすだけの情熱もない。僕はここにいると劣等感を覚えるんだ」

 一人一人を見ながら、山路は語った。
 それは山路から見た俺たちなのだろう。
 知らなかった。そんなことを思っていたなんて。

 けど、けどよ山路。それが違う。違うんだよ。
 否定したかった。今すぐにでも叫んで、拒んで、訂正したかった。
 俺は拳を強く握り、言葉を飲み込んだ。
 まだだ、まだそのタイミングじゃない。

「頭にも言ったけど、納得してほしいわけじゃない。申し訳ないとも思っている。けど、僕は春大会で演劇部を辞めるよ」

 山路はそう締めくくった。
 ほんの数秒流れる沈黙が重苦しかった。
 樫田が山路に確認する。

「山路。それで全部か?」

「うん。僕が言いたいことは、これで全部だよ」

「……そうか。分かった」

 樫田はそう言うと、話を進め出す。
 俺は少し意外に思いながらも、流れに身を任せる。

「山路の意志は分かった。で、だ。ここから先はみんな各々の言いたいことを言ってもらうわけだが、山路以外他の人が喋っている時に口出しは禁止な。反論の時間は後でやるから…………それじゃあ、一番初めに言いたい奴はいるか?」

 樫田の言葉に一瞬、みんなけん制し合うかのようにそれぞれの顔色をうかがった。
 そんな中、彼女が素早く手を挙げた。


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次のエピソードへ進む 第148話 彼を前に一途な彼女は問う


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「分かっていると思うが、議題は山路が辞めることについて、だ。あの時は急なことでみんなそれぞれ思うところがあっても言葉に出来なかったと思う。あれから一週間それぞれ言葉を用意してきたことだろうからそれをまずは話し合おう。その上で結論を出す時間を設けるつもりだ」
 議題を説明して、流れを決める。
 まるでいつもの話し合いのように樫田が進行していく。
「ああ、そうだ。この話し合い、《《嘘はなし》》で頼むな」
 樫田が念押しするようにそう言ったが、みんなはそんなん当然だろうと言わんばかりだった。
 たぶん、俺と山路だけがその言葉の意図を理解している。
「改めて。山路、お前の意志をちゃんと説明してくれ」
 樫田の言葉によって山路へ注目が集まる。
 山路は委縮する様子もなく、淡々と答える。
「一週間前と変わらないよ。僕は春大会が終わったら部活を辞める」
「……ああ。でもそれじゃあ説明責任を果たしていないだろ」
 一瞬、山路と樫田が睨みあう。だがすぐに山路は笑顔になった。
 分が悪いと思ったからか、それとも何かを誤魔化したのか。
 山路の肩から少し力が抜ける。
「そうだねー。あの時最後に約束したもんねー。言葉を考えておくってー」
「山路」
「大丈夫だよ樫田。時間稼ぎをするつもりはないよ」
 そう前置きする。
 全員と目を合わせるように教室内を見渡した後、山路は少し下を向きながら語りだした。
「さて、説明責任って言っても、ここから話すのはきっと僕の感情論だ。思いの丈ってやつだ。だから、ハナからみんな納得させる気はない」
「…………」
 落ち着いた声。まるで役に入ったからのような冷静さを感じる。
 誰もが、山路を見守り言葉を待った。
「僕が演劇部を辞めるのは、ここに青春を感じなくなったから。そして、これからのみんなの青春に共感できないから」
 それはある程度予想の出来た理由だった。
 フードコートで集まった時に出た結論の一つ。
 動揺することのない雰囲気を山路は読み取る。
「みんながこの一週間でどんな話し合いをしたか知らない。けどその様子からして、ここまでは知っているんだね」
 山路にとっても想定内だったのか、そんなことを言う。
 異様な雰囲気の中で山路は続ける。
「椎名と杉野には聞いたね。全国を目指すんでしょ? って。はっきり言って僕にはその熱量はない」
 面と向かって言われると、堪えるものがあった。
 そして、山路はそこでは終わらない。
「かといって、増倉が目指すような楽しい部活がいいってわけじゃないんだ……おかしいのは分かっているよ。端役《はやく》の僕が部活に何かを望むなんてね。バイト優先で部活をサボっていたような奴がさ」
 自虐的に笑う山路を、誰が責められるものだろうか。
 静かな教室で山路は再度みんなを見渡した。
「女子たちが知っているか分からないけど、今回の劇、僕も主役を狙ったんだ。杉野に負けたけどね。今更後悔している。ちゃんと部活してればなぁって。ちゃんとみんなと向き合っていればなぁって。でもね。それをする度胸も熱量も僕にないことを僕が一番よく知っているんだ」
 あくまでも冷めたまま、山路は感情を吐露する。
 それは諦観のように脱力していて、達観するように遠くに在った。
「僕はね。椎名のような立派な志もないし、増倉のように献身的な情け深さもない。夏村のように演劇に一途にあろうとはできないし、大槻のように自分を弁えてない。樫田のように自分の立場に徹することもできないし、杉野のように人を動かすだけの情熱もない。僕はここにいると劣等感を覚えるんだ」
 一人一人を見ながら、山路は語った。
 それは山路から見た俺たちなのだろう。
 知らなかった。そんなことを思っていたなんて。
 けど、けどよ山路。それが違う。違うんだよ。
 否定したかった。今すぐにでも叫んで、拒んで、訂正したかった。
 俺は拳を強く握り、言葉を飲み込んだ。
 まだだ、まだそのタイミングじゃない。
「頭にも言ったけど、納得してほしいわけじゃない。申し訳ないとも思っている。けど、僕は春大会で演劇部を辞めるよ」
 山路はそう締めくくった。
 ほんの数秒流れる沈黙が重苦しかった。
 樫田が山路に確認する。
「山路。それで全部か?」
「うん。僕が言いたいことは、これで全部だよ」
「……そうか。分かった」
 樫田はそう言うと、話を進め出す。
 俺は少し意外に思いながらも、流れに身を任せる。
「山路の意志は分かった。で、だ。ここから先はみんな各々の言いたいことを言ってもらうわけだが、山路以外他の人が喋っている時に口出しは禁止な。反論の時間は後でやるから…………それじゃあ、一番初めに言いたい奴はいるか?」
 樫田の言葉に一瞬、みんなけん制し合うかのようにそれぞれの顔色をうかがった。
 そんな中、彼女が素早く手を挙げた。